表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

柴犬童話集

よあけにとけるゆき?

作者: 柴犬

ギャグ追加版です。


B版ともいう。






 其れは寒さが染みる季節だった。


 早朝。


 陽も上がらぬ時間。


 夜も明けぬ早朝。






 人間の子供は空を見上げた。






 空からはチラチラと雪が降り注ぐ。


ツウ~~と頬を露が湿らせる。


 頬を濡らす露の雫を拭いもせず空を見上げていた。


 そんな時だ。


大きな流れ星が流れた。

 とても大きな流れ星が。


 大きく優しく綺麗な流れ星が。

 其れを見た人間の子供は思わず願った。


「流れ星さん流れ星さんどうか此の悲しみを忘れられる様にしてください」


 流れ星は何も答えない。

 当然だ。

 流れ星は唯の流れ星。

 人の嘆きなど理解できない。

 だから答えない。

 だけど言わずにはいられない。

 悲しみで心が一杯だから。

 人間の子供心は悲しみに満ち溢れていた。

其れを見た流れ星は思った。


「あっ……此れ助けてやらんとメンドイことに成る」


 流れ星はため息を付くとヤレヤレと首を振った。

 首が無いけどっ!

 首が無いけどっ!

 

「というわけでアノ家族に恩の有る奴返せや」


 凄い適当。


「というかヤレ」


 流れ星を見た家の柴犬が甲高く鳴いた。


「まあ~~家族の一人として面倒みてやるか」


 屋根の下で寝ていた野良ネコは眠い目を擦り流れ星を見上げた。


「兄ちゃんに給食のパンを貰ったし一緒にいてやるか」


 ゴミバケツを漁っていた狐は食事の手を休め流れ星を眺める。


「お母さんから残飯を貰っていたしその恩ぐらい返すか」


 畑を荒らしていた狸はその手を止め流れ星を仰いだ。


「盗み食いした芋の分ぐらい恩を返すかな」


 その時奇跡は起きた。

 流れ星の奇跡。

 ごくわずかな時間の魔法の奇跡が。


「俺様の奇跡を見よっ!」

 

 流れ星……。


「あんだよナレーション」


 いえ何でもないです。


「それなら良い」


 少し。

 いや可成り。

 不安になる奇跡だが……。




 家から出てきた人間の子供はトボトボと冷たい道路を歩きだした。

 手足は痺れる様にになり感覚がマヒしてきた。

 はあ~~と吐き出す息は白く霧の様だ。

 水たまりは硝子の様に硬くなる。

 氷の硝子だ。

 トンと乗るとパキンと割れる。

 面白い。

 呆れた顔でネコが見ている。


「うわ~~い」


 弟のネコが人間の子供を見る。

 本気で呆れた目で。



「兄ちゃん兄ちゃん何を阿呆な踊りをしてるの?」

「マテ」


 ネコの弟に人間である子供は思わず突っ込む。


「どうした兄ちゃん?」

「太郎……兄ちゃんに向かって其れは無いだろう?」

「でも変な踊りだよ」

「いや楽しいから真似してみな」

「うん」



 末の弟でネコの太郎は屋根下から出てきて水たまりの氷を砕く。


「うん? 面白いね」


 白い尻尾をフリフリしながらその二本後ろ足で踊るように氷を砕いていく。


「面白いね兄ちゃん」

「そうだろう」


 弟の言葉に人間である子供は踏ん反り返る。


「でも兄ちゃんの踊りは変だよ」

「ほっとけ」

「一緒に踊ろうよ兄ちゃん」

「良いよ」


 落ちた洗濯物の手ぬぐいを頭に被り落ちない様に前足で掴む。

 そして人間の子供とネコは踊りだす。

 何時もの踊りだ。


 何時もなのか?

