128話 黒河内の回想⓲ 赤リボン (黒河内の回想終了)
1年10か月後……
京極茜が聖クリに入学した4月7日の午前11時半。
横須賀女子少年院の、掃除中のトイレのドアの向こうから声が聞こえる、
「笹岡看守~? どんだけ出してんだよ?」
《ああ……久しぶりだったから、え? 黒河内……お掃除までしてくれんの……ぁ》
「ぺっ、はい終わり」
ワタシは服を着る。
「これからもトイレ掃除の時間にやらしてやるよ」
笹岡はズボンを戻しながら、
《じゃあ明後日は?》
「次したい時はタバコ持ってきて? 『アメリカンスピリットの12mm』と忘れずにライターも?」
《分かった…… ところで……本当に生で良かったのか?》
「最初だしサービス、万が一妊娠してもワタシも後2か月くらいで出所だし? 妊娠して腹が出る前にココから出るからバレねえって」
《そうだな》
ワタシはニヤリっと、ワタシより背の低い笹岡を見下ろして、
「でもよ…… 精子って膣の中に残るから、笹岡看守にレイプされたって言うかもしれねえぜ~?」
《ええ? 最初からゆする気だったのかよ?》
「心配すんな…… ワタシに力を貸してくれたら絶対に誰にも言わねえよ」
《ああ、わかった》
「早速だけど教えて欲しい、昨日の昼飯から京極を見てねえ……何があった?」
《出所した》
「え? アイツまだ10年以上は刑期があったはずだろ?」
《なんでも捕まった事件での正当防衛が認められたんだって》
「正当防衛?」
あのクリスマスの事件が正当防衛? どういう事だよ?
まあ……いいか……
これで横須賀女子刑務所でワタシを止めれるヤツは誰一人居なくなった。
無茶苦茶にしてやるぜ……
ワタシは便座に座り、笹岡を見上げ、
「それと…… 2か月前に入所した西野っているよね? アレの知ってるデーターを教えてくんない?」
《パパ活相手への脅迫と傷害だ…… なんか兄が放火で捕まって、その賠償で家庭が無茶苦茶になって自暴自棄になったらしい、14歳で刑期は残り4ヵ月くらい》
「なるほどね、笹岡は今夜は宿直だったよな? 晩飯の後にケイタイと充電器を貸せ…… たくさんのポルノ動画を撮ってきてやるよ」
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このネンショ―、トイレは皆が共同だから夜は寮部屋のドアは開いている。
だから移動し放題。
通路に監視カメラはあるけど当直は笹岡、問題なし。
京極を殺す時にワタシを裏切りやがった井上、戸塚、竹本が出所してて残念だぜ……
だから……
先ずは、西野の部屋に行く。
布団を被っている西野の顔の上に、ワタシは顔を近づけて、布団を剥がす。
≪え? だれですか?≫
驚いた顔の西野に、ワタシは優しい笑顔で、
「黒河内です。 さあ起きて起きて」
≪なんで? 起きるんですか?≫
ワタシは優しい笑顔のままで、
「今から手当たり次第に院生のポルノを撮るから、オメエにカメラマンさせんだよ?」
≪なっ何言ってるんですか?≫
ワタシは立ち上がり、西野の隣で寝ている女の腹を、
グシャ!
