★インターミッション★ 1850年 黒人奴隷収容所ブライアンクリフでの出会い
1850年、ある日の昼下がり、サンフランシスコの海面から高い崖沿いにある黒人奴隷収容所ブライアンクリフの広い敷地を裸足で歩く20人の黒人奴隷の男の列があった。 銃を持った白人のイギリス軍人達が列を監視する。
ブライアンクリフの敷地に、50基以上は設置されている大きなテントの一つに入って行く20人は、1848年にアメリカ西海岸で起きたゴールドラッシュの労働力として、住んでいた集落を銃を持った奴隷商人に襲われナイジェリアから海を渡り売られてきた新たな労働者達。
奴隷全員が足元は芝生の大きなテントの中に入る。 すぐに監視側の奴隷であるガタイの良い黒人通訳から奥に積めるように指示され、皆が奥に詰めると奴隷同士で不安顔で小声で話をしている。
パーン!
銃声がテントの出入り口の向こうで鳴り、奴隷たちは沈黙になり出入り口に集中する。
静寂の中、
ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、
硬い靴の音が聞こえ、二人のガタイの良い白人の軍服の男が出入り口に立った。
一人は、イギリス政府公認であるブライアンクリフの所長スコールズ。
白髪の短い髪に立派な長い白のヒゲ、眼に凄みを持つ60代。
もう一人は、所長補佐ジョンストン。
剃髪で、所長と同様に顔に凄みを持つ40代。
黒人奴隷達は一切の優しさを感じさせない、この二人を見て更に絶望。
ガタイの良い黒人通訳は所長の横に歩く、所長がボソボソと言った言葉を通訳する。
「カナンは呪われて、奴隷の奴隷となり、兄達に仕えよ」
所長が収容所ブライアンクリフに初めて来た奴隷に必ず言う、聖書の一文である。
所長と所長補佐は去る。
すると、出入り口にシスター7人が来て、聖歌を歌い出す。
黒人奴隷達は不思議そうに見て聞いている。
歌い終えると、他のシスターがベージュのシスター服にスカーフを被っている衣装の中、真ん中の唯一の白の絹ローブで小柄な金髪ベリーショートヘアの一番若いシスターだけ気持ち良さそうに、顔の横に右手の人差し指を天に向けていた。
シスターの皆が、奴隷達に十字を切り、
「「「「神のご加護があらんことを」」」」
シスター達はテントから去り、歩きながら、
≪ララ様、新たな奴隷達への祈りが終りましたから、早く所長から布施を頂いて町に帰りましょう。 ララ様が観たがっていたサーカスの開演時間に遅れてしまいますよ≫
絹のローブを纏うシスター・ララは、銀のキセルにマッチで火をつけ、
「ぷは~~ しかしココは酷い所ですね?(*´з`)」
≪はい、奴隷達の収容所ですから≫
「違うんです。 ワタクシの歌声に、奴隷達から感動を感じ無かったんです。 アフリカからの奴隷とはいえ知性が無いというか……感性ですかね?(-_-)」
≪あの者達にも、いつかララ様の声が響くといいですね≫
シスター達はブライアン・クリフの敷地内の所長の居住するレンガの建物に入る。
所長室のドアの前でシスター・ララが、キセルの灰を逆さにして捨て、キセルを同行シスターの1人に渡し、
「ココであなた達は待ってなさい(-_-)」
≪はい≫
シスター・ララはノックして入る。
所長室は、立派な机の向こうに座る葉巻を吸うスコールズ所長と、その横に立つジョンストン所長補佐がいる。
ララは机の前に歩み、
「所長様、我ら教会への、お布施をお願いします(・・)」
咥え葉巻のまま所長は無言で、机の棚から布袋を取り出し、机の上にジャラっと置いた。
シスター・ララは左手で布袋を取った後に右手で十字を切り、
「所長様に、神のご加護があらんことを(*‘∀‘)」
シスター・ララがドアの方へ振り返ると、入った時に気づかなかった女がドアの横のイスに、腕と足を組んで座っていた。
黒のドレスに金のボサッた長い髪、熱い化粧、タバコを吸っている。
シスター・ララと同い年くらいだが、一目で所長の娼婦だと分かる佇まい。
シスター・ララは女の前に歩き、にやけながら見下ろし、
「あなたにも、神のご加護があらんことを(*‘∀‘)」
女は急に、
「……ぷっはははは、はははは」
笑った。
「な~に? なんで笑うの~?('Д')」
女は立ち上がり、ニタ~~~~っと笑った後に、シスター・ララの耳元で、
「神神って…… オマエに人を救う気持ちなんてないだろ? オマエじゃ、さっき祈ってきた《《奴隷達が何を望んでいる》》かも分からないだろ? もう行け、消えろ」
「なにいい(`ヘ´) ワタクシを誰だと思っているの (`ヘ´)」
「人間、ぷは~~~」
女はタバコの煙をシスター・ララの顔に吹きかけた。
シスター・ララは所長と所長補佐の方を向き、
「この女に何か罰を与えてください!!(; ・`д・´)」
しかし、所長と所長補佐の二人は黙して無表情にシスター・ララを見ているだけ……
女はまた耳元で、
「オマエの声じゃ、誰も動かねえよ」
「ちっ(`ヘ´)」
シスター・ララは不機嫌で所長室を出た。
建物から出て小走り歩いていると、同行シスターが後ろを付いて来ながら、
≪どうされました? 何かあったんですか?≫
「別に! 軍人と娼婦が嫌いなだけよ! お父上に言ってやる!(`ヘ´)」
翌日、シスター・ララはスコールズ所長が昨夜に殺害された事を知らされる。 昨日、聖歌と祈りを与えた奴隷達20人と通訳をさせられていた奴隷を奪われた事も知らされた。
奴隷略奪の実行犯は、負傷させられたジョンストン所長補佐の証言から、あの娼婦が奴隷略奪の実行犯とも知らされた。
「あの女が? 奴隷泥棒で所長を殺した?('Д')」
その夜、サンフランシスコ教会の個室で、シスター・ララはワインを開けて飲んでいた。
「しかし、ちょっと怖いわ~(>_<) ワタクシ……殺人者に挑発されちゃったんだからね(>_<) あの殺人者、奴隷20人と通訳奴隷も盗むなんてね……きっと高く売り飛ばす気ね……(;'∀')」
トントン
ドアがノックされ、教会の使用人である黒人奴隷二世の10代前半の女がチーズを持ってきた。
「どうぞ」
使用人はチーズの皿をテーブルに置く。
ララは昨日、殺人者に言われた事を思い出して、
「トルチ? 聞きたいんだけど? あなたが望むモノってなに?(´▽`)」
トルチは深く頭を下げて、
「わたしは今の生活で十分ですので」
「なにかあるでしょ?(´▽`) 怒らないから言ってみて(´▽`)」
「本当に無いんです……」
トルチは頭を下げながら部屋を出た。
シスター・ララは閉ざされたドアを見つめながら、
「無いって事ないでしょ? 奴隷でも?(´▽`)」
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150年以上後に、ツクシに踏み潰され消えた赤子のタマシイに、パイソンの神の肝を食べたシャーロット・マホニ―(ブライアンクリフ所長を殺した女)のタマシイが甦り、横須賀の少年院でシスター・ララの最後の子孫クリスチーヌと出会う。