 そう人間の子供に疑問が浮かぶが気のせいだろう。


 両親は何時も止めろと言うが踊りだしたら止まらない。

 止められない止まらない。


「楽しいね~~」

「そうだな太郎」


 だって楽しいから。

 嫌な事は全て忘れるから。


「はて? 嫌な事?」


 人間の子供は首を傾げる。

 記憶がぼやけてるからだ。


 トン。

 トン。

 トン。



 地面を叩くように靴の音を鳴らす。

 何度も何度も。

 まるで楽器だ。

 氷で出来た楽器だ。

 ネコの弟と奏でる氷の楽器の音楽だ。



「兄ちゃん兄ちゃん新しい楽器だよ」

「そうだね良いのを見つけたね」



 そして末の弟は土の上に生えている氷の草を見つけた。

 霜柱だ。

 新しい楽器だ。


 パキン。

 パキン。

 パキン。


「楽しいね楽しいね兄ちゃん」

「そうだね太郎」

「でも少ないね」

「少ないね」

「でも楽しいね」

「そうだね」



 足元で霜柱を踏みしめる音が響く。

 良い音だ。

 クルクルと人間の子供と弟のネコは更に踊りだす。


 トン。

 トン。

 トン。


 靴の音を鳴らす。

 ネコの足音と共に。


 パキン。

 パキン。

 パキン。


 氷の水たまりが割れる。


「楽しいね」

「そうだね兄ちゃん」


 末の弟が楽しそうな顔をしている。

 其れを見て人間の子供も嬉しくなる。

 するとその音に釣られたのか犬小屋から兄の柴犬が出てきた。



「お前たちこんなに寒いのに何してるんだ?」


 何処か呆れた声だ。



「ヒロ兄ちゃん水たまりが氷になってるんだ」



 人間の子供は柴犬のヒロ兄ちゃんにニコニコしながら答える。

 うん?

 お兄ちゃん?

 あれ?

