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130話 新全日本女子プロレス 広田キラ

★広田キラ目線



 2月の札幌。


 ワタシは、妹の座る車イスをバリアフリーのセレナから下ろすと、


≪おねえちゃんどこ行くの? ねえ? どこに行くの?≫


 ワタシは車イスを押しながら、


「今日は綺羅キラの誕生だろ? ……だからプロレス観戦だ!!」


≪え? えええ? そうだ! 今日は新日本プロレスが札幌に来る日だ!!≫


「ワタシもだけど、キラも生まれて初めてのプロレス観戦だもんね?」


≪うん! オカダカズチカのドロップキック見たい! ドロップキック出るかな?≫


「出ると思う。 多分、テレビで見るよりずっと迫力があると思う」


 四歳下の妹キラは生まれた時から両足が無い。

 でもキラは一度も卑屈さを誰にも見せた事がない。

 たぶんバカだから。

 妹どころか、私達家族四人の共通点は、


 プロレスバカ


 特に妹は家族一番のプロレスバカ。

 まだ小学生なのに、国内も海外もほとんどのプロレスラーの身長と体重と得意技を覚えてる。

 両親も、妹が観たがってるからプロレス関連のCSにネット配信まで契約している。


【おい、総合体育センターはそっちじゃないぞ】


 父の声で、ワタシは押している車イスを方向転換して、両親に付いて行く。


「田舎の富良野と違って札幌は都会だから、間違えるわ」


≪おねえちゃ~ん? しっかり頼むよ~? 迷わず行けよ行けば分かるさは猪木だけにして~≫


「はいはい、分かってるちゅ~の」


 

 去年の11月の三者面談じゃ先生と両親には「高校卒業してから」と反対されたけど…… 両親はなんとか説得できた。 けどワタシは妹にまだ言えてない。

 1ケ月後、中学を卒業したらワタシは東京へ行き、


 プロレスラーを目指す。




 去年の12月、ネットでレスラーの新人募集を探したら新全日本女子プロレスが良いと思った。

 理由は有名なプロレスラーの神鳥さんとアメコングさんがいるからだ。 神鳥さんから格闘技経験の無いワタシを指導して貰えそうだし、アメコングさんもワタシと同じ中卒で格闘技経験無しからプロレスの世界に入って有名になった。

 メールと電話で新全日本女子プロレスと連絡をした結果、3月に東京の多摩にある道場で入団テストがありワタシは行かなければならない。


 今回のプロレス観戦は、家族揃っての思い出作りもあった。


 妹を富良野に残す事になるけど、ワタシが家から居なくなっても寂しくないよね?





 札幌の体育館の出入り口で並び待ちチケットを切って、車いすを押して会場に入る。 両親は二階席だから、ワタシは妹の車イスを押して一階の最後列の障がい者用の場所に来る。


≪あららら? かなり遠いね?≫


「うん……」


 妹はムスっと唇を尖らせて、


≪体育館が大きいからリングが遠いや……≫


「うん……うん…うん」


 妹は振り向いて、ワタシの顔を見上げて、


≪どうしたの? なんで泣いてるの?≫


「キラ…… じつはね…… ワタシね……」


 たぶん泣きまくってた……

 右の手の平で両目を隠して……


「中学卒業したら東京に行ってプロレスラーになる……」


 キョトンとワタシを見るキラは、


≪プロレスラー? おねえちゃんが?≫


「うん…… 決めたんだ…… 新全日本女子プロレスの入団テストを受けに行く……絶対に受かってやる」


≪神鳥のいる新全日本女子プロレス……? 凄いじゃない!! 応援する!!≫


「うん…… 絶対にテスト受かるように頑張る…‥‥」


 

 タランタランタランタラ~ン♪



 大会開始の合図の新日本プロレスのテーマ曲が流れた。

 ワタシは涙を両手で拭って、


「はぁはぁ……さあ、試合が始まるよ」


 第一試合が始まると妹は一直線に遠いリングを見つめる。


≪天山!! 天山!! うわああ……やっぱもう歳か~~≫


≪うわ! 今のニー! モロ入ったよ!!≫


≪マジで場外へ回転して飛んだ!! 覚悟すげえ!!≫


 ワタシもトッププロ団体の試合を遠くから観る。 将来、ワタシも大きい会場のリングに上がってお客さんから声援を貰えるのかな?

