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12話 伊崎カナエと横山直美


 平均身長174センチの三年生の中でも、特にデカい生徒が集まっている約50人の全員がキャメル色のベレー帽を被った生活指導部員は、1-Aで行われた春一番レクリエーションから、それぞれ三年生の教室に帰っていた。


「四天王の三人ΩΩΩさん達、帰っちゃったの?」

「それぞれに大事な用事があったみたいだからな」

「京極も1-Aのヤツラも命拾いしたな~」

「ん?」

「あれ? まさか?」

伊崎イサキカナエ?」


 階段から一番近くの3-Aの教室の中の席に座る黒のミニのキャミソールを着た、長い黒のツインテールの女の後ろ姿を、生活指導部員の1人が指さす。 女の周りには誰も座っていない。


「久しぶりに見たわ……」

「ウワサあんだろ? アレが聖クリの裏番フィクサーって?」

「ブラックチェリーなの?」

「ああ、すげえ裏関係バック持ってるブラックチェリー」

「埼玉の伊崎カナエ、ガチ喧嘩強すぎて無敗街道って呼ばれてる…… 2年前の聖クリの開校式の日も、入学した誰もが聖クリを仕切ると思っていた極悪ヤリホ赤リボンの黒河内真由美くろこうちまゆみに勝ちやがったからな? その後すぐに黒河内は傷害致死でパクられたけど」


 キ――ン コ―――ン カ――――ン コ――――ン


 1限目の授業終了のチャイムが鳴り、

 生活指導部員の前方を、三つ編み眼鏡の横山直美が歩いて来た、

 近づくと、持っていた学生カバンを両手で前に出し、ペコリと頭を下げる、

 生活指導部員の1人、関西からの転校生、ポニーテールにキャメル色のベレー帽を被ったヤスコ(178㎝)は、


「おう、パシリのヨコタマ、ちょっとウチのホカ弁注文しといて、ダッシュで取りに行くも追加やで?」


「は、はい、わかりましたダッシュで行ってきます」


「ウチはダイエット中やから、のり弁だけやで? おまえらは?」


「ちょっ、ヤスコ…… 今はやめとけって…」


 3-Aの割れた窓の向こうに、伊崎カナエ(175㎝)が無表情にヤスコを見つめて立っている。


「あ? なんっ?」


 ズス……


 伊崎の持ったアイスピックが、ヤスコの腹に刺さり、グリグリされる。


「うっ? うううぅぅ…うう」


 伊崎は、うつ伏せに崩れ倒れたヤスコを無表情に見下ろした後に、回って来て、生活指導部員達を見つめ、


「全員、消えろ」


 生活指導部員の1人が腰を下ろしヤスコの肩を触りながら、

「分かった……」


 生活指導部員2人がヤスコの肩を抱え上げて、

「ヤスコ? 大丈夫か?」


「ううっうう……」


 ヤスコは伊崎にガンを飛ばし、

「おめえ伊崎ぃぃ…いきなり刺しやがって… ぜってえ許さんで……」


 伊崎は右手に逆手で持ったアイスピックを振り上げた。

 ヤスコを両手を出して、

「ひっ! っごめん!!」


 すぐに横山直美が伊崎カナエの前に立って、


「やめて伊崎さん!」


 伊崎は横山にガンを飛ばし、

「ヨコタマ……」


 アイスピックでヤスコの頭部を刺すのを止めた。


 生活指導部員達は怪我人のヤスコを運びながら、

「ヨコタマが居てラッキーだったなヤスコ…… 居なきゃ死んでたぞ?」

『うぐぐ… なんでパシリのヨコタマなんや?』

「ヤスコは関西からの転校生だから知らねえのか? ヨコタマと伊崎は昔からのマブダチらしい。 だからヨコタマはかろうじて狼の群れの中のウサギだけど聖クリで生きていられる」

