97話 自暴自棄が育てたブラックチェリー夜叉
翌日5月29日の朝10時、渋谷のゲームセンター「スペクター」
開店後すぐに三人組の若い男が入店する。 メダルコーナーに行きメダルバンクで静脈スキャンして預けていたメダルをジャラジャラと落とす。
三人組は回りを確認している。
競馬ゲームへ歩み、近くのごみ箱に何かが詰まったビニール袋を捨てる。
三人組は競馬ゲームを遊ぶ。
清掃の仕事をしていた若い店員が、ごみ箱に捨てられたビニール袋を拾い上げて、持っていたカゴの入れて店のカウンターの奥のドアに入った。
適当にBETする三人組はアクビをしながら、
「ふわ~ むっちゃ眠いんだけど」
「ちゃんと12時までゲームしてねえと鬼頭さんに殺されっぞ」
「あの人、顔こわすぎでしょ? でもよ? 二日前の集会の後に、陰でケイタイで中国語で話してんの聞いたわ。 あのナリで中国語喋れんだぜ?」
その時…
「すみません」
後ろからの、か細い声で三人組は振り返り、
声をかけて来た、小柄で細い学生服の髪をビッチリ横に流したガリ勉メガネ君を見つめる…
「んだ? オメエ?」
「一人?」
「死にてえのか?」
「今… ゴミ箱に何を捨ててたんですか?」
「……ぷっ」
「ゴミだよゴミ、弁当箱弁当箱」
「オメエもゴミ箱に捨ててやろうか?」
「お金みたいでしたけど? いっぱい入ってたみたいですけど…」
三人組の表情は変わる…
「……こいつ警察か?」
「んなわけねえだろ? まだ10代だし? 身長制限も足りんでしょ?」
「とりあえず店の裏に連れて行って袋にしようか」
三人は立ち上がり、ガリ勉君を囲み、それぞれが制服を引っ張り、
「出るぞ?」
「オメエ舐めてんだろ?」
「とりあえず、財布と学生証とケイタイ出せ」
「やめてください!!」
「ただのバカ?」
「10万で許してやるよ?」
「カネ出せなきゃ数日一緒に遊ぼうか?」
「まさか愚連隊ダンテですか?」
「ああ? そうだよ?」
「ビビった?」
「もう手遅れだけどな?」
「来ていいぞ…」
「「「は?」」」
ぞろぞろとゲームセンターに兵隊が入ってくる…
「「「おい?」」」
その数は店内から溢れるほど…
「「「誰だよオマエら?」」」
ガリ勉君は眼鏡を外し、学生服を脱ぐと「千葉連合特攻隊」と書かれた特攻服を着ていた。 真横に流していた髪をフっとなびかせると、長い髪のハーフスキンヘッドの側頭の皮膚には「虎武流」と彫られている。
スパ
三人組の一人は虎武流のナイフで鼻をそぎ落とされた。
鼻を抑えて、両ひざをつく。
「うっうう」
「鼻、自分でゴミ箱に捨てとけ」
虎武流は警察を呼ぼうとしない店員を見て、
「やっぱりこの店はダンテの店か? 総長どうぞ!」
兵隊が詰めて道を作り、その道から、右手に持った抜き身のポン刀を肩に置き、黒のビキニの上に『全国制覇』の白装束を羽織った後藤朝子と、緑の唐草柄の浴衣を着た巨漢の美園礼子が歩いて来る。
左手に持っていた空のタピオカミルクティーをグシャと潰して捨てた後藤朝子は、
「おい虎武流? なに勝手に鼻を落としてくれてんだよ?」
「ちょっとムカついたんで……総長…相変わらずセクシーっすね?」
「オメエにはヤラセねえけどな」
美園礼子は虎武流をギョロ目で見下ろし、
「虎武流はワタシのタイプ、ワタシがヤラセテヤロウカ?」
「結構です」
即答。
後藤朝子はタバコ(ラッキーストライク)を咥えると、虎武流がサッと火を付ける。 後藤朝子はダンテの三人組を見て、
「一応、聞くけど? ブラックチェリーの居場所知ってる?」
三人組の一人が後藤朝子にガンを飛ばし、
「オメエら、ダンテに歯向かったらタダじゃすまねえぞ?」
ポン刀を肩の上に置いている後藤朝子、
「ダンテにも骨があるヤツがいるんだな?」
スパン
「? …俺、今、切られた?」
一人の男はポン刀で斬られた。
顔に縦|にゆっくりと一直線が見え始めた、
バタンっと倒れ、血の水たまりが出来始める…
「これは東京連合とダンテの戦争だ… もう一度聞く…ブラックチェリーの居場所知ってるか?」
「知りません!」
「俺たち下っ端じゃ分かりません!」
「なら、クリエイターの居場所も知らねえか? 知らなかったら生かす価値ゼロだけどな?」
「知りません! すみません!」
「東京連合に戻りますから許してください!」
「戻る?」
後藤朝子は周りの兵隊をニヤケながら見渡して、
「コイツ? 東京連合に戻るだって?」
兵隊「ははは」
兵隊「甘すぎですよね?」
兵隊「総長、死体の処理任せてください」
後藤朝子はダンテの二人組に笑いながら、
「アタイの東京連合に、もう東京はいらねえ… いや…最後まで東京連合を裏切らねえでいてくれた雷火含めて数人だけはアタイもリスペクトがあるから大事にするけどよ。 それ以外は千葉と神奈川で、東京を乗っとんだよ?」
「じゃあ俺たちどうなるんすか?」
「命だけは勘弁してください…」
後藤朝子は振り返って歩みながら、
「オメエら(兵隊)、煮るなり焼くなり好きにしろ? 店員もな? カネは奪ったら好きに使え」
ΩΩΩΩ≪はい!
