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109話 黒河内の回想➊ 引きずり落す


 2年半前のクリスマスイブ


≪いつかネンショ―出れたら、その年のクリスマスに渡すわ…≫









 いってええ… 後ろから刺しやがって……


 ワタシは赤銅ヘタレに後ろからドスで刺されて、うつむきで倒れて死んだふりしている。 生きてるとバレたら京極バケモノに殺される……


 警察に誰に刺されたかと聞かれたら京極と言う。

 ワタシを刺した赤銅ヘタレは、ワタシが浦岡を殺してるの見てる。

 警察には証言させねえ方がいい。


 ワタシが殺した浦岡も京極が殺した事にさせちまおう。

 ドーグは同じ鉄警棒だし。

 だけど、これから鉄警棒は使いづらくなっちまったな。

 まあ……いっか、ワタシには得意の蹴りがある。


 救急車まだかよ? 早く来ねえと出血がヤバい……




★黒河内の回想



 子供の頃の……


 一番最初の記憶は3才で児童相談所……


 長イスで座るワタシは隣に座っている女の子供を見る。


 頬も目も腫れてる? 手は火傷? 


「なまえは?」


 ワタシは、同じような境遇のあの人に親近感を持ったから名前を聞いてみたんだ。


「なおみ、あなたは?」


 あの人(横山直美)はワタシを向いて笑顔で名前を答えてくれた。

 顔を腫らしたワタシに親近感を持ってくれたのかもしれない。

 ワタシも笑顔で、


「まゆみだよ。 なおみちゃんは何歳?」


「3才」


「ワタシと一緒だね?」


 ワタシは、あの人の手の丸い幾つもの火傷を見て、


「なおみちゃんのケガはお父さんにされたの?」


「ツクシ」


「つくし? おかあさんのこと?」


「うん……」


 ワタシは腫れた自分の頬をツンツンと人差し指で当てて、


「ワタシはお父さんに打たれた……」


「うん… まゆみちゃんも私とおんなじだね」


 あの人はワタシの頭の赤いリボンを見て、


「かわいいね、そのリボン」


 生まれて初めて人に褒められた。

 少し恥ずかしかった。


「このリボンね、ワタシのお母さんがねっ」



 その時、


 ガン!


