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情けは人の

 私には何としてもやらなくてはいけないことがある。親の七光りだろうが色仕掛けだろうが出来ることは全て使ってだ。


 実季さんを救うのだ!


 もし、実季さんが処罰されてしまっては私達が森に入った意味がない。なんとしても救わないといけない。今までのここの人達の口ぶりでは下手をしたら、いやしなくても殺されてしまうかもしれない。誰が何と言おうが絶対にそんな事は私が認めない。


 彼女は何かをしたんじゃない。させられたんだ!


 そして彼女がそれを受け入れた原因は私だ。つまり私も同罪なんだ。むしろ被害者は才雅と朋治君の二人だ。彼らは私に巻き込まれて実地研修を途中で放棄することになった。さらには別の訓練用の森に入る事態にもなったのだ。


 黒娘はいい。あれはもはや私と一心同体だ。悪いが地獄まで付き合ってもらう。


 私はその為にここまで来た。今、私が頼れそうな人は一人しかいない。私は覚悟を決めると入り口の戸を叩いた。


「誰だ?」


「風華です。お話があってまいりました」


「後にしろ……」


 何が後にしろだ。後にしたら殺されてしまうではないか? 私は聞かなかった事にして扉を開けた。


「聞こえなかったのか? 後にしろと……」


 後ろ手で扉を閉めて、這いつくばって床に頭をつける。


「お願いがあります」


「おいお前は、おっさん達と俺を同じだと思っているのか?」


 この程度の嫌味などでひるんではいけない。


「どうか実季さんを助けてください。実季さんに罪はありません。悪いのは私達なんです」


「お前には頭がついていないのか? 森に誘い込んで殺そうとした相手に罪がない? 悪いのは自分? どこをどう考えたらそういう結論になるんだ?」


「特別枠なんかにするからです。だから悪いのは私なんです。なので皆さんも私と同罪です。その罪滅ぼしとして実季さんを助けてあげてください。お願いします」


「ちょっと待て、何だその理由は? 理由に全くなっていないぞ。それにお前はお願いしているのか? それとも脅しているのか? どっちなんだ?」


「もちろん、お願いしているんです」


 多門さんは椅子から立ち上がると、私の前まで来て執務机に腰を下ろして足を組んだ。はじめてこの人を見た時の事を思い出す。その時はなんて憎たらしい奴としか思わなかったけど今は違う。この人は自分に正直な人だと分かっている。


 多門さんが私を見下ろしながらため息をついた。靴をなめろというのなら舐めます。それで助けてもらえるなら何でもします。


「お前達は意外と似た者同士なのかもしれないな」


「え?」


 誰と比べているんだろ。例の酒場の女の人かな? 名前なんだったっけ!? 切り札のはずだったけど思い出せない。


「顔を上げて立て。そんなところに這いつくばられていると、ただでさえ鬱陶しい奴がもっと鬱陶しくなる」


 立てと言うならもちろん立ちます。


「あの娘を助けて、そしてどうするんだ? ここにだって元の結社にだって居場所はないぞ」


「誰がそう決めたんですか? 私だって居場所を奪われました。ですが、こうしてここで多門さんとお話しできています。先がどうかなんて誰にも分かりません。でも、それは先があればの話です」


「誰がそう決めたか……」


 多門さんが私以外の誰かにでも語るかのように呟いた。


 しまった。余計な事を言ってしまった。相手の機嫌を損ねてどうするのだ……。


「居場所がないのなら、私が彼女の居場所になります。少なくとも私は彼女の話を聞いてあげられます。罵倒されてもいいです。そしてできれば友達になって欲しいと思っています。お願いです。実季さんを助けてください」


 私から言える何かはここまでだ。もう一度、床に頭をこすりつけたいところだけどきっと鬱陶しく思われるだろう。私は可能な限り頭を下げた。


「そんなに頭をぺこぺこ下げるな。見ていて鬱陶しい」


 ごめんなさい。でも今はこれしか出来ないんです。


「あの子を助けるという事は、他のみんなも助けるという事だ。お前は悔しくはないのか?」


 悔しい?


 確かに腹は立ったけど、あの人たちも私の同期だ。誰かがひどい目にあってほしいとは思わない。それに彼らに何かあればそれは結局、実季さんに、私に戻ってくるのだ。


「腹は立ちましたが悔しくはありません。結局、私の特別枠とかいうのが全部悪いんです」


 そうです、悪いのは皆さんと私なんですよ。やれやれという表情の多門さん。これって、まずかったですか? もしかして逆効果でした?


「今回の件は、穏便に済ませるように俺から大人達には言ってやる。ただ助けられるかどうかは……」


「何をしている!」


 私は多門さんに抱き着いた。そして抱きしめた。


 この人は嫌味を言わないと息を吸えない人だけど、決して悪い人じゃない。いや本当はとっても優しい人なんだ。分かってますよ多門さん。女を舐めてはいけません。男の人のそういうところは良く見ているんですよ。


「おい、離れろ。お前だって嫁入り前の娘だろう」


 いいんです。このくらいは許してあげます。必要なら色仕掛けでも何でもするつもりだったんですから、多門さんだって男でしょう?


 それに酒場で女の人を口説こうとしていたのはまだ秘密にしておいてあげます。


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