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強襲

 私達は再び探索路に沿って進み始めた。だが先に進むことに意識が集中しているのか、才雅君は私達との距離を開けて前に進み過ぎている。こちらの視界から消えてしまう時すらあった。


 百夜は疲れたのか、歩みが少し遅くなってきている。そろそろ小休憩を入れた方がいい。才雅君は百