102話 女の性(さが)
翌日、6月10日火曜日の朝9時の聖クリスチーヌ女子学園。
キ――ン コ―――ン カ――――ン コ――――ン
1時間目が始まる。
≪ガッガガガ 聖クリのゴミクズども おはよう≫
いつもと違うスピーカーの声に、3ーBでクラスメートにドラッグを売りさばいていた聖クリ四天王は、
ΩΩΩ≪声がいつものシャーロットじゃねえ? この声はまさか?
≪今日から、自分、三年の伊崎カナエが放送部の部長として授業のアナウスをさせてもらう≫
Ω≪伊崎が放送部?
Ω≪アイツは何人も殺してる恐ろしい女ですことよ
Ω≪でも、今日の分のブツを売らねえと鬼頭に殺されるしな?
≪おい四天王? オメエら教室でドラッグ売ってんじゃねえぞ? ただちに止めねえとオメエら三人は殺処分だ≫
Ω≪監視モニターで見られてる!?
Ω≪すぐに売るのを止めてブツを隠すですことよ!
Ω≪アイツはジャンキーだから、きっと後でブツを独り占めする気だ!
≪四天王はちゃんと教科書見て授業をしねえと殺す≫
ΩΩΩ≪誰か教科書持って来てねえか!?
1ーAでは、ポータプルのDVDにWiiを繋げて、イスに座ってマリオカートをマルチ4人プレーする三色団子とモアイが、
青髪⦿⦿≪伊崎カナエって? 埼玉の無敗街道の?
白髪⦿⦿≪まあゲームくらいなら殺されねえだろ?
緑髪⦿⦿≪今日は久しぶりに京極も学校に来たり、モアイに新しいオッサン彼氏ができたらしいし、最近は色々あるな?
| ̄ 旦  ̄|≪よしスター貰い! さすがモテ期♪ 無敵だわ♪
机に社会の教科書を広げ、並んで座る京極と赤銅は、
「京極…… 伊崎のカスが放送部ってどういう事だよ? このアナウスって校長室からだろ? なにか知らねえのか?」
「アタシが知ってるのは、数日前に校長のボディガードのバイト、アタシがクビになったって事だけだな」
赤銅は驚いて、
「京極、クビになったのか?」
「ああ、代わりに伊崎が校長のボディガードをしてるはずだ」
「京極…… 校長に嫌われたのか? あんなに仲が良かったのによ?」
「ここ最近、眠ってばかりだったからな? 仕方ねえよ」
赤銅は教科書を見つめながら、
「まだ…… 横山先輩が東京連合の総長だったなんて…信じられねえ」
京極は赤銅の肩を抱き、
「赤銅、これからは絶対にアタシから離れんじゃねえぞ?」
赤銅はイスを寄せて、
「もちろんだ」
校長室
包帯グルグル巻きの頭部の包帯の隙間から両目は見え、ツインテールが飛び出している伊崎カナエは、教室の監視モニターを見つめながらマイクに口を近づけ、
「おい、1ーAの角刈りオナベ二人、なに授業中に勝手に不純異性行為してんだよ? 止めねえと殺すぞ……そう、それでいい」
マイクを切り、1ーAの京極と赤銅をズームアップして、
「京極と赤銅って授業は真面目に受けてるんだな?」
校長の机で事務作業をするクリスチーヌ校長は、
「カナエが放送してくれて助かるわ。 そろそろ生徒達にもシャーロットの声が録音だってバレそうだったからね(;'∀')」
伊崎カナエは立ち上がり、インスタントコーヒーを作りながら、
「シャーロットは、いつまで学校を休むんだ?」
「体調不良らしくてね……未定よ。 治り次第、学校に来るらしいけど(◞‸◟)」
伊崎カナエはコーヒーを校長の机に置いた。
「カナエ、ありがとう(´▽`)」
「どういたしまして…… もしかして校長は知らなかったのか? シャーロットは東京連合の……」
「なに?(;゜Д゜) シャーロットは東京連合のなに?(;゜Д゜)」
伊崎カナエは少し考えて、
「いや…… 1か月くらい前にシャーロットさんがケンカ売って来た東京連合の男をボコボコにしてるの見た(ウソ)」
「シャーロットにケンカ売るなんて東京連合にも凄いバカがいるのね(◞‸◟) かわいそうに(◞‸◟) あ?('Д') 一人だけいたわ……京極が('Д')」
「東京連合といえば、最近はダンテという愚連隊と抗争していてるから、自分が校長のボディガードする必要はねえかもしれねえぞ? 奴らも校長を拉致するヒマなんてねえだろうし?」
「東京連合とダンテの抗争は知ってるけど、備えあれば憂い無しよ(´▽`) たとえ東京連合が拉致しに来ても、京極と互角の強さのカナエがいれば安心だもん♪(^_-)-☆」
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時は戻り、ブラックチェリーがスキンヘッドに、シャーロットの殺害を指示した5月29日の夜。
青山のシャーロットの家の駐車場に、シャーロットの運転するリンカーンが停まる。 車から降りた後に、家の二階の窓を見上げ、
「明かりがない、直美は今日も帰ってこない……」
家の出入り口の扉へ歩き、シャネルのバッグから家のカギを取り出し、カギを鍵穴に刺し回す。
ガチャ。
カギを開け、扉のノブを下ろす直前……
≪……≫
シャーロットはノブからゆっくりと手を離し、車に戻り、どこかへ走り去る。
家の扉の向こうの真っ暗な通路には……
サイレンサーの銃口を出入り口の扉に向けたスキンヘッドが立っていた。
「リンカーンのエンジン音? 出入り口のセコムのカメラにテープを張ってるのに気づいた? 相手が俺と分かっちまったかもな? そうなれば雲隠れしちまう……」
リンカーンを運転するシャーロットは、
「あの手口はスキンヘッド…… 間違いなく命を狙われている……」
―――――――――――――――――――――――
再び、6月10日の夕方。
京極の住むボロアパート『ロイヤルプリンセスマンション』102号室の真上の202号室では……
| ̄ 旦  ̄|♡≪ただいまダーリン♪
学校から帰宅したモアイに、中に居たスキンヘッドが歩み寄り、
「真澄美」
スキンヘッドは財布から一万円札を取り出し、モアイに渡し、
「これで晩飯を買って来い」
| ̄ 旦  ̄|≪ありがとう、今日はすき焼きを作るわね♪
スキンヘッドは笑いながら、
「すき焼きすんならバラ肉で頼むな? それとビールとタバコも買って来てくれ」
| ̄ 旦  ̄|≪それにしてもダーリンは本当に音楽が好きなのね? ずっとイヤホンを付けてるもんね?
