124話 黒河内の回想⓰ 黒河内の世界
ドックン!!
≪〇≫ ≪〇≫
窓の外の運動場に居た……
ボサった金髪が目立つから一目で分かった。
教官から土木の講習を受けているであろう複数人の作業服を着ている女達の中で…… ちゃんとした姿勢で起立して聞いている……
京極茜……
ワタシの前の若い刑務官が、
≪黒河内どうした? トイレに付いて来い?≫
トイレから独房に戻ったワタシはベッドで横になり、
よりによって京極と同じネンショーかよ? 最悪だぜ‥‥
でもアイツはきっとワタシが京極の頭を鉄警棒で何度も殴った女だと気づかねえと思う。 あん時はサングラスつけてメークも濃かったしな。 だけど、なるべくは接触は避けてぇ……
マジで『土木』選ばなくて良かったぁぁ……
それと、なんと言っても、これからの2年間は京極と同じ寮部屋にはなりたくねえ。
ワタシの世界は京極がいたら不可能‥‥‥
京極はクリスマスに6人殺した事になってんだから間違いなく凶悪犯の集まる寮部屋に振り分けられてるはずだ‥‥‥
ワタシはベッドから勉強机のイスに座り、顔を両手でパン!と叩き、鉛筆を持ちノートに書き綴る。
「ここで死ぬ気で頑張らなきゃな‥‥‥ 京極と同じ部屋にならねえために‥‥‥」
1週間後の朝8時。
ワタシの独房に入所の時の中年刑務官が来て、
≪おはよう黒河内≫
ワタシは起立して頭を45度下げて、
「おはようございます」
中年刑務官は勉強机へ歩き、机の上のワタシが一週間の間、必死で書き綴ったノート二冊を開けて見ながら、
≪たくさん書いたんだな?≫
「はい… ただただ後悔しかありませんから……」
≪こんなに書いた院生は初めてだ。 それに、ところどころに涙の痕がある……≫
「自然に流れ落ちてました……(ツバ作戦やりい!)」
中年刑務官はワタシを向いて笑顔で、
≪今から黒河内を寮部屋に案内する。 しっかり介護福祉の勉強も頑張りなさい≫
「はい」
寮部屋へ……
中年看守に紹介される。
≪新入りの黒河内だ、みんなよろしくな?≫
ワタシは頭を45度下げて、
「黒河内真由美です。 よろしくお願いします」
顔を上げると灰色のジャージの5人の女が立っている。
やっぱり弱そうな女ばっかりだぜ……
とりあえず最初は猫被ってのフェイントで一気に世界を変えてやるか……
中年刑務官が去った後、畳の寮部屋に入ると、
「ワタシはこの部屋のドコの場所を使ったらいいのかな?」
ショートカットの女が、人差し指を口に当てながら小声で、
≪しっ…… 普通の声で喋ったらダメ、会話してるのバレたら刑期が伸びる≫
ワタシも小声で、
「そうだったね」
≪でも……じつは消灯の後なら普通の声で喋っても大丈夫≫
「分かった」
ショートカット女は部屋の隅を指差して、
≪黒河内は隅っこを使って≫
「うん」
≪じゃあ今から朝食に行こ、多分、みんな待ってるよ≫
朝食に行く。
食堂にはすでに100人以上の院生が無数の長テーブルに朝食を置いて座っていた。 ワタシは調理場からのカウンターに置かれていた皿に乗った『目玉焼き+サラダ』『パン2枚』『バター』『パック牛乳』をトレーに乗せ、空いてる席に座った後で、どこからか、
「いただきます!」
一人の声に続き、全院生の、
「「「いただきます」」」
後に、みんなが朝食を黙々と食べ始める。
その日の午前は、介護福祉の勉強をした。
人数は9人くらい。
ルームメイトは居ない。
昼食はカツカレーだった。
これはマジで美味かった。
食後に昼休みが30分あり、院生たちは会話はしないが運動場でバドミントンをしたり、部屋でカードゲームをしたり本を読んでいる。
その最中……
♫♫♪♬♩♫♬♬♪
「歌? タマシイエボリューション?」
歌声のする方へ歩く。
