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146話 その後の新全日本女子プロレスの4人(聖クリ慰問女子プロレス編 終了)


 壮絶なファイナルマッチの決着に生徒達は、


Ω≪はははは! キラなんだよ!? あの無様な姿!?

ΩΩΩΩΩ≪ワタシは無様とは思わねえけどな……

Ω≪え?

ΩΩΩΩΩ≪キラは強かっただろ? オマエ? 京極に本気出させて、あんな姿にされるまでのタイマンできるか?

Ω≪なんだよ…… みんな……

ΩΩΩΩΩ≪キラは、あの京極相手にすげえタイマンをしたって事だよ


 生徒の1人がパチパチと拍手をすると、体育館中から拍手が……



 神鳥は拍手の最中に起き上がり、体育館を一周見渡して、


「負けた広田にみんなが拍手? 完全アウエーだったのに?」


 体育館の出口へ、赤銅と歩む京極の背中の『卍』のスカジャンを見つめながら、両ヒザをガクッとマットに落とし、


「やっぱり…… 京極は、広田の一発目のドロップキックをワザと受けたんだ……」


 神鳥の肩をフリーライターの野村が叩き、


(´෴` )≪35年前の大宮スケートセンターのメインイベントを覚えてるよね」


「はい……」


(´෴` )≪ジャッキーはあの試合を負ける台本ブックで戦っていた。 それに対し君はジャッキーを一方的に攻撃し右腕を完全に折り引退させた


「……ジャッキーが負ける台本だったんですか?」


(´෴` )≪離脱独立を計ったジャッキーへの見せしめに当時の社長は、アメコング含むジャッキーを慕う新人4人を解雇にすると言った。 しかしジャッキーは社長に必死に土下座して、4人を解雇しない替わりに君に世代交代させる様に願い、社長は受け入れた


 神鳥は、京極が消えた出口を真っすぐな目で見て、


「私に、ジャッキーや京極の様な任侠にんきょうがあったら…… プロレス界をこんなにも衰退させなかった……?」


注:任侠とは、仁義を重んじ、困っていたり苦しんでいたりする人を見ると放っておけず、彼らを助けるために体を張る自己犠牲的精神や人の性質を指す語。

 





 山田カリンは、広田キラの両足を持って引きずり上げてリングに寝かせる。 広田キラのピクピク動く指を見て、


ーー「良かった生きてる」


 病院から戻って来たアメコングが走ってリングに上がり、広田キラを見下ろして、


「広田は負けたみたいだな?」


ーー「はい、でも…… この寝顔を見てくださいよ?」


「すごく嬉しそうだな?」


ーー「最高のドロップキックを京極に喰らわせたからでしょう」


 神鳥が来て、


「おい、オメエら今まで世話になったな?」


 神鳥を見た、アメと山田カリンは声を揃えて、


「「社長?」」


「もう社長じゃねえよ……」


 神鳥はアメコングと向かい合い、


「アメ……」


「なんですか社長?」


「だから社長じゃねえっての。 今からアメ……オメエが新全日本女子プロレスの社長だよ」


 神鳥の優しい顔を見たアメコングは、


「……分かりました。 頑張ります」


 アメコングの目を見る神鳥は自分自身の胸を拳で二回叩いて、


「こんな私に…… 今まで付いて来てくれてありがとうよ」


「プロレスが好きですから」








 二週間後の平日の大雨の夜。


 岐阜県の下呂温泉にある小さなスナック『ジャッキー』では、グラスを洗う30代従業員の女と、ボックス席に横になりケイタイでユーチューブを見ている60代のスナック『ジャッキー』のママの姿が、


