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招待

 誰かが扉の向こうに立つ音がして扉が開かれた。日の光にマ石のわずかな明かりに慣らされた目が痛む。どうやらここは外らしい。


 黒ずくめの御者姿の男が馬車の前に台をおいて私の手を取ろうとする。無視すべきかとも思ったが、油断させるためにもその手を取って外に出た。


 周りには刈り取った後の耕作地が広がるだけで人はおろか人家も見えない。耕作地をわずかに吹き抜ける風にあぜ道に残った枯れた草がそよいでいる。


 降りた向こうに一軒の家がある。


 家はそれなりに大きく立派ではあるが、貴族の館という感じでもなければ大きな農家の家という訳でもない。何やら街にある建物を切り取ってここにぽいと置いてみたような感じだった。


 蔦で覆われた入り口の囲いの先に芝生が引かれたこじんまりとした庭があり、庭に張り出した台の上には小さな卓と椅子が置いてある。窓には贅沢にもくもり硝子がはめ込んであり、奥の煙突の先では小さな風見鶏が風をうけて回っている。


 私達が置かれた状況を横に置けばなんとも平和な風景だった。


 私と百夜の前後に立った男が私達に建物の方へ進むように即す。走って逃げることは、助けを呼ぶことは可能だろうか? 百夜は足は速いが持久力はない。この見渡す限り何もないところではどこかの林などに駆け込む前には捕まる。


 私が囮になって反対側に逃げたらどうだろう。でも相手は馬車の手綱を握る男と合わせて3人だ。


 百夜はマ者に対しては無敵だが人に対してはほぼ無力らしい。武器も何もない私も同じく無力だ。百夜を人質に取られたら私だけが逃げるわけにもいかない。ここで逃げるのはあきらめるしかない。


 私はせいぜいかわいく見えるように男に微笑んだ。つば広帽をかぶり砂塵を避ける為に口に布を巻いた男の表情は分からない。私は覚悟を決めると庭に入り建物の石畳へと進んだ。百夜が私の後ろに続く。


 樫の木で作られた扉の前に立つと、真ん中の小さなすり硝子に人の気配があり、扉がゆっくりと開かれた。体が震えないように何があっても対応できるように大きく息を吸って吐く。だが後ろから突進してきた何かが開けられた扉の先に私の体を押し込んだ。


 何をする黒娘!あれ? 世恋さん?


「お誕生日おめでとうございます!」


 扉の先には前掛けをした世恋さんが立っていた。そしてその背後には見慣れた男の姿もある。


「お誕生日おめでとう、ふーちゃん!」


 そして部屋の奥には私服姿の巨大な胸を持つ女性と巨大で厳つい男の姿もある。


「お誕生日おめでとう、風華」


 なんなんだ、この人達は……なんなの……!


「こんなことで泣くなんて、お前はまだ雛だな」


 背後から私を突き飛ばした百夜が私の横を通り過ぎながら呟いた。


「お兄様!」


 戸口に居た世恋さんが巨大で厳つい男に声を掛けた。


「あ、お誕生日おめでとう。君もこれでまた一つ年を取ったという事だな」


 私はみんなに抱き着いた。もちろんあの初代嫌味男もだ。


 良かった、みんな私のことを忘れてなくって。そうだよね、忘れて無いかなんて考える私が大間抜けだよね。


 もしかしたら、これは私の本当の誕生日ではないのかもしれない。本物の風華ちゃんの誕生日なのかもしれない。でもいいよね。一緒に祝おう。私に必要なのは誕生日じゃない。誕生日を一緒に祝ってくれるこの人達だ。


「ありがとう皆。本当にありがとう」


 拭っても拭ってもとめどもなく涙が出てくる。こんなうれしい誕生日ははじめてだ。それにここは城砦だ。きっと父さんだってあのお日様の向こうから私を祝ってくれている。


「では、私の誕生日と皆々様のご多幸とご健勝を祈念いたしまして乾杯です」


 世恋さんが、にっこりとほほ笑んで、良く冷えた赤葡萄酒を私の器に注いでくれた。そうだ、これは私の我がままだけど聞いてもらえるだろうか?


「それと皆様にお願いがあります。私の新しい仲間と友人を招待してもよろしいでしょうか?」


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