120話 黒河内の回想⓬ 聖クリスチーヌ女子学園 開校式(3)
新入生代表として直美が話をしている姿を見ている他の新入生達は、シャーロットには聞こえないような小声で、
Ω≪あれが新入生代表?
Ω≪ガリ勉メガネ? あんなのが代表だったら学校のカッコつかねえな?
Ω≪あのガリ勉メガネ、絶対に調子に乗ってるだろ? 後でシメてやろうぜ?
直美をニヤニヤと見てやがる。
まるで性悪のネコが、生まれたてのヒナを見つけたように……
フッ
しかたねえな~?
この学校でも、ワタシが直美の事を守ってやらねえとダメなようだな?
「みなさんも是非とも、学校生活の三年間を良い思い出にしましょう」
直美は頭を下げ、壇上の横に歩いて消えた。
マイクの所にシャーロットが入れ替わり立ち、
≪最後に、ワタシから新入生の皆様に教えたい言葉が一つだけあります。 『うぬぼれすぎると、身を滅ぼす』エルヴィス・プレスリーの言葉です。 これで開校式を終わります。 では、明日の9時に学校でお待ちしています≫
体育館内にベートーヴェンの『運命』が流れだす。
終わると体育館を出る生徒、たむろしてる生徒の中、ワタシは直美に会うために壇上の方へ歩く。
壇上の手前が集団になっていた。
≪やめてください!≫
直美の声!?
直美のヤツ、さっそく絡まれてんな!
ワタシは走りだした!
途中、直美の方へ歩いていた鬼の様な顔したデカい二人を抜き去り!
ワタシは集団の一番後ろの女の服を掴んでどけさせる!
Ω≪なにしやがる!! え? 赤リボン!?
赤リボンと聞いたワル共が、ワタシの方を向き、
Ω≪赤リボン? なんでガリ勉メガネの横山をイジメようとしてる場所に?
Ω≪そっか、早速、新入生代表の横山をイジメのターゲットにしたのか?
Ω≪赤リボンさん、どうぞ横山を好きにしてください
ワル共は直美への道を開けた。
ワタシは笑顔で直美に歩み……
「直美? 久しぶりだな? 元気だったか?」
ワタシを見つめている直美の前で足を止めて、頭をポンポンと優しく手の平で触り、
「これからは同級生だな?」
直美はワタシの顔を見ながら、
≪だれですか?≫
……え?
「おいおい、ジョークはよせよ?」
直美はメガネを触りながら顔を逸らし、
≪知りません≫
カチンときた。
ふざけんなよ?
ん? ……まさか? ラインを消したのは? ワタシと縁を切るため?
いや…… シャーロットが指示してんのか?
ワタシは東京連合5代目の浦岡を殺すためだけの捨て駒だったって事か?
ヤクザの世界じゃ鉄砲玉って言うのに…… まさかワタシを使った?
酷すぎだろ……
ワタシは赤銅に背中をドスで刺された挙句に、刑事にも完全マークされてんだぞ?
全部オメエらのせいで……
まあ……
それはいいや……
そんな事よりも……
直美の本心が知りたい。
シャーロットにビビってるだけだよな?
シャーロットの言う通りにしないと、何されるか分からないからだよな?
その時だった……
≪伊崎さん!≫
直美が呼びかけた方を見る。
黒髪のツインテールに黒のミニのキャミソールを着た女がゆっくりと近づいて来る。
コイツ知ってる……伊崎カナエ。
埼玉の『ワルの神童』と呼ばれるワタシと同い年の女。
小学の時からクソ悪で東京でも有名だった。
たしか数年前、1回のケンカで相手6人殺してネンショ―に入ってたはず?
こんなに早くネンショ―から出て来ていたのか?
伊崎カナエはワタシの目前で立ち止まり、ガンを飛ばして来て、
「なんだその腐ったリボンは? オマエ、頭も腐ってんじゃねえよな?」
ワタシもガンを飛ばし、
「ケンカを売ってんのか? 買うぞ?」
ワタシは直美の方を向き、
「直美、いつから、こんな基地外と知り合いになった?」
今度は顔を背けず、
≪私と伊崎カナエは子供の頃からのマブダチなんです≫
周りのカス共が、
Ω≪マジかよー!!
Ω≪横山をイジメたらやべえ! 伊崎に殺されるぞ!
カス共はビビってるけど、伊崎カナエとマブダチ?
確実に嘘だ……
再び伊崎カナエを見て、
「なるほどね…… ワタシの次に選んだんだ? コレを?」
ワタシは捨て駒で、伊崎カナエが本命のブラックチェリー役だったのか‥‥‥
ワタシ、こんなにバカにされて……
ワタシは伊崎カナエに笑みを向け、
「もう……このシチュエーション‥‥ タイマンやるしかねえだろ?」
「フラれた女のジェラシーか? 女々しいな?」
簡単にジェラシーとか言いやがって……
「伊崎、マジで殺してやる」
ワタシは直美を見て、
「直美……シャーロットが怖いんだろ? でもよ、ワタシが伊崎をタイマンで倒したらワタシをパートナーに戻すしかねえぞ?」
直美はワタシの目を見つめながらゆっくりとうなづいた。
ワタシはその顔を見て、
「直美‥‥‥伊崎を潰したら、また五反田の焼き鳥屋に行こうな。 まだ直美はあそこのニラレバ味噌炒めを喰ってねえだろ?」
ワタシは伊崎に、
「ソコの体育館のトイレに行くぞ…… すぐ終わらせてやるよ」
直美がワタシに、
≪待って真由美!≫
「なんだ?」
直美は少し考えて、
≪タイマンするなら校舎の一階のトイレが良いと思う‥‥‥≫
「なんで?」
≪聖クリの校舎のトイレは広いから≫
「ははは、なるほどね? いいよ? じゃあ校舎のトイレ行こうか?」
ワタシは校舎へ向かう。