「おかあさん、この安物の洗剤やめてよ~手が荒れちゃうんだから~」


「うるさいわね~ 離婚して帰って来て、ココで働かせてやってるのに文句が多いっちゅうの」


 洗い物を終えたジャッキーの娘はタオルで手を拭いた後に、壁に張られている35年前のジャッキーのポスターを見つめ、


「おかあさん? もうこれいい加減に外したら?」


「はあ?」


「古すぎるでしょ? 正直……汚くない?」


 ジャッキーママは、寝ながら真剣にポスターを見て、


「そうね…… あんたも帰って来たし…… これからはアンタの時代だからね…… 外した方が良いかもね……」


「じゃあ外すね」


 娘がポスターを外そうとした時……


 カラ――ン


 店のドアが開き神鳥が入って来た。


 娘は、


「いらっしゃいませ~、あれ? もしかして神鳥シノブさんじゃないですか?」


「そうです。 あのジャッキーさんはいますか? そのポスターの人です」


「おかあさんですね? いますよ、そこに」


 娘はジャッキーママの座っているボックスを指差すと、神鳥は向き、頭を下げて、


「ジャッキーさん、お久しぶりです」


「35年ぶりだね? 神鳥、まだ現役で頑張ってるね?」


 神鳥はジャッキーママの前に歩き、


「ココに座っていいですか?」


「もちろん良いよ、神鳥よく来てくれたね? 何を飲む?」


「ビールをお願いします」


 ジャッキーママは娘に、


「ビールをジャンジャン持って来て、神鳥は強いからね。 鹿児島巡業の時に二人で朝まで飲んで焼酎を何本も空けたよね神鳥?」


「はははは、説教されっぱなしでしたよ」


「神鳥まだ世間知らずのガキだったからね? 今日は天気も悪いし他に客が来るか分からないから売り上げに貢献してよ?」


「了解です」


 神鳥はジャッキーのグラスにビールを注いだ。



 

 それから神鳥、ジャッキーママ、娘で話をする……


 一時間ほど経ち、


 カラ――ン


 新たな客が1人、入りカウンターに座り、娘はカウンターに対応に行く。


「いらっしゃい! 吉田さん! こんな天気が悪いのに来てくれてありがとう!」


『いえいえ、ビールちょうだい』




 ボックスは二人だけになり、ジャッキーが神鳥のグラスにビールを注ぎ、


「誰にここを教えてもらった?」


「野村さん(´෴` )です」


「そう……」


 神鳥はグラスを強く握り、


「じつは私…… 私……」


「どうした? 言ってみろ? 私は神鳥の先輩だよ?」


 神鳥の目からぽろぽろと涙がこぼれ、


「引退して…… 新全日本女子プロレスの社長も辞任しました」


「泣いてるのは悔いがあるからかい?」


「はい……正直……あります」


「神鳥、今日ワタシも、あそこに貼ってある35年前のポスターを外そうと思ってた」


 ポスターを見た神鳥は、


「大宮スケートセンター大会のポスター?」


「カウンターを見てごらん? 娘が帰って来て、この店をやる気になってるんだ…… 娘のやりやすいように、やりたいようにさせてやりたいからだよ」


 ジャッキーは昔、折られた右手で、神鳥の左手を握る。


「神鳥、現役を一生懸命がんばったな?」


「ああああぁぁぁ」


 ジャッキーは、涙が止まらない神鳥に、


「神鳥のユーチューブも登録してるよ? 激辛ラーメン完食すごかったね? 本当に頑張ってる」


「はあああ……はあ…… ジャッキーさんから団体の看板を受け継いだのに…… 私は… 私は…… 自分の事しか…… 自分の事しか……」


 ジャッキーは神鳥の涙を流す目を見つめ、


「神鳥? 札幌でワタシのヒジが目に当たってごめんね?」


「そんな事、もう気にしてないですよ……」


 ジャッキーは右手で握っている、神鳥の左手を強く握り、


「神鳥…… 悪いのはワタシなんだ…… ワタシがカネに目が眩んで独立なんてしようとしなければ…… しっかりと神鳥にバトンを渡せたんだ……」


「35年前にジャッキーさんが守ったアメなら、きっと……」


「まさか、あの雨宮アメが神鳥の次の社長?」








 10年後、東京ドーム。


 放送席にはアナウンサーと新全日本女子プロレス社長アメコングの姿が、


≪さあ! ついに新全日本女子プロレス東京ドーム大会メインカード! シングル王者山田カリンに! 広田キラが挑みます!! 解説には新全日本女子プロレス社長のアメコングさんにお越しいただきました!」


「よろしくお願いします」


≪すでに超満員の観客はヒートアップしてますね! アメコングさんはどういう試合を期待していますか!?≫


「山田と広田の二人にしかできない、最高のプロレスを期待しています」




 スタンド席の中腹には神鳥とジャッキーが並んで座っている。





≪トゥーン……タタタタタタタタターラン≫



 挑戦者広田キラの入場曲『不協和音(演奏のみVersion)』が流れる。


 リングサイドの最前列の車イスの広田の妹は口の前で両手で輪っかを作り、


「キーラ!!! キーラ!!! キーラ!!!」


 妹の声に呼応するように、東京ドーム全体から、



「「「「キ―――ラ!!! キ―――ラ!!! キ―――ラ!!!」」」」







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