108話 7月2日朝 因縁の伊崎カナエと黒河内真由美
京極茜とモアイの住む、築70年の木造アパート『ロイヤルプリンセスマンション』の202号室のモアイの部屋では、
| ̄ 旦  ̄|≪行ってきま~す♪
モアイが登校しようと出入り口のドアを開けた時、すぐ横のトイレのドアが開きタバコを吸うスキンヘッドがにやけながら、
「真澄美どうした? 今日はやたら嬉しそうじゃねえか? それに、いつもより学校行くのだいぶ早いじゃねえか?」
| ̄ 旦  ̄|≪今日はね~ 学校で慰問プロレスがあってワタシがリスペクトしてる神鳥シノブが来るんだよ♪ だから早めに学校に行きたい気分なの♪
「神鳥って、まだ現役なのかよ?」
| ̄ 旦  ̄|≪50半ばくらいかな?
「すごいな、まっ学校行ってこい」
| ̄ 旦  ̄|♡≪うん
モアイは早めにアパートを出て登校した。
8時58分(聖クリ登校時間の2分前)
聖クリの前では登校する生徒達が皆、慌て始める。
Ω「おい!! やべえぞぉぉ!! 教頭代理の伊崎カナエだーー!!」
Ω「教頭代理が聖クリ四天王を引き連れて抜き打ちの遅刻チェックだー!」
Ω「走れ―――!!」
青髪⦿⦿≪急げ!
白髪⦿⦿≪伊崎いつのまに放送部長から教頭代理に格上げになったんだ!
緑髪⦿⦿≪PS2が重い
慌てて走り校門を越える生徒の最中、黒髪のツインテールに黒のミニのキャミソールの胸には『教頭代理』の名札をつけた伊崎カナエの姿があった。 右手に持った拡声器を口に当てて、
≪おら急げ! ゴミクソブタども! 今日はプロレスがあるんだぞ!? 自分の目の前で遅刻したら懲罰すっぞ! 後40秒だ!≫
伊崎は、走っていた全ての生徒が校門を越えたと思い、
「よし、四天王、門を閉めろ」
校門の扉の鉄格子を持つ聖クリ四天王3人の後姿が、
ΩΩΩ≪はい!
鉄格子を閉めようとすると…… 伊崎カナエは…
「あの赤リボンは? 四天王…閉めるのを待て…」
ΩΩΩ≪はい!
レザー服を着た黒河内真由美(176センチ)が、鉄のハイヒール(5センチ)で歩み、ゆっくりと門を越えて伊崎カナエの前に立ち止まり、冷酷な笑みで見下ろす…
伊崎カナエ(175センチ)もガンで見上げる。
黒河内を見た三年生の聖クリ四天王は、
Ω≪まさか黒河内? 出所してたのか?
Ω≪しかも聖クリに復学ですこと?
Ω≪通称『赤リボン』、アイツむちゃくちゃ強えからな… しかも性格のエグさは鬼頭妹どころじゃねえぞ…
他の登校したばかりの数百人の聖クリ生徒の群れは、向かい合う伊崎と黒河内を見つめ出した。
その群れの中の三年の生徒が、
Ω≪赤リボンが復学ってことは、一年からか? 三年で良かった…
Ω≪同じクラスは地獄だな? さすがに同情するわ…
青髪⦿⦿≪あの赤リボンは伊崎と因縁があるみたいだな?
白髪⦿⦿≪ワタシらは知らないけど、アイツ有名人なのか?
緑髪⦿⦿≪ワタシらクラス1ーAに来たらシメてやろうぜ
黒河内は伊崎をニヤケて見下ろしながら、レザー服の腰のポケットからタバコ(アメリカンスピリット)とライターを取り出し、ス――っと吸い、
「ハ――」
伊崎の顔に煙を吹きかけ、
「どうした伊崎? けむり吹きかけても攻撃して来ねえのか?」
伊崎はガンを飛ばしながら、
「教頭代理の自分は軽はずみにタイマンできねえんだよ…」
「教頭代理? なんだオメエ? ブラックチェリー役は辞めたのか?」
「くだらねえから捨てた」
「やっぱ、あの人は見る目が無かったな…… こんな中途半端なワルにワタシの後釜を任せたなんてな……」
「クビになったジェラシーで、聖クリ開校式で自分にタイマン売って来て返り討ちにあったオメエに中途半端なんて言われる筋合いはねえ……」
「《《アレ》》が返り討ち? あんな有耶無耶なタイマンが? ふざけんなよオメエ‥‥‥」
「オメエは負けを認めただろう?」
コメカミに血管が浮き出た黒河内は、三色団子の方へ右手を出して人差し指でカモンカモンして、
「そこの派手な髪してるゴキブリ三匹! こっち来い!!」
青髪▽▽# ≪おい赤リボン? ワタシらにケンカ売ってんのか?
白髪▽▽#≪もしかして北中を仕切ってたワタシら三人を舐めてる?
緑髪▽▽#≪今からそっち行ってやるよ、後悔すんなよ?
三色団子はそれぞれサバイバルナイフを取り出して、黒河内の両サイドと背後を取り囲んだ。
黒河内は伊崎に冷酷な笑みを向けたまま、
「伊崎… 緑のゴキブリが背後から刃物だぜ? こりゃ完全な正当防衛だ。 オメエがワタシを止めねえなら、オメエの学校の生徒を正当防衛で殺してやる」
その言葉に伊崎は、
「三色団子、ハッキリ言っておく、オメエら三匹が束になっても勝てる相手じゃねえ、止めろ」
青髪▼▼# ≪だまれ伊崎…
白髪▼▼# ≪伊崎オメエまで、ワタシら煽ってんじゃねえぞ…
緑髪▼▼# ≪全員、ワタシら舐めてんな…いくぞ…
三色団子が動き出した瞬間、伊崎はポケットからアイスピックを取り出した。 黒河内を刺すために……
それを見た黒河内の目は笑っていた。
その時!!