「くだらねえ事を聞いてる暇があったら、さっさと買ってこい」
| ̄ 旦  ̄|≪は~い、行ってきま~す♪
バタン。
ドアが閉まるとスキンヘッドがイヤホンを外す、イヤホンから、
≪京極、久しぶりに京極のアパートで泊まるんだからいいだろ…… ばか 風呂行ってからだ≫
下の京極の部屋を盗聴する音が聞こえる。
「雲隠れしたシャーロットは、娘の所に来るかもしれねえからな。 というか… 今のところソレしかシャーロットを探す手立てがねえ……」
スキンヘッドは窓から、モアイが嬉しそうに両肩を揺らしながら歩く後姿を見て、
「顔はアレだが、性格はバカで良い子だ…… 気が向いたら今晩はしゃぶらせてやるか……」
鼻で笑った。
その日の夜。
調布駅近くのバー『SI-BOO』にシャーロットが入って来た。
カウンター席だけの店内に、他に客は居ない。
40代の頭の薄い正装を着たマスターはシャーロットの顔を見て、
「いらっしゃいませ…… あなた以前、ウチに来た事ありますかね? 見た事あるような?」
「16年前に一度だけ、それ以来です」
「なぜ? ウチに16年ぶりに?」
シャーロットは微笑みを向け、
「東京の中心部では命を狙われてるんです」
「ははは、それで調布まで? どうぞお座りください」
シャーロットはマスターの前のカウンター席に座り、
「ウイスキーをロックで」
「16年ぶりでしたら、ラガヴーリン16年を出しましょう」
マスターはラガヴーリン16年のロックを、シャーロットの前に出し、
「思い出しました。 夜なのにサングラスをつけた男性と来てましたね? 印象的な事がありましたから覚えています」
「ええ、彼はワタシの左の、この席に座っていました……
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シャーロットの回想
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マスターが、ワタシと宮本晴彦の前にウイスキーの水割りのグラスを二杯置いた。
ワタシは一口飲んだ後に、横の宮本晴彦を見て、
「相談のために、わざわざ、こんな遠い所に呼び出して…… いつもの銀座のアンブレラでいいのでは?」
宮本晴彦はグッと飲んだ後に、
「アンブレラのマスターは、ツクシと仲が良いからだからダメだった。 シャーロットさん、俺はツクシと別れたいんだ……」
ワタシは宮本晴彦の目を見つめ、
「別れた方が良いと思います」
彼はサングラスを外し、ワタシを見つめ返してくる。
「シャーロットさん…… 俺、最初からシャーロットの事が好きだった。 年上だけどきれいだ」
「……本気で言ってるんですか?」
彼はワタシの頭の後ろを押さえ、強引に口づけをしてきた。
若いマスターはワタシ達を見た後に、向こうに目を逸らした。
長い時間の口づけが離れた後で、
「シャーロット、俺はオマエを愛してるんだよ」
「晴彦はツクシと別れられるの?」
「絶対に別れる……俺を信じてくれ」
また軽く口づけをしてきた。 離れると優しい目を向けてくれた。
宮本晴彦を信じたワタシは、その後に迫られ、彼の誘いを断れずホテルに行き関係を持った。
けど…… 宮本晴彦はツクシとは決して別れなかった……
しかも、
同時期に宮本晴彦はワタシの他に、後藤朝子の母とも関係を持っていたとは……
後藤朝子の母もワタシと同じ気持ちだったのかもしれない……
クリスチーヌを身ごもりながらアメリカを出た先代聖女のマリア様も同じだったのかもしれない……
★シャーロット目線
≪ロックのおかわり作りましょうか?≫
マスターの声で回想を止めたワタシはマスターの目を見る。
「お願いします。 この店に人を呼んでまして、もう来ると思います」
ちょうど扉が開いた、
DNA鑑定をしてくれた若い警官が私服で来た。
「シャーロットさん…… 仕事で遅くなりました、すみません」
彼は右の席に座った。
それから、一杯ずつ飲み、ワタシは彼をホテルへ誘った。
安い部屋が一つしか空いてなかった。
部屋に入り、彼の後にシャワーを浴びて、バスローブを着て脱衣室を出る。
座っていたベッドから立ち上がった彼の前で、バスローブを脱ぎ落とし、
「あなたより、ずっと年上だけど、きれいですか?」
「とてもきれいです……」
「あなたも脱いで」
「はっはい」
彼もバスローブを脱ぎ落として裸になる。
立ったまま、彼と抱き合い、長い口づけをした後に
ワタシは屈み……
女は、好きになった男になら…… 何でもしたくなる……