強く踏みつける。
【おええええ】
西野のルームメイト3人を顔以外をボコり、3人をマッパにさせた。
ワタシは怯える西野の耳に口を近づけ、
「言っとくけど、西野をイジメる時はこんなもんじゃねえぞ? ブレーキが利かねえと思うわ?」
≪うっ≫
ワタシはケイタイを差し出し、
「死にたくなきゃ、これで動画を撮影するしかねえんだよ……」
西野はケイタイを受け取った。
ワタシはマッパにした3人に、
「おいカス共、今から笑顔で自己紹介した後に必死に自慰行為しろ。 西野は撮影を頼むな?」
10分後……
次は……
京極と同部屋だった凶悪犯の外人どもの部屋にカメラマンの西野と行った。
もちろんソイツラ外人をボッコボッコにしてマッパにした。
「「「どこで携帯を? もう許して……」」」
「笑顔で自己紹介しろよ? 言っとくけど偽った自己紹介してもバレるからな? これ以上、体を傷だらけになりたくねえだろ? はい西野、レズプレイ撮影スタートな?」
≪うん……≫
20分後……
「オメエらイク演技下手だったけど、まっいっか? 言っとくけどワタシに歯向かったら動画バラまくし、オメエらがネンショ―出た後も一生、ワタシは付きまとうぜ?」
「「「そんな……」」」
「そんじゃ西野、次の部屋に行くぞ」
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全員撮影すんのに1週間もかからなかった。
笹岡のケイタイに全ての院生の動画が入ってる。
2か月経った。
ワタシは、もう出所間近……
笹岡が宿直の夜には西野を引き連れて、院生どもをイジメまくったけど誰も自殺者はいねえ……
特に京極と同部屋だった外人どもをかなりイジメたんだけどね。
まっ、ワタシがすぐ出所だから我慢できたんだろうね……
今まで西野は報復を一切されてねえみたいだ。
わりかし夜は移動に融通が利くから、ワタシが出所した後に西野がどうなるか知らんけど。
6月上旬、出所。
ワニ皮のレザースーツを着たワタシはケイタイを買った後に、土地勘のある五反田のインターネットカフェに行く。
パソコンのグーグルを開き、
「新しく住むアパートを探さねえとな…… 住むとこ見つかるまでネットカフェが住居になっちまう……」
ワタシは鉄のハイヒールを作った『伊藤板金』のガテン系イケメンの寛介の姿が頭によぎり、
「やっぱ五反田がいい…… 前に住んでいたアパートは空いてても入れてくれねえだろうから、どっか近くにねえか?」
なかなか奇麗な良いアパートが見つかった。
「やっぱ保証人がいるのか…… また母に頼むしかねえか……」
ケイタイで母に電話する。
≪お繋ぎできません≫
「マジかよ? アイツ携帯代払う金もねえのかよ?」
仕方ねえな~、母のトコに行くしかねえ……
その日の夜……
ネンショ―に入る前に、よく行っていた五反田の焼き鳥屋に入った。
店の白髪のジイサンの大将がワタシを見て、
「あら? 黒ちゃん、久しぶりだね?」
ワタシはカウンターに座って、
「うん、色々あってね……生ビールを頼む」
大将はジョッキのビールを置いた後に、
「料理は?」
「うん……適当に焼いてくれよ……」
「なんか元気ないね? 黒ちゃん、いつも元気だったでしょ?」
「じつは今日、五反田で住むアパートを探していてね……」
「見つかった?」
「保証人のいらないレオパレスに決めた。 この店にも近い」
「それはよかった」
「でも……」
「なに?」
「なんでもない」
ワタシがネンショ―に入ってる間に、母が婚活パーティーでカップリングした年下の冴えないデブと結婚して子供産んでて…… ワタシに対して着信拒否してた…… そして縁を切られた。
なんて言えねえよ……
酔えば、この辛い心は麻痺するのだろうか?
なら…… 飲みまくってやる……
ゴクゴクとビールを飲む。
出された焼き鳥の皮を食べた時……
気持ち悪い……
「うっ…… この感じは……まさか……?」
翌日、産婦人科に行った。
≪本当に中絶でいいんですね?≫
もし……
女の子が生まれて、ワタシの様に赤いリボンを付けさせたら可愛いかもね……
あ? もしかして……
母も、そう思って…… 父の反対を押し切ってワタシを生んだのかもしれねえ……
≪中絶でいいんですか?≫
「あ? ああ……………」
≪黒河内さん?≫
「……いいよ」
ワタシの世界は、自分の子供まで引きずり落す……
母は、こんなワタシなんて生まなきゃよかったんだ……
強く瞼を閉じた。