『うぐぐ…ぜって伊崎に報復したる……くそ』

「もうやめとけって……伊崎は、ココの裏番濃厚だぞ? それにヨコタマは、あの鬼頭姉妹さんの専属パシリだ…… 勝手にヨコタマをパシリに使ったら鬼頭姉妹さんからも目を付けられるぞ……あの姉妹は見た目通りに別格にやべえ」

『うぐぐ……関係ねえ、怪我治ったら、ぜってえヨコタマさらって……伊崎を殺す』


 

 伊崎は横山の割れた眼鏡を見て、


「ヨコタマ? その眼鏡? 誰にやられた?」

「鬼頭姉妹……」


 じ~っと横山を見つめ、

「なんだアイツラか……」


 伊崎は、横山の手をぎゅ~っと掴んで、


「来いよ、ヨコタマ……」


「え? え?」


 結構長い距離、体育館の倉庫まで、連れて行かれる。


 キ――ン コ―――ン カ――――ン コ――――ン


 2限目開始のチャイムが鳴る。

 高い跳び箱に座り足をブラブラさせる横山は伊崎を見下ろしながら、

「伊崎さん、2限目が始まったよ……」

 

「ヨコタマ…… ココは監視カメラが無えだろ?」

 跳び箱の下にマットを敷いた伊崎はツインテールを解き、横山の顔を見上げながら、

「な? な?」


「なんですか?」


「いや…… 昨夜、学校来てくれってラインして来ただろ? てっきり……」


 横山は学生カバンを開けて、鉄警棒を取り出した、


「はい、これ、こないだの忘れ物」


「え?」


「伊崎さんは、この学校でも裏番のブラックチェリー役なんですから、それを忘れちゃダメです」


「すまねえ」


「ブラックチェリーに負けは許されませんから、何があっても絶対に負けないでくださいね」


「自分は誰にも負けねえよ……んな事より…」

 伊崎は横山の靴下の右足首を優しく握り、

「やろうぜ…?」


「ダメです、そんな気分じゃないですもん」


「ちっ……」

 左手の中指の爪を噛み始めようとした時、横山は、


「やめなさい!!」


「う!?」

 さっと手を戻した伊崎に横山は、


「左手を見せてごらん」


 伊崎は自分の左手の爪を確認した後に、

「ああ……」

 差し出す、その右手の爪を見た横山は、


「よし、よく頑張って爪噛むの我慢してるの分かる……」


「ああ…… 噛むなって言われたから……」


「爪なんかで影武者とバレたらダメですからね……」


 横山はヒュンっと高い跳び箱から下りて、三年の黒の制服のボタンを外し始め、


「少しだけなら……」


「うん……」


「我慢のし過ぎは毒だからね……」


 学生カバンから筆箱を取り出した横山は、その中からラップに入った粉を伊崎に渡した……



「違う…… 直美、なんかいつもと違う……」


「伊崎どうした?」


「他に誰か好きな女でも、できたのか?」


「いない」


「絶対嘘だ……言え…」


「言えない…」


「誰だ? 言えよ……」


「伊崎…… あなた絶対に殺しに行くでしょ? だから言わない」


「言えよ!!」


 伊崎は、横山の首を絞めていた……


「言わないなら殺す…」


「うううっ……」


 伊崎は、「ハッ」っと手を放し……


「ごめん……たぶんチェリーのせいだと思う…… 感情が安定しないんだ……」


 横山は立ち上がり、制服を着始める……


「もう戻ります……」


「ちょっと待て……謝るから」


「もう気にしてないけど…… ドラッグに飲まれ過ぎてガッカリした」


「晩飯、焼肉おごるから」


「あなたと二人で焼肉? 勘弁して」


 伊崎は貞子な髪の状態で、下を向いて喋らなくなる……

 そんな伊崎を、横山は見下ろし、


「ごめん、こっちも言い過ぎた…… もう許してあげるから?」


 パッと顔を見上げ、

「本当?」


 割れた眼鏡をつけた横山は笑顔で、


「もちろん。 早く、二人とも髪を元に戻して授業に戻りましょう」


 伊崎はトロンとした目で、マットに横たわり……


「自分は、ここで少し休んでから行くわ」





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