ブ―――――――!!!
クラクションの音のした方に全ての目が集中した。
クラクションを発したのは校門に真ん中で、正面向いて単車を止めた鼻から下を迷彩のバンダナで隠す赤い髪の赤銅聖羅。
「三色団子? 朝から何ヒートアップしてんだよ? こんな人ゴッタの前で殺ったらパクられんぞ?」
青髪⦿⦿# ≪ちっ…たしかにな……
赤銅聖羅により、伊崎とのケンカを止められ、笑みが消えた黒河内は赤銅にガンを飛ばし、
「誰だアイツ…? よくも伊崎を止めやがって……」
黒河内は赤銅へ歩みながら…
「オメエ邪魔しやがって! 殺してやる!」
赤銅は困惑して、
「なんかヤバいの来た…」
黒河内はガンから冷酷な笑みに変わり…
「いや… やっぱ殺さねえ… 一緒にトイレ行こうか?」
≪ 聞き覚えのある声だな? ≫
黒河内から死角になっていた赤銅の単車の後ろの席から、京極茜の声が聞こえ…… 『卍』のスカジャン京極茜が姿を現す。
それを見た黒河内は目をかっ開き、一歩下がり、
「きょっ京極?」
京極はセッタを咥えて、ガス切れかけの100円ライターでカチカチカチカチカチと火を付けて黒河内に近づき、
「ぷは~ オメエ、ネンショ―から出たのか? …名前なんだったっけ?」
「黒河内…」
「黒河内、腐りきってたオメエを、アタシがネンショ―で半殺しにしたよな?」
「全治一年だぜ、むちゃくちゃ半殺しされたわ」
それを聞いた聖クリ四天王は、
Ω≪京極はネンショ―で、赤リボンを全治一年にしてんのかよ!
Ω≪まあ京極に勝てないのは仕方ないですことよ……
Ω≪千葉連合の後藤朝子も神奈川連合の美園礼子も、妹より強い鬼頭姉もタイマンで倒してるからな? ワルの頂点に立ったダンテのブラックチェリーも秋葉原で倒したって噂だからな? しかもGWには四国を京極一人で倒したんだろ? その時のタイマン動画(谷口の首かっ切り・近間純晒し首吊り)も、いま再生回数すげえぞ…半分ホラーだけど…
聖クリ四天王の反応に黒河内はニヤ~と笑いながら生徒を見渡し、
「そう…京極に負けても恥じゃねえんだよ…… むしろハクが付く」
黒河内はゆっくりと伊崎の元に歩き、また見下ろして笑み、
「だけど、伊崎カナエに負けた事になってるのは恥だ」
伊崎のコメカミに血管が浮き出し、
「オメエ……いい加減にしろよ? 自分が京極より弱いって言ってんのか?」
黒河内は伊崎の頭を優しくポンポンと叩き、
「おいおい?何言ってんだ? 京極どころかワタシより明らかに弱えだろ? オメエ自身が知ってるはずだ? 二年前の開校式のタイマン覚えてるよな? ワタシの蹴りで歯が何本逝ったっけ?」
「……」
「ワタシの蹴りでアバラは? 何本?」
「……」
「勝ったと思って後ろ向いたワタシの背中を刺すような汚えマネしやがって…… アレ? オメエの勝ちか?」
野次馬と化した三年生が、
Ω≪え? 開校式のタイマンって? そんな不意打ちだったの?
Ω≪タイマンはギャラリー無しのトイレだったけど! 伊崎がトイレから先に出て来た時、確かにすげえケガしてた! 中に入ったら黒河内は背中を刺されて倒れてた!
Ω≪不意打ちで勝ったのかよ? ズルいな? そんなのが教頭代理だ?
Ω≪ガチヤベエ『シャーロット』とぜんぜん違うやん!
Ω≪もしかして伊崎ってそんなに強くねえんじゃね? 黒河内の話じゃ、少なくとも黒河内よりは強くねえだろ?
生徒の声を聴いた伊崎カナエは、
「黒河内、嘘つくんじゃねえよ…… たしかに歯もアバラも逝ったけど、自分は不意打ちしてねえし…… むしろ不意打ちをしたのはオメエだろ?」
黒河内は笑いながら、両手を重ねて指をボキボキ鳴らし、
「ならよ…… 全校生徒の前で白黒ハッキリつけようぜ?」
「全校生徒の前でタイマンしたらパクられんだろ?」
「伊崎? 今日は女子プロレスが来るらしいじゃねえか? レクリエーションとしてメインイベントで、リングの上で反則無しのタイマンどうよ? オメエを殺してもレクリエーション中の事故になるからな? やらせのプロレスラーのショーよりは盛り上がるぞ?」
伊崎カナエは後ろを向き、校舎へ歩きながら、
「黒河内‥‥‥もう命乞いは通じねえぞ? 受けてやる…… 残念だけど、骨の髄まで腐ってるオメエだけは殺さねえとダメなようだな……」
ΩΩ≪伊崎と黒河内の遺恨リベンジマッチ決定!?
ΩΩ≪しかもデスマッチだぜ!
ΩΩ≪やらせのプロレスなんかよりメインイベントのそっちの方がぜってえ面白い!
Ω≪黒河内に1万賭ける! いや2万だ!