朝に話をしたルームメイトのショートヘアー女が目を輝かせて歌っている。 自分で手を叩きメロディも完璧に刻んでいる。
「へえ? 無茶苦茶うまいじゃん?」
ワタシはニタっと笑った。
夜9時……
「「「「「「おやすみなさい!」」」」」」
寮部屋初日の消灯を迎える。
赤い常夜灯の部屋、ネンショ―の寮部屋の要領が分からねえから布団にくるまって寝たふりしてると……
誰かがワタシの掛布団をさすってきた。
ワタシは小さな声で、
「どうした?」
≪黒河内の歓迎会しよ≫
ショートヘアー女の声に、ワタシは動かず寝たまま、
「歓迎会? こんなワタシに?」
ワタシは掛け布団を外して座り、
座ってワタシを見ている同部屋の院生5人を見渡した後で、ショートヘア女を見つめながら、
「ワタシは黒河内真由美15歳、傷害致死で残り刑期2年。 昼休みに歌っていたアンタは?」
【ワタシは財前アヤ16歳、薬物で残り刑期三週間】
≪ワタシは小林ヒカリ16歳、薬物で残り刑期3ケ月≫
≪ワタシは戸塚シオン17歳、窃盗で残り3ケ月≫
≪ワタシは竹本ミノリ18歳、傷害で残り2ケ月≫
≪ワタシは井上ルル15歳です、放火で残り7ケ月です≫
ワタシは財前を見て、
「へえ? 財前はもうすぐ出所なんだ?」
財前は嬉しそうに、
【ワタシは外に出たらミュージシャンを目指す】
ワタシは嬉しそうに、
「昼休みに聞いたけど? すっげえ上手かったな? マジでプロになれんじゃね?」
竹本みのり「黒河内? 財前の歌は凄いよ? ワタシも出所したら絶対にライブに行く」
財前は目を瞑り、指でリズムを刻みながら、
【ここには演奏は無いけど、曲と歌詞はタマシイで覚えているんだ‥‥‥ いつかワタシも曲と歌詞を作って、ワタシの歌声で誰かのタマシイに響かせたい】
ワタシは立ち上がって、財前を笑顔で見下ろしながら、
「でもあいにく、財前はプロになれねえな?」
財前はリズムを刻んでいた指を止めて、ワタシを見上げ、
【なんで?】
ワタシは財前にガンを飛ばし、
「もう奇麗な声で歌歌えねえからだよ……】
財前は立ち上がり、ガンを飛ばし返してきて、
【何を言ってんだよ?】
「オメエのその声を潰すだけだ。 ワタシは赤リボン、知ってよね?」
【やっぱり黒河内って苗字…… 赤リボンだったんだ】
小林戸塚竹本井上「極悪ヤリホの赤リボン……」
【黒河内? ココはネンショ―の中だよ? ワタシに何ができる?】
「おい井上、コッチにこい?」
井上ルル「え? でも……」
【行くな井上】
ワタシは井上にガンを飛ばし、
「来い、来ねえと殺すぞ」
井上ルル「はい……」
井上はワタシの所に来た。
「井上、財前の喉を潰せ、首絞める要領で両手の親指を喉にぶっ刺せば喉は潰れる」
井上ルル「むりです……」
ガン!!
ワタシはカカトを井上の足に強く落とす。
井上ルル「いたい!!」
屈んだ井上の首を後ろから右腕で締めて、
井上ルル「あ…ぁ…べべ……」
口から泡を吹いて落ちた。
落ちて倒れた井上の顔を、
パ――――ン!
ビンタして目覚めさせる。
「財前の喉を潰さねえと残り7か月、毎日コレを何度も繰り返す」
井上ルル「うっっ‥‥うううぅぅ」
「泣くんじゃねえよ?、泣いたら締め落としループすっぞ? カンタンだろ? 財前の喉を潰せばいいんだ」
井上ルル「つぶすぅ? ぅぅぅう」
「財前の喉を潰したらもうイジメねえ、な? ワタシからイジメられたくねえだろ?」
井上ルル「うん……」
ワタシは他の三人を見て、
「小林、戸塚、竹本、オメエら三人はどうする?」
小林、戸塚、竹本「どっ、どうするって?」
「イジメられる側になるか? ワタシと一緒に財前をイジメる側になるかだよ?」
引きずり落す…… これがワタシの世界。