 お兄ちゃんも弟もいなかったような……。

 人間の子供は内心首を捻る。



「寒いし滑って危ないから止めなさい」

「でもヒロ兄ちゃん楽しいよ」



 柴犬のヒロ兄ちゃんは困った顔をする。


「そ……そうか?」

「うん」

「そうだよ」


 楽しそうなのが伝わったのか体をウズウズさぜる。

 柴犬のヒロ兄ちゃんは、はっはっは~~と息を出す。

 人間の子供に近づき目の前で止まる。


「お前たち風邪を引いてもしらないよ」

「大丈夫だよね~~」

「大丈夫だよ」


 尻尾を振りながら首傾げ人間の子供を見る柴犬のヒロ兄ちゃん。

 困った顔だ。

 だけど仲間に入りたくて仕方ない。

 そんな困った顔だ。

 其の顔を見て人間の子供は弟の太郎と笑う。


「ヒロ兄ちゃんもやろうっ!」

「ヒロ兄ちゃんもしよう」


 人間の子供と太郎の言葉に柴犬のヒロ兄ちゃんは笑う。


「良いともっ!」

「うん」

「うん」


 此方を見た柴犬は二人を見て嬉しそうに笑う。

 息を荒げ二人の周囲を回る。

 楽しそうに。

 足に縋りついた柴犬のヒロ兄ちゃんは嬉しそうに人間の子供に笑う。

 ヒロ兄ちゃんに強請られた人間の子供は楽器を鳴らす。

 自然の楽器を。

 其れを凄い凄いと喜ぶ。


「楽しいね」

「うん楽しいね」

「面白いね」


 人間の子供が右足を氷と化した水たまりに叩きつける。

 割れない。

 強めに叩く。

 割れない。

 全然割れない。


「あれ?」

「割れないね」

「割れないな」


 人間の子供は首を捻る。

 弟のネコと兄である柴犬がつられて首を捻る。


「馬鹿な事をやってるよ」

「ほっとけよ」


 其れをあざ笑う近所の野良猫。

 黒いネコがニヤニヤと笑う。

 塀の上から降りてきたネコは霜柱の上に立つ。


 トン。

 トン。

 トン。


「それ」

「ほい」


 氷の柱が折れる音がする。

 綺麗に砕ける音。

 本当に綺麗な音だ。


 パキン。

 パキン。

 パキン。



 人間の子供が鳴らした音より良い。

 其の澄んだ音に聴き惚れた。

 ニヤニヤ笑うネコ。

 人間の子供たちを馬鹿にしてるのだ。



「此奴らっ!」

「駄目だよヒロ兄ちゃん」

「うわ~~い」


 其れを見て腹が立った柴犬はネコを襲おうとした。

 だけど其れをかわすネコ。

 突っ立ている人間の子供を笑う野良猫たち。

 馬鹿にしてるのだ。

 幼稚な人間の子供を。

 そんな時だ。

 狐のお母さんの声がしたのは。


「もういい加減にしなさい風邪を引きますよ」


 凛とした狐のお母さんの声に身をすくめる。


「は~~い」

「うん」

「御免なさい」


 ゴミバケツにいた狐のお母さんがが木の葉を頭に乗せ人間の子供に歩いてくる。

 ゴミを捨てていたのだろう。

 心配そうな顔で服に着いた雪を払ってくれる。

 其のままヒロ兄ちゃんと末っ子の太郎に付いた雪を払ってくれる。

 狐のお母さんが野良猫を睨む。


「ひっ!」

「すみませんっ!」


 其の目に怯え野良猫は逃げていく。


「御風呂に入って温まりなさい」

「は~~い」

「うん」

「御風呂だ~~」


 狐のお母さんに促され人間の子達は家に入る。

 

「母さんや里芋を取ってきたから煮物にしてくれ」

「はいはいお父さん分かりました」

「美味しく作ってくれよ」

「また盗ってきたんですか?」

「狸に働けと?」

「そうですね」

「分ればいい」

「はいはい夕方にね今は無理ですから」


 畑から里芋を取って帰ってきた狸のお父さんをあしらう狐のお母さん。

 狐のお母さんはお風呂から上がった人間と柴犬にネコの体を拭いた。

 風邪を引かない様に。

 というか人間の子供以外引かないが。


「まだ夜が明けるのは早いからもう少し寝ておきなさい」

「は~~い」

「うん」

「分かりました」



 人間の子供と柴犬にネコは元気よく返事をし就寝する。


「兄ちゃん暖かいね」

「ヒロ兄ちゃんは温いね」

「お前ら兄ちゃんを湯たんぽにするな」

「「やだ」」

「……」


 暫くして狐のお母さんと狸のお父さんが残ったご飯を食べていた。



「もうすぐ明け方だ流れ星様に願った此の魔法の時間は終わる」

「そうですね」

「私たちは死んだ人間の子の両親に少しでも恩を返せただろうか?」

「分かりませんが少なくとも飢えで死にそうだった私たちの恩は返せたと思います」

「交通事故で突然死んだあの子の両親の分まで愛情を与えてやれたんだろうか?」

「分かりませんが足りなければ近くで此れからもあの子の傍で見守りましょう」

「そうだな」

「私たちだけでも傍にいれば気が紛れるでしょう」

「子供の親の財産を狙う悪い親戚がいたら分かってるな?」

「分ってますよ」



 狐と狸の夫婦は悪い笑みを浮かべる。

 というか黒い。

 物凄く黒い。




 朝が来た。

 其れは流れ星の魔法が消える時間だ。

 朝になって人間の子は交通事故で死んだ両親の事を思い出し悲しみくれた。




 だけど何故か夜明け前に感じた悲しさは和らいでいた。

 まるで夜明けに溶ける雪の様に。

 理由は分からない。



 悲しく成った時に狐や狸にネコと柴犬が居てくれたからかも知れない。




 その日から何故か人間の子供の近くに柴犬とネコに狸と狐が何時もいる様になった。

 まるで家族の様に。

 家族の様に寄り添って。








 なお後日悪い親戚が子供の親の財産を奪おうとしたが酷い目に有ったとか。

 そんな噂話が有るが気のせいだろう。







「馬糞のぼた餅を喰わせてやったぞ」

「私はぼったぐりバーで大金を巻き上げておきました」







 多分……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何でしょう、この後を引く感じ。 ばかばかしい話のような気もすれば、温かい話のような気もすれば。 ただのコメディーのようで人情話でもある。 面白かったです。 [一言] 腕を上げましたね。…
[一言] ケモ耳娘とのxxxは無いのですねwww。 童話って難しいです、文字使いとか。 だから、開き直ったワタクシでございます。
2022/01/06 22:43 退会済み
管理
[一言] 踊っていたのはタップダンス? 楽しく読ませていただきました。
2022/01/04 21:13 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