136話 聖クリ慰問プロレス 追加ファイナルマッチ決定!
35年前の夏の夜、五反田のラーメン屋『豚野郎』
高い所にある14インチテレビではプロ野球の巨人大洋戦が放送されている。
≪原! 打ちました! レフト~前! 巨人サヨナラ! サヨナラ!≫
Ω≪よし
Ω≪勝った!
巨人サヨナラ勝ちの直後、ジャージ姿の6人がラーメン屋『豚野郎』に入る。
女子プロレス団体のジャージ姿の6人に客はチラチラと見る。
座敷のテーブルを囲むと、女の従業員が、
「ジャッキーさんいらっしゃい、注文は?」
上座に座るショートヘアーのジャッキーは、
「豚野郎セット5、ワタシはギョーザと瓶ビールで」
「はい」
従業員が注文を通しに行くと、ジャッキーは、
「食べるのも練習だぞ?」
「「「「いただきます」」」」
豚野郎セットが運ばれ、若手はガツガツ食べる。
ジャッキーの右手前の中堅レスラーが隣の若手に、ラーメンとチャーハンを寄せ、
「雨宮、このラーメンとチャーハンやるよ」
「いただきます」
中堅レスラーはジャッキーの開いたグラスに瓶ビールを注ぎ、
「ジャッキーさん? 社長と何を話していたんですか? 部屋から出た社長はいつもと違ってましたけど……」
ビールを一口で飲み干したジャッキーは瓶を持って、
「飲め」
「はい」
中堅レスラーは水を飲み干し、ビールを注いで貰った後に、
「やっぱり…… 観客動員が減ってる件ですか? それとも、もしかして……独立の話がバレた……?」
「ああ…… 両方だけど…… 主に独立だな…… ゲーム会社の岩井社長と話が進んでいたのがバレてた……」
「それで?」
「社長が、岩井社長に脅しをかけて無理になったよ」
「残念ですね、資金も無いし経営のノウハウ知らない私とジャッキーさんで独立なんて無理だし」
「それどころじゃないんだ……」
ジャッキーは中堅レスラーに耳を近づけ、
「社長は、ワタシが独立しようとしたペナルティに…… 今、ココに連れてきているワタシを慕ってくれている新人4人を解雇すると言ってきた」
「そんな…… こいつら全員、プロレスラーになりたくて中卒で入団してきたんですよ……」
「当然、ワタシも精一杯の意見をしたよ…… それで、出された条件が……ワタシと神鳥の再戦だ」
「神鳥と?」
「ワタシが負ける台本の試合…… まだ、その試合をするか答えて無いけど」
全てを食べ終え満腹の新人4人にジャッキーは話しかける。
「お前たち、プロレスが好きか?」
≪はい!≫
≪好きです!≫
≪大好きです!≫
≪早く、お客さんの前で試合したいです!≫
「雨宮は顔が優しすぎるから顔にペイントをした方が良いかもね」
≪はい! デビューしたらします!≫
「お前たち、プロレスが好きでプロレスラーになったなら……」
ジャッキーは胸を、拳で強く叩き、
「プロレスラーである事に、胸を張って欲しい」
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現代
試合が決着し、控室の体育倉庫へ戻るモアイへ聖クリ生徒から声援が、
ΩΩ≪やるじゃねえかモアイ! むっちゃ強えな!
ΩΩ≪モアイ! 神鳥討伐おつかれ!
ΩΩ≪もし聖クリ四天王さんに勝つ事ができたら! もうオメエが聖クリの番長でいいぞ!
青髪⦿⦿≪モアイあんなに強かったのかよ……
白髪⦿⦿≪それにしても新全日本女子プロレスはもう終わりだな?