「「ひっ」」


 相談室の向こうで何かを強く蹴ったような音に、あの人とワタシは驚いた。

 ドアの向こうで、

≪オメエらの顔も名前も覚えたからな? 東京連合がさらっちまうかもな? あ? もういい? もう帰っていいのか? じゃあな≫


 ガチャ。


 出て来た…

 上下白のジャージの女の人が、


 あの人はブルブル震えている。

 たぶん間違いなく、この女の人がツクシだ…

 ツクシは、あの人に、にやけた顔を近づけ、


「残念でした。 いったいどうやって児童相談所を知った? ま、もう終わったしいいや、さっ家に帰るぞ」


 ツクシは、あの人の髪の毛を掴もうとしたけどピタっと止めて、手を掴んで引っ張る。


 【アレがあの(なおみ)の世界】






 ワタシが9歳になった時。


 母は刺青のヤクザの遠藤をアパートに毎日、連れ込んでいた。


「おい? 真由美? ちゃんとオメエの母さんの手本をちゃんと見てろよ? はっはっは、まさに英才教育だな?」


「真由美も早く来なさい。 遠藤さん? 今日は言われた通りにローション用意しましたから、真由美も大丈夫ですよ」


 【これがワタシの世界】



 ワタシの父と母は結婚してなかった。

 父はワタシを生むことに反対していたらしいけど、母は生んだ。

 やがて……

 父はギャンブルにハマり、母の名義で借金作りまくった挙句に姑息にも借金の一部を母に払わせた事で返済義務を母にした後に、母を捨てた。


 いや…… 父とヤクザはグルだったのかもしれない‥‥‥



 堕ちた母の世界にワタシも巻き込まれたんだ。


 でも……

 母は恨んでない。

 バカだっただけだ。

 ヤクザの遠藤も、たまにお菓子を食べさせてくれるんだから。


 許せないのはパチンコ屋と父だ。

 もうワタシはアイツを父とは思わない。


 何度か、なかなかパチンコ屋から出て来ない母に腹立って、

 パチンコ屋の自動ドアに石を投げて割って逃げた。


 母とヤクザの遠藤は、ワタシを小学校に行かせてくれなかった。

 一度か二度、若い男がアパートに来て「まゆみちゃんを学校に行かせてください」と言ったが、ヤクザの遠藤が来ると帰った。



 11歳の時……


 豊島区にある『法明寺鬼子母神堂ほうみょうじきしもじんどう』の盆踊りに行った。 一緒にアパートで母と住むようになったヤクザの遠藤が、この年から縁日で出店でみせを出す機会が増えたから、母はその手伝いをさせられていたからだ。

 盆踊りの縁日は、たくさんの出店が並んでいる。

 出店で忙しそうに大判焼きを焼いている長袖着たヤクザの遠藤が、珍しく小遣い300円をくれて「まゆみは店終るまでどっか行ってろ」って言ったから……


 300円で綿菓子買った。

 灯篭の台に座ったワタシは綿菓子をチビチビ舐めながら……

 盆踊りを眺める。


 トモダチ同士で騒いでる子供。

 母の裾を掴んで泣いている子供。

 笑っている子供。


 人間って、ああやって成長とかするのかな?



 ワタシとは、違う世界の子供たち。


 あの子供たちにねたみとか無い。

 どっちかというと恥ずかしいんだ。

 ワタシ自身の存在が……



 でも…


「え? アレは?」


 あの出来事で、ワタシだけこの世界に居る事が許せなくなった。



 お金無いくせに母が未練たらしく、千円一枚持って1円パチンコとか言うのをしにかよっているパチンコ屋の店員の西野が盆踊りを踊っているのを見つけた。

 子供を3人(男1女2)連れてる……?

 しかも子供たち3人に浴衣を着せてる?

 ワタシは服もリボンも、10日以上同じ…

 

 綿菓子の棒を舐めていた手が震えていた。

 ワタシは頭が真っ白になり、パチンコ店員に歩いていた。


 店員の西野の前で立ち止まると、西野が、


「なに?」


 ワタシは土下座して、


「子供に浴衣を買うお金があるなら! 母にお金を返してください!」


 周りの人たちは静まり返ってワタシを見る。

 盆踊りの音楽だけの中、

 店員は周りをきょろきょろ見渡した後で、腰を下ろし、


「オマエのお母さん? パチンコで負けてんのか?」


「はい! ワタシもヤクザに体を売られています! 学校にも行かせて貰ってません!! だから!! お金を返してください!!」


 店員は苦笑いを周りに振舞った後で、

「おい? オマエ? いい加減にしろよ?」


「お金を返してください!!」


 店員の知り合いが数人来て、


≪どうした?≫

≪なにがあったのコースケ君?≫


「コイツの母がパチンコで負けて、逆恨みで大声出して嫌がらせしてくんのよ?」


≪なら、もう帰ろうぜ≫

≪おいガキ? パチンコは日本のルールで認められてんだよ? 言いがかりだよ?≫


「お金を返して!!」


「もう無視して帰ろ」

≪ただの乞食やん?≫

≪恨むなら母ちゃんを恨めよ≫


 店員たちは去った。

 その後ろを付いて帰る子供3人が、ワタシを笑うような目で見て、

≪あのリボンきたない≫

≪パパ悪くない、アイツの自業自得≫

≪こんど会ったらイジメてやる≫

 一生、忘れる事の出来ない目と、三つの言葉。


 ワタシは土下座の姿勢のまま、西野の子供三人の後ろ姿を睨みつけ、

「ふざけるな…… お前たちも、ワタシとあの(なおみ)の世界に引きずり落してやる……」


 ワタシを、汚いモノを見る様に、周りの子供たちも見てくる…


 ワタシは睨み回し、


「お前たちも同じだ……」



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