135話 老害
広田キラが運ばれて、リングに一人残った神鳥シノブはマイクを持ち!
「聖クリ代表の挑戦者! さっさと出てこい! 京極茜の前にぶっ潰してやる!」
神鳥はマイクを捨てた。
体育倉庫の中では、跳び箱を背に座る京極は目を瞑りながらセッタ(セブンスター)を吸い、
≪やっぱり神鳥はモアイの事は眼中にねえみたいだな≫
スライドドアの前で立つモアイは、
「京極…… 神鳥はワタシがリスペクトしてる格闘家だけど、神鳥はとっくの昔にピークが過ぎている。 ワタシが格闘のトップを目指している以上、56歳の人間に絶対に負けるわけにはいかねえ……」
≪なら…… オメエが神鳥に引導を渡してやれよ……≫
京極は立ち上がりスライドドアの取っ手を掴み、
≪行ってこい、5分もあれば十分だろ≫
ズ―――――――
体育倉庫が開くと、
Ω≪アイツが聖クリの代表? モアイみたいな顔だな?
Ω≪かなりデカいな?
Ω≪知らねえのか? あのモアイ顔は京極をそこそこ追い込んだって話だぜ
Ω≪マジ?
モアイはリングへ歩く。
リング下に着くとリングの真上の神鳥を見つめる……
上の神鳥はロープ越しに手をカモンカモンして、
【さっさと上がってこいよ? ビビッてんのかよ?】
リングに上がったモアイ(196センチ)は、目の前の神鳥(175センチ)を見下ろして、
「神鳥さん、あなたに憧れています」
【あ?】
「30年前に神鳥さんがラスぺガスに乗り込んでエリザベス・プジョーを三角締めで落とした試合が一番好きです。 特に……大番狂わせした時の会場の何とも言えない雰囲気が」
【なんだオメエ? ワタシのファンか? 分かった優しく料理してやる】
「ガチでお願いします」
【なに?】
神鳥、モアイの両足を見る……
【それなりに鍛えてんな?】
次に両手を見る……
【なんだそのコブシ? 火傷でメリケンサックが一体化かよ? 反則じゃねえか? ……分かったよ。 オメエがガチって言ったんだからな? 後で何があっても文句言うなよ】
神鳥はコーナーに戻る。
モアイはリングインして向かい合う神鳥を見つめながら心の中で……
昔の神鳥はプロレスラー兼ワールドクラスの格闘家。
だけど今の神鳥は……
プロレスを自己顕示に使ってる老害。
56歳になった未だにトップのポジションを誰にも譲る気が無い。
真の女子プロレス復興を唄う新全日本女子プロレス?
今まで何人の若いレスラー達が去って他所の団体へ移った?
新全日本女子プロレスの当初はたくさんいたファン達も、若いレスラーが台頭し始めた他所の団体へ何人移った?
カ―――――ン
試合開始!
モアイは握手のために右手は差し出す。
しかし!
ガチン!!
神鳥の素手の拳がモアイの鼻頭にめり込んだ!
【ガチで隙見せんじゃねえよモアイ!!】
神鳥!
ダウンを奪い得意の寝技に持っていくために、ひるんだモアイに重心を低くタックル!
その一瞬……
モアイのカウンターのヒザが、神鳥の顔面に完全に突き刺さった。
結果、倒れたのは神鳥シノブ。
モアイは倒れて隙だらけの神鳥に!
馬乗りになり!
鉄の拳を神鳥の頭部に喰らわせる!!
ガン! パン! ガン! ガン! パン!
神鳥が顔の正面を両手で隠せばサイドを鉄の拳で殴る、顔のサイドを隠せば正面を殴る。
Ω≪おい! もう無理だろ!
Ω≪あの体格差じゃ、あの態勢から逃げられねえだろ!
パン! ガン! ガチン!
痛! 鼻が!? マジかよ!?
このメリケンサックと一体化してる拳…… 反則だろ?
素人のクセにワタシの鼻の骨を折りやがって……
調子に乗りやがって…… マウント解けたら確実に潰してやっっ
ぶっ
前歯が折れた……
ぶっ
ほお骨が割れた?
ぎ!
前頭の頭蓋骨が割れた!?
うっ……やばい…… タップ……しねえと……死っ
カ―――――――――――ン
なんだ? 終わった? TKO?
マスコミが来てない慰問プロレスで良かったかも……
Ω≪新全日本女子プロレスのセコンドがタオル投げやがった!
Ω≪プロレスラーが素人に降参しやがったぜ!
Ω≪1分持たずかよ? プロレスラーよえええ…… てか神鳥よええ…
Ω≪いや! 聖クリが最強なだけだろ!!
アメがタオルを投げてくれたのか?
なら……
勝者のモアイがマウントポジションを解くと、神鳥はすぐに立ち上がり、近づいてきたアメコングと山田カリンのセコンド二人に、
【こらあ!! アメ!! まだワタシは戦えたぞ!?】
原型の無い顔でまくし立てる…
アメは悲しい顔で、
「社長…… ワタシじゃないですよ……」
【あ? じゃあ誰だよ?】
「カリンです」
【カリンがワタシの試合にタオルを?】
神鳥はアメコングの横の山田カリンを見て、
【カリン…… なんで勝手な真似しやがった?】
山田カリンは神鳥の顔をまっすぐ見つめ、
「タオル投げてなかったら死んでましたよ」
【死んでねえよバカ……】
神鳥のフラフラの拳が山田カリンの頬にカスっと当たる。
山田カリンは神鳥に背を向けて、
「もういいです…… ワタシもう辞めます」
【あ? ……辞めろ!! 広田もオマエも見込みねえての! 二人ともクビだクビ!!】
山田カリンは振り返り、
「本気で言ってるんですか? ワタシはともかく広田のドコが見込みないんですか? 広田のドコが見込みないか言ってくださいよ!!! 広田は、トレーニングしてない今の社長より確実に強いですよ!!!」
【ふざけんなカリン! 広田がワタシより強い訳ねえだろう!!】
ΩΩ≪あ~あ、神鳥がウチ(聖クリ)にアッサリ負けて内輪揉めしてんじゃん
ΩΩ≪新全日本女子プロレスだっけ? うっすい底が見えちゃったな
ΩΩ≪キラちゃんバカにしてたけど、マジで可哀そうに思えてきた
ΩΩ≪てか神鳥って京極がどうのこうって言ってたけど、モアイに負けてるようじゃ京極なんて100パー無理だろ
ΩΩ≪でも神鳥って、京極に負けてたら新全日本女子プロレス解散の条件だったから、ある意味、命拾いしてんじゃね? 新全日本女子プロレスが終わってんのには変わりはねえけどな?