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123話 黒河内の回想⓯ 横須賀女子少年院


 一ケ月後の午前10時。

 ワタシは勾留こうりゅうと裁判を済ませ横須賀の女子少年院に送致そうちされた。


 ワタシを乗せた車が少年院の門を越え、建物の出入り口の前で停まる。

 護送車のハイエースから下ろされた。

 ワタシはこれから刑期の二年を過ごす少年院の建物を見上げる。

 まさに学校の様な三階建てだ。


 建物内に入ると、最初に迷路のようなロッカー室に連れて行かれ、男の中年の刑務官の一人が鑑別所で没収されていたワタシの財布、赤リボン、バッグ、ケイタイを見せて来て、


≪貴重品と今着ている私服は出所までこのロッカーで預かる、靴も脱いで≫


 鉄のハイヒールを脱ぐと、刑務官は手に取り、


≪これ金属か? 珍しいな?≫


 刑務官は近くの金属の180センチほどの『4』のロッカーに預けた物を置いた後に、ワタシの前に灰色の上下のジャージと白のゴム底のシューズを床に置いて、


≪このジャージを着てシューズを履きなさい。 着替え終わったら「終わりました」と大きな声で言いなさい≫


 中年の刑務官はロッカー室を出た。


「鑑別所と違ってラクだな? 鑑別所に入る時は体のキズやケツの穴までチェックされたけど」


 ワタシは黒のレザースーツを脱ぐ。

 置かれた灰色ジャージのズボンを着た後に、両手で上げた灰色の上のジャージを見つめる。左胸の白い四角の部分にマジックペンで『212 クロコウチ』と書かれている。


「だせえ…… まあ着るしかねえか……」


 上のジャージ着てファスナーを上げた後に、柔らけえシューズ履いて、


「終わりました」


 反応なし……


「終わりました!」


 中年刑務官が来て、ロッカー室から通路に出され、刑務官はロッカー室に、ガチャ、ガチャ、ガチャと三か所に違うカギをかけた。


≪黒河内に横須賀女子少年院の規則を説明する。


 刑務官には敬語は絶対。

 起床時間は朝7時、消灯は夜の9時。

 食事は朝食が8時、昼食12時、晩食18時。

 部屋は3〜6人部屋。

 院内の生活には毎日、日課があり、主に職業訓練。

 曜日により、懺悔集会、行動訓練、生活指導、マナー常識指導。

 一年に一度、読書発表会、運動会、文化祭。

 どのような理由でも院生同士の会話は許されていない。もし会話すれば出所が1度で2週間から1ケ月伸びる。≫

 

「会話には厳しいですね?」


≪黒河内、院生から刑務官への質問は許されてない。 黒河内はこの中から希望する職業訓練を選んで指差しなさい≫


『溶接』『土木』『板金』『パソコン』『理容』『介護福祉』『調理』『木工』『洋裁』『革工』『農業』と書かれた紙を渡された。


 う~ん

 どれにするかな?

 『溶接』『土木』『板金』は食い扶持には困らなさそうだな? でもしんどそうだしやめた。 というか、このネンショ―は女のネンショ―なのに『溶接』『土木』『板金』があるのかよ?


 レザースーツは好きだけど、好きと作るじゃ別だしな? 『革工』も却下。

 残ったのは『パソコン』『理容』『介護福祉』『調理』『木工』『農業』‥‥‥


 まあ‥‥‥ どれも面倒だけど、あえて‥‥‥


「介護福祉」


≪ほお? それは意外だな? 大抵はパソコンが多いが、なぜ『介護福祉』を?≫


「さあ、なんとなくですかね」


≪では介護福祉だな? がんばれよ≫


 刑務官は介護福祉にレを書き、


しもの世話をする事もある介護福祉の仕事だから、院内のトイレ掃除も担当だ≫


 ちっ

 ハズレ引いちまったか……


≪では、最初の1週間は独房に入って貰う≫


「独房?」


≪規則だ。 独房での黒河内の一週間の生活態度ぶりで、入る部屋を我々が選定する≫


 て事は……

 猫被ってりゃ、良い子達の部屋に回されるって事か……

 そっちのが面白そうだな……


 ワタシは院内の一階の長い通路の突き当りにある部屋に連れて来られた。

 シングルベッドと勉強机だけがある簡素な部屋。


≪ドアは常時開いておく事。 トイレに行きたい時は「トイレに行きます!」と大声で言いなさい。 刑務官が来てトイレまで連れて行く。 それと一週間の間は全ての食事はココに持ってくる。 個別入浴とトイレ以外で部屋から出る事は許されていない≫


「はい、分かりました」


≪黒河内、これからの二年でしっかり反省をして更生しなさい≫


 中年刑務官は去った。


 他にする事もねえし、ワタシは勉強机の一番上の棚を開けると、


「鉛筆数本と消しゴムと鉛筆削りとノートが数冊?」


 はは~ん? なるほどね? このノートに反省文的なモノを書けば査定アップで良い子の部屋に行けるんだろうな?


 ニヤ~~~


―――――――――――――――――――――――――

この度は傷害致死を起こしてしまい。

被害者、被害者の家族の方が第一ですが、

こんな出来損ないの私を生んで育ててくれた母に申し訳ない思い出いっぱいです。

母はいつも幼少期から私を庇ってくれていました。 そんな母に私は甘えて頼ってばかりだったのです。

私は職業訓練を選んだ時に決心した事がありました。 

横須賀少年院での二年間で一生懸命、介護の勉強をして、

将来、母がもし体が不自由になったりした時には、私が介護をして親孝行をしてあげたい。 

――――――――――――――――――――――――――

 一通り書いた所で、


「我ながら反吐ヘドが出るほどクッサイ文だぜ‥‥‥」


 急にトイレ行きたくなったから、

「トイレに行きます!」

 刑務官を呼ぶ。


 あ? そうだ? 涙のあとが欲しいな?

 ワタシは唾を垂らしノートに落とした。


 入所の時と違う若い刑務官が来て、


≪トイレに付いて来い≫


 若い刑務官に付いて行く。





 誰も居なくなった独房に……


 黒河内の入所を案内した中年刑務官が入って来た。

 勉強机の上にあるノートの1ページ目をめくり読む……


≪それで介護福祉を選んだのか……≫


 涙もろい中年刑務官は涙をノートに落とした。


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