店を出た、後藤朝子の横を美園礼子が歩く。
美園礼子はビリヤードのキューケースを後藤朝子の前に見せ、
「アサコ、街歩くトキ、真剣ヲ隠セ」
「そうだった」
美園礼子はニヤっと笑い、
「アサコノ、ワルイ癖ダ」
後藤朝子はキューケースにポン刀を仕舞い。
「さあ手当たり次第にダンテを刈るぞ…」
「千葉ト神奈川ガ組メバ、東京には負ケナイ」
二人の後ろには兵隊が200人を越える兵隊が続く。
一時間後…
秋葉原の個室ビデオの個室のイスで眠るブラックチェリー…
≪TRRRRRR≫
ケイタイの呼び出し音で目が覚め、
「なんだ? スキンヘッド?」
≪おい…直美… 東京連合が大軍になって息を吹き返してやがるぞ?≫
ブラックチェリーはアイコスの電源を入れる。
「あ?」
≪渋谷で暴れてやがる… 拠点の一つスペクターも襲撃された≫
「マジで意味不明だけど? なんで?」
≪知らねえわ! とにかく下のヤツが撮った東京連合の画像送るわ≫
画像が送られてきた。
ブラックチェリーは画像を見る…
「おいおい… あの時、私を裏切った後藤朝子に美園礼子じゃん… 田舎にこんなに兵隊を隠し持ってやがったのか…つくづくウゼエな…あの二人…」
ブラックチェリーのコメカミには血管が浮き出ている。
≪どうするよ? なんでもすでに殺しもしてるとか…≫
ブラックチェリーはアイコスを吸いながら、
「おもしれえ… 上等じゃん… 私と鬼頭、そして谷口とさんごで兵隊連れて、出向いてぶっ潰してやる」
≪数じゃ僅かにコッチが上だ。 だけど正直、兵隊の強さはアッチが上かもな?≫
「いちいちうっせえんだよ!! そんな事よりオメエ!! いつになったらシャーロットの命取んだよ!!」
≪え? あれ本気だったの?≫
「あたりめえだろ!? オメエとパンチを、ダンテに入れてやる代わりの条件だったろ!?」
≪とは言ってもシャーロットだぞ? 無理に決まってんだろ? というか本気で言ってんのか?≫
「オメエの銃… 使えばイチコロだろ。 心配すんな、言ったとおりに替え玉も用意できてる」
≪直美… 本当にいいんだな? オメエをツクシから助けてくれて、育ててくれた母ちゃんだぞ…≫
「殺れ… いずれ必ずシャーロットは邪魔になる」
≪分かった…… でも俺自ら殺人する以上、このケイタイでシャーロットと連絡はしねえし、今からこのケイタイを壊すから、もう繋がらねえからな? シャーロットを張って尾行して殺すタイミング見計らう。 殺した後に公衆電話でかけ直す… 最後に聞くけど、本当にいいんだな?≫
「長い付き合いのオメエがシャーロット殺したら、おもしれえって言ってんだろ?」
ブラックチェリーはケイタイを切る。
ケイタイの待ち受け画面には、子供の時にシャーロットから買って貰った、大好きな大きなクマのぬいぐるみがあった。
「……おもしれえ? おもしれえ? これおもしれえか? ……おもしろくねえな… おもしろくないよ…ぜんぜん」
恥も無く急いで、かけ直すが、
スキンヘッドは出ない。
「もうケイタイを壊した…?」
パンチに電話をかけた。
「スキンヘッドといる?」
≪いない! 東京連合で、それどころじゃない!≫
「会ったら必ず、すぐ私に連絡させて」
ブラックチェリーは電話を切った。
胸の夜叉の入れ墨を抱くように震え…
「私は……自由の女神なのか…?」