 トッププロレスラーの証の週刊プロレスの表紙を飾れるのかな?


 試合はメインイベントになる。

 私達家族の推し王者オカダのシングルタイトルマッチだ。

 挑戦者はオカダよりデカい外人。


 妹同様に、ワタシの心も熱くなってる。


 勝てオカダ‥‥‥




 試合は20分を差し掛かり、オカダが不利な戦況……

 デカい外人のパワーボムを喰らいなんとかカウント2で返したが、意識朦朧のオカダに対して妹が、強く両手を叩き、


≪オカダ!! オカダ!! オカダ!! オカダ!!≫


 妹の声に呼応する様に会場全体から、


ΩΩΩΩ≪オカダ!! オカダ!! オカダ!! オカダ!!


 声が響く!

 

 ワタシももちろん、


「オカダ!! オカダ!! オカダ――!!! 負けるなー!!」


 オカダはラリアットで突っ込んでくるデカい外人に……


 出した…… 出してくれた…… カウンターの高く飛び上がった…


 ドロップキック――!!


 そして! 


 決め技のレインメーカー(クラッチ式回転ラリアット)!

 フォール!!


≪1! 2! ……3ー!≫


 カンカンカン!


 ワタシもだけど、妹も両手を上げて喜んだ。


 感極まって妹を抱きしめた。





 一ケ月後……




 長い髪を切って挑んだ入団テスト……

 全然ダメだった。

 ワタシ以外一人だけのテスト生の山田カリンさんは凄すぎて、全ての課題をラクラクとクリアーしてた。


 全ての課題が終了して、落ちたの確信してガックシしていると…… うなだれて座るワタシのもとに神鳥さんが来て、


広田花音ひろたかのんも合格」


「え?」


「合格だよ? 嬉しくないのかよ?」


 ワタシは驚いて、


「山田さんと違ってワタシは腕立て100できませんでしたけど……」


 神鳥さんはタバコを咥えて火をつけて吸った後に、


「ウチも正直、人手不足で新人欲しいんだけど、広田が高卒だったらダメだったな。 でもまだ15なら一、二年みっちり鍛えれば基礎体力なんて大丈夫。 むしろさ? 中途半端な格闘技のバックボーン無い方がワタシの指導をストレートに吸収できると思うんだよな?」


 ワタシは立ち上がり、頭を下げて、


「ありがとうございます!」


「いいか広田? プロレスでもなんでも一番大事なのは」


 神鳥さんは自分自身の胸を拳で二回叩き、


「最後はココなんだよ」


「はい!」


 ワタシは勇気を出して大先輩レスラー神鳥さんに言った。


「ワタシのリングネームは自分自身で決めていいですか?」


「あ? 何言ってんだオマエ?」


「お願いします!」


 神鳥さんはワタシを睨みつけて来て、


「オマエ? まだデビューも決まってないカスなのにリングネーム? 100年早いよ…… やっぱ合格取り消すわ。 性格が論外、コイツ無理だわ」


 神鳥さんはワタシに背中を向けて、


「富良野に帰れ」


 カスのワタシにも、どうしても一つだけ許して貰いたい事があった。

 それを許してくれるなら、どんなにキツイ練習にも耐えれる。


「ワタシの妹は生まれつき両足が無いんです! だから妹の名前キラをリングネームの名前にしたいんです!! 妹は世界一プロレスが大好きなんです!! だから広田キラとして練習をしたいんです!!」


 コッチを向き返した神鳥さんの目から涙が出てきた。


「……分かったよ、先にソレを言えよ? バカかよ?」


 遠くのイスに座っていたアメコングさんも来て、


「妹さんのために頑張ってプロレスラーにならないとダメだぞ……」


 肩をポンポンと叩いてくれた。


 神鳥さんもワタシの肩を叩いて、


「うっし、今から広田キラとして入団だ。 だけど広田……」


「はい!」


「その妹さんのために、プロレスラーとして絶対に何があっても最後まで諦めんなよ?」


「はい…」


「例え、ウチの練習がしんどかろうが、オマエの戦う相手がオマエよりもどんだけ強くても……なにがあっても……」


 神鳥さんはもう一度、自分自身の胸を拳で二回叩いて、


「ココだけは絶対に負けんなよ?」


 返事に少し間が開いた……


 二月に、妹と一緒に観た札幌の会場を思い出してたからだ。

 覚悟を決めて、


「はい!」




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