110話 黒河内の回想➋ ブラックチェリー役の人選
4年後、黒河内15歳。
12月4日の夕方。
ナイロン製の黒のレザースーツを身にまとう赤リボンの黒河内は歌舞伎町の細い路地裏でタバコ(アメリカンスピリット)を吸い立っている。
ファンデーションとアイメイクと口紅をした顔は、みすぼらしかった4年前と見違えている。
黒河内が立つ前面の、路地の行き止まりにはパチンコ店員西野の子供の長男(15)が立っている。
「カネは?」
【はい……】
西野は封筒を渡してきた。
ワタシは、中の万札を確認し、万札を取り出して腰のポケットに入れて封筒をポイ捨てして、
「また来週も持って来いよ?」
【黒河内さん、勘弁してください……毎週5万円なんて無理です】
ワタシは、西野の怯えた表情を見て心から微笑み、
「親のキャッシュカードでまだ取れんだろ? これまでたった100万だぜ?」
【もうバレます、時間の問題です】
「バレても持って来い…… それから…いいな? カネは全部オメエが風俗で使ったと言うんだぜ? ワタシの名前を出したら殺すよ家族全員」
【もう許してください……】
「そんな事より妹連れて来い……」
【え?】
「売りさせる」
【まだ13歳です…】
「明日、同じ時間に連れて来い」
西野は泣き出した……
「おいおい? なに泣いてんだぁ? 盆踊りの時に言ってたじゃねえか? ワタシをイジメるんじゃねえのか?」
【ううう……】
「また連絡するからな? 必ず出ろよ?」
ワタシは振り向き細い路地裏を歩きながら、
「アイツ自殺するかもな… まっ自業自得だ。 アイツが死んだら次は妹だ」
路地裏を出ようとすると、道を塞ぐように白のクラウンが停まっていた。
「なんだこれ?」
後部座席のドア開くと、黒のYシャツのサングラスをつけたスキンヘッドのオッサンが降りた。
ワタシは腰のポケットから鉄警棒を伸ばし構え、冷や汗を垂らしながら、
「ヤクザ?」
スキンヘッドはサングラスを外し、ヤクザの遠藤に似たイカツイ顔で、
「黒河内だな?」
「ヤ、ヤクザがなんのようだ!?」
スキンヘッドはズボンと腹の間に隠していた銃を取り出し、ワタシにサイレンサーの装着された銃口を向けて来た、
「うっ……チャカ……」
スキンヘッドは後ろのクラウンを親指で指して、
「車に乗れ、黒河内」
車の後部座席に乗ると、向こうにヒョウ柄のパンチパーマのヤクザが座っている。 スキンヘッドが入って来て、ワタシは挟まれる。
スキンヘッドがドアを閉めると、運転席の顔も腕もタトウだらけの男が、
「赤リボン黒河内、俺がオメエを推薦してやったんだぜ?」
「推薦? なんのことだ?」
「ケンカは強いし、性格もエグイ…… それと釣り目以外は直美に似ているしな……」
「直美に似ている?」
横のスキンヘッドが、
「神谷、さっさと車出せ、シャーロットさんを待たせるな」
「はいはい」
神谷という男は車を発進した。
推薦と言ってたから、とりあえず殺されはしねえって事だな?
青山の住宅街で車は停まった。
横のスキンヘッドが車から降りた後にワタシの肩を掴み、
「降りろ」
ワタシが降りるとパンチも降りる。
目の前の綺麗な家の中に連れて来られる。
玄関でパンプスを脱ぎ、広いリビングに入る。
テーブルにワイングラスを手に持った…
金髪の巻き髪の女が、ワタシを見て微笑んで座っている。
その女から醸し出される喧嘩即死のオーラを感じて悟る……
今までケンカ無敗で極悪ヤリホの赤リボンと呼ばれてきたワタシの強さは……
コアラのマーチ
それと比較し例えるとすれば、この金髪の女は……
ウエディングケーキ
桁違い……
ワタシは勇気を振り絞って言った。
「アンタ、何者だ?」
ニチャ~~
「ワタシはシャーロット。 黒河内真由美さん…… 性格の凶悪性は神谷のレポートですでに分かっています。 しかしブラックチェリー役を任すには、肝心な実戦テストが必要です」
シャーロットは立ち上がった。
白のローブで長身……
ワタシの前に来た。
≪さあ、思う存分、ワタシに黒河内さんの殺意闘争をぶつけて来なさい…… ワタシの体の心配はいりませんよ? 言っておきますが、テスト失格なら殺しますからね?≫
シャーロットを前にして体が動かねえ…
完全に脳がビビってる……
≪どうしました? 早くしなさい? 黒河内さんが来ないのならワタシからいきますよ?≫
うっ!? 先に仕掛けられたら死ぬ!!
鉄警棒を取り出し、伸ばし、瞬時に腰を下ろしながらシャーロットのヒザ目掛けて鉄警棒を!!
カン!!
「え!?」
硬い? 金属か!? シャーロットのヒザは!?
≪実戦での足への攻撃は基本中の基本ですが…… ワタシの様に固められては効力を無くします。 ですが…≫
まさに光速の寸止めだった。 シャーロットの右の人差し指と中指が……
ビッ
≪目≫
ビッ
≪喉≫
ビッ
≪睾丸を高速で潰せばいいのです…… ですが黒河内さんは女性なので生殖機能を欠損さすことができませんね?≫
次にワタシの鉄警棒を優しく握り……
グニュ~~~
鉄警棒を? 針金のように90度曲げやがった……
≪ドーグも、もっと良いモノを買った方がいいですね? コレでは一度の喧嘩で10人も殺せませんよ?≫
「バッバケモノ……」
≪よって失格です。 残念で…!!≫
ワタシはすでに得意の蹴りをシャーロットの顔に喰らわせていた。
殺す前に殺さなきゃ、と思ったから…
≪ほう……≫
ノーダメージ……?
確実に殺されるなワタシ……
≪ワタシの顔に蹴りを当てるとは… 見込みはあるかもしれませんね……≫
「え?」
≪ドーグは鉄の靴も用意しておいた方がいいですね≫