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106話 新全日本女子プロレスの4人


 7月2日の午前11時。


 東京多摩市の大きな倉庫を改造して作られた新全日本女子プロレスの道場の中では、左胸に赤く新全日本女子プロレスと書かれた白のジャージを着た二人がパイプ椅子に向かい合って座っている。

 金髪のガッチリした女は社長の神鳥シノブ(56歳)。

 短い金髪パーマのどっしりとした女は副社長のアメコング(49歳)

 二人は新全日本女子プロレスの役員であり、看板レスラーである。


 神鳥は缶コーヒーを一口飲んだ後に、


「アメ? 昨日、銀行に行って会社の口座を見たら聖クリのクリスチーヌさんから500万も振り込まれてた」


 缶コーヒーを持つアメコングは驚いて、


【え!? すご! こっちの慰問プロレスの経費は、業者に頼んだ聖クリ体育館にリング設置料が12万、レンタルのレフリーが3万……485万浮きますね? 社長、やれますよ? 後楽園ホールで他団体の選手を呼んで新全日本女子プロレスとして初開催のプロレス興行が? やっと新弟子の《《山田と広田》》をプロデビューさせてやれますよ?】


 神鳥は飲み干した缶コーヒーを床に置いた後に、


「おい? 以前、ワタシが言った経営戦略の事を忘れたのか?」


【アイドル要素一切無しの本物のプロレス団体である我ら新全日本女子プロレスが、日本一のワル高の聖クリで慰問試合することにより、聖クリの生徒が女子プロレスに興味を抱き、聖クリを卒業したワルの女達が新全日本女子プロレスにたくさん入ってくる経営戦略でしたよね?】


「そうだよ。 近い将来、日本一のワル高の聖クリを新全日本女子プロレスの人材育成学校にするんだよ。 聖クリでトップ級のヤンキーが新全日本女子プロレスに入団する事により、話題性も団体の特質性も生まれ、今の冷え切ったプロレス界の中で、客もマスコミもネット配信の視聴者も呼べる」


【さすが社長… ワルの巣窟である聖クリをウチの下部組織化にするなんて……】


 神鳥はタバコ(キャスターマイルド)に火を付け、一口吸い、


「収益の485万の一部は、山田と広田に道場の近くにアパートを一部屋借りてやろう。 ビジュアルが悪いわけでもないのに練習がきついウチに入団してくれた二人に、いつまでも道場で寝泊まりさせるのは気が引けるしな?」


【はい、今日の晩メシは二人を久しぶりにスタミナ太郎に連れて行ってやりましょう、喰うのも練習ですからね】


 神鳥はスマホを取り出し操作して、京極茜のケンカのネット動画の画面を静止してアメコングに見せる。


「今回の聖クリ慰問プロレスで、この女は絶対にスカウトしたい」


【金髪の外人の女? 誰ですか?】


「知らないの? ネットで凄い話題になってる聖クリのヤンキーだよ? 正直、借金してでも入団させたい逸材だよ?」


 その時、道場のスライドドアが開いた。


 新全日本女子プロレスのジャージを着た汗だくの二人とも黒のショートヘアーの、細目の山田カリン(20歳)と、鼻頭に絆創膏を貼った広田キラ(16歳)が入って来て、神鳥とアメコングの元まで歩き、頭を下げた後に、


山田カリン  ̄о ̄ ≪ランニング10キロ行ってきました

広田キラ (●)¶(●) ≪アメさんのケイタイ返しときます


 アメコングはケイタイの写真を開き、


【よし、ちゃんとランニング証拠の長慶寺の写真撮って来たな?】


 山田と広田は鉄アレイの置いてある場所に移動して、二人で筋トレを始める。

 すぐに神鳥が、


「練習はそこまでにしとけ! 二人とも、今日は試合があんだぞ!」


 山田・広田はピタっと筋トレを止めて、


山田「試合?」

広田「聖クリの慰問プロレスに、ワタシ達も出させてくれるんですか?」


 神鳥は立ち上がり、タバコを吸いながら二人の前に歩き、


「1時からの慰問試合の一試合目は山田と広田のシングルだ。 正式な試合じゃねえからプロデビューじゃないけど、生徒1000人くらいの前でプロレスの試合ができるぞ?」


 山田と広田は鉄アレイをドンと落とした後に、向かい合って、


山田カリン「広田……やったね……初めてお客さんの前で試合ができるよ……」

広田キラ「カリン先輩も初めての試合ですよね? やばい…今から緊張してきたぁ」


 神鳥は手に持っていた空き缶の中に、タバコを入れて消し、


「第二試合も二人の出番だからな? ワタシと山田が組んで、アメと広田が組んで試合だ。 10分過ぎにワタシが広田を倒すからな?」


広田「はい! 最後は社長の決め技の神鳥締めでギブですか?」


「いや、客はド素人の若い生徒だから見た目だけ派手な神鳥ドライバーでいく」


広田「はい!」


 神鳥はポケットからノアのカギを取り出して、


「みんなのコスチュームや荷物はすでに車に乗せてやってるから、今から聖クリに行くぞ? 聖クリの不良共に本物のプロレスを見せつけてやれ」


山田・広田「はい!」


 神鳥、アメコング、山田と広田は道場を出て車に乗る。



 聖クリへの道中、赤信号で車を停めた運転する神鳥はバックミラーで緊張している広田を見て、


(アマレスのインターハイに出た事ある山田と違って、広田は人前で競技をするの初めてだから凄い緊張してんな? でも一年以上、厳しい練習に耐えてきた広田は今日の試合でプロレスの素晴らしさがきっと分かるはずだ…… がんばれよ)


 助手席のアメコングが、


【社長、青ですよ?】


「あ?」



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