緑髪⦿⦿≪看板レスラーが素人に惨敗だしな? 聖クリの生徒にもたくさん動画も撮られてるし
赤銅はブツブツと……
「ワタシの狂獄軍団… モアイまで派手に全国デビューかよ…… ワタシも… ワタシも… ワタシも…」
体育倉庫に入ったモアイはスライドドアをバン!と締め、前に立つ京極と、
パン☆
ハイタッチ。
壇上裏の控室では……
脳震盪の安静状態のために床で寝る広田キラの耳に声が聞こえる。
神鳥「カリン! オメエ舐めた口叩きやがって、ぜったい覚えてろよ! 道場でぶっ殺してやる!」
山田カリン「もう黙ってくださいよ。 ワタシはプロレスを辞めたんですから? もう関係ないじゃないですか?」
神鳥「なら! 辞めろ辞めろ! アメ帰るぞ!」
アメコング「社長、校長の警備がありますからまだ帰れませんよ」
神鳥「ちっ…… アメ? クリスチーヌさんの警備が終わったら解散だからな?」
アメコング「解散?」
神鳥「新全日本女子プロレスを解散すんだよ。 クリスチーヌさんから貰った500万の内、ワタシが400万貰うから後はアメにやるよ。 もうワタシはプロレスも辞める」
アメコング「社長…… 本気で言ってるんですか?」
神鳥「本気だよ。 今回のワタシのケガも、診断書に後遺症も盛ってクリスチーヌさんに請求するわ」
アメコング「とりあえず、後で話しましょう…… さあ警備に行きましょう。 カリンも警備を手伝ってくれ、頼む……」
山田カリン「アメさんの頼みなら……分かりました」
バタン。
ドアが閉まった。
仰向けで寝る広田キラは、ぬ~っと背中を上げた後に、胸を拳で強く叩き、
「ワタシは負けない…… 何はあってもココだけは絶対に負けないんだ……」
近くで、神鳥に締め落とされて仰向けで眠っていたはずの黒河内から、
≪きひひひひ、くっっだらねえな~? プロレスラーのオメエら~?≫
スッと立ち上がり、広田キラを見下ろし、
≪さっさとプロレスなんて辞めて、聖クリにでも来いよ≫
広田キラは目を合わせる事もなく、
「聖クリで誰が一番強いんですか?」
≪あ? んなもん京極一択だろ≫
「社長を倒したモアイより?」
≪強いに決まってんだろ? そんな事を聞いてなんだよ?≫
「ワタシが京極を倒せば…… 社長の負け、いやプロレスの負けなんて帳消しに等しい…… いやそれ以上だ……」
≪オメエ…… 京極を知らねえから、そんな馬鹿な事を想像できるんだろうな?≫
その時、
【黒河内! 出てこい! メインイベントだ!! 死ぬ覚悟があるなら出てこい!!】
≪おっと、これからワタシに殺される伊崎が呼んでるな?≫
黒河内はタバコ(アメリカンスピリット)に火をつけて吸った後に、広田キラを見下ろして、
≪オメエ…… 本当に京極と戦いてえのか?≫
広田キラは覚悟を決めた眼差しで見上げ、
「はい」
黒河内はドアへ歩み、外へ出る。
リング上にはすでに伊崎カナエが立っている。
黒河内はニタ~~と笑みながらリングへ歩く……
黒河内の登場に聖クリ生徒は、
ΩΩ≪ついにメインイベントだー!
ΩΩ≪無敗街道と赤リボンのデスマッチ!!
ΩΩ≪どっちが勝つか全然よめねええ!!
黒河内はリングサイドの、新全日本女子プロレスのレスラーが囲む校長の座る机の上のマイクをサッと取り、
≪伊崎、今から開校式のタイマンの白黒つけてやるぜ!!≫
ガンで見下ろしてくる伊崎を見上げた後に、顔を下に向け笑った後に、
≪それとよ~~京極はどこだ~~≫
ΩΩ≪黒河内! まさか伊崎の次に京極とやる気か!
≪どこに隠れてる? 姿を現せよ~?≫
体育館のスライドドアが開くと、京極茜の姿があった。
≪京極~~ オメエはタイマン売られたら、誰でも買うんだよな~~≫
その時…… 壇上の幕の狭間から赤いコスチュームの広田キラが姿を現す。
ΩΩ≪おい! 壇上にキラちゃんだ!?
山田カリン「広田?」
アメ「どういうこと?」
神鳥「広田が……京極とタイマン?」
ΩΩ≪ぎゃっはははっはっは
ΩΩ≪ぜってえアレだろ! キラちゃん黒河内に無理やり、やらされてんだろ!
ΩΩ≪キラちゃん! 土下座しとけよ! ドロップキックで倒せる相手じゃねえぞ!
(●≫¶≪●)―――――――――≪●≫≪●≫
ガンを飛ばしあう両者に、
ΩΩ≪え?
ΩΩ≪どういう事?
ΩΩ≪キラちゃん? なんか雰囲気が違う? まさか……京極に勝つ気?
≪今日の慰問プロレスのファイナルマッチは京極茜vs広田キラのデスマッチ! つまり!! 京極によるプロレスラー血祭りショーだぜ!!≫
マイクを捨てた黒河内は軽やかに、伊崎カナエの待つリングに上がった。