134話 過去最高のコンディション 鬼ヶ原真澄美(モアイ)
二階観客席に向かって歩く京極茜の前に、
| ̄ 旦  ̄|≪京極ちょっと
京極はスパッツとタンクトップ姿のモアイを見て、
「なんだモアイ?」
| ̄ 旦  ̄|≪こっちこっち
モアイは誰もいない体育館倉庫の中に京極を連れ込んだ。
京極はセッタを咥えて100円ライターでカチカチカチカチと火をつけて、
「ス―― プハ――、こんな所に連れて来て何の用だ?」
| ̄ 旦  ̄|≪神鳥は向こうの壇上横のドアから出てくるでしょ?
「それが?」
|Λ 旦 Λ|≪ならワタシは対面から登場した方が盛り上がるんじゃない?
「くだらねえな…… でも二階は遠いからココで待たせて貰うか」
京極は、ドラッグ工房だった地下ラボへの階段を隠す跳び箱を背にして床に座った。
| ̄ 旦  ̄|≪シュッシュッシュッ
京極はシャドーボクシングからタックルを繰り返すモアイ(196センチ・126キロ)を見上げ、
「へえ…… あのサイズで、こんなにも速かったのか……」
|● 旦 ●|≪ふん!!
バコン!!
メリケンサックと一体化した右の拳が壁を貫いた。
貫いたままのモアイの体から汗が湯気となって出る……
京極はガンでモアイを見上げながら、
「アタシに遠慮せず、オメエが神鳥をぶっ殺していいぞ」
モアイ……
壁に刺さった拳を引き戻し、京極にニタ~っと笑みを向け、
|▽ 旦 ▽|≪あたりめえだ…… 過去最高のコンディションの今のワタシは誰にも負ける気はしねえ…… 京極でもな?
その頃……
二階西側観客席最前列の京極軍団は……
青髪⦿⦿≪京極と神鳥の試合楽しみだな?
白髪⦿⦿≪京極が負けたらヤバい条件だけどな……
緑髪⦿⦿≪ドーグありだったら100パー京極だろ? あれ? 赤銅が知らない間にいねえ?
白の特攻服と鼻から下を迷彩のバンダナで隠す赤銅は、校長と伊崎カナエの座る長テーブルの前に来ていた。
赤銅は校長に頭を下げて、
「校長、頼む! 京極の登場に入場曲を流させてくれよ!」
「はあ?(*´з`) そんなのワタクシにじゃなくて、現場統括者の教頭代理の伊崎に聞きなさい(*´з`)」
赤銅は顎を上げて、伊崎をガンで見下ろし、
「コイツ…… ワタシの首にクスリを射って京極の腹をアイスピックで刺しまくったクソ女だろ?」
伊崎は笑みで見上げ、
「口は慎めよ? 退学にすんぞ?」
「ちっ……」
「で? 京極の入場曲に何を流す気だったんだ?」
赤銅はケイタイのユーチューブの画面を見せながら、
「京極が好きなタマシイ・エボリューション。 マイクに近づけて再生すれば体育館中に響き渡る」
伊崎は無表情で赤銅の顔を見つめながら、
「却下」
赤銅は顔を近づけ、
「なんでだよ!」
「教頭代理の自分に生意気な態度を取りやがったからな。 第二試合が始まるからさっさと二階へ戻れ」
「ちっ!」
赤銅は二階西側観客席に戻った。
第二試合 30分一本勝負
神鳥シノブ 山田カリン
vs
アメコング 広田キラ
有名選手二人の出たタッグマッチは盛り上がる。
ΩΩ≪アメコングの凶器の一斗缶が凹んでるぞ!
ΩΩ≪カリン、頭から血が出てるじゃん!
ΩΩ≪第一試合のゴミ試合よりはマシだな
試合経過10分過ぎ……
神鳥は広田キラを肩車で持ち上げて両手を掴む。
そのまま! 後ろへ倒れこむ!
神鳥は後頭部を打った広田キラを踏んづけて、
レンタルレフリー⦿⦿≪1! 2! 3ー!
カン! カン! カン!
試合が決しても倒れたままの広田キラに、タッグパートナーだったアメコングが屈んで、
「おい広田…… 大丈夫か?」
(〇)¶(〇)≪ぁ…ぁ…
「脳震盪を起こしている? 社長の神鳥ドライバーの角度がきつかったからか? 社長はやっぱりプロレスが下手…… おい! カリン! 広田を運ぶから手伝ってくれ!」
広田キラは、山田カリンとアメコングに両肩を担がれ壇上横のドアへ運ばれる。
Ω≪中卒でアレって哀れ過ぎんだろ!
Ω≪がははは! なにが不屈のラベンダーだよ!
Ω≪キラちゃん! 自殺すんなよ!
Ω≪やられてばっかだったキラちゃん! 得意技のドロップキックは~!?
控室に戻らされた広田キラは床に寝かされた。
アメコングは山田カリンに、
「とりあえず広田はココに寝かせとけ、リングに残って次の試合する社長のセコンドと、その後の校長の警備があるから」
ーー「はい! ワタシは一斗缶で切れたオデコにバンドエイドしてから行きます!」
「早くしろよ」
アメコングは先に控室を出た。
山田カリンはバッグからバンドエイドを取り出しオデコに貼る。
チラっと広田キラを見ると……
ーー「広田……?」
仰向けで目を強く瞑っている。
山田カリンは優しい声で……
ーー「広田…… ワタシは社長のセコンドに行ってくるから…… 誰も見てないから泣いて良いよ……」
「ふぁ…ふぁあああああああ……ふぁああ…ふぁあああ……はぁはぁ…はい…」
ーー「あの社長なら本当に人をぶっ壊すと思う、その前にセコンドが止めないとダメだからね」
山田カリンはドアへ歩きながら心の中で……
ヘナチョコだった広田が高校にも行かず15歳で、こんな所に入団してから、
一日も休まず、逃げ出さず、
無給で一年365日9時間、
10キロ走り、
ウエートトレーニング、
ストレッチ、
技の練習、
受け身、
スパーリング、
社長のカワイガリ(シゴキ)を経て……
初めて人前で見せたプロレスがこれじゃあ惨めなのは分かる。
でもワタシは広田が居たから、こんな団体を辞めなかったんだ。
ここの生徒のヤンキー達はワタシ達プロレスラーを舐めてるけど……
これから社長が分からせてくれるよ……
プロのガチは本当に次元が違うって事を……
山田カリンは控室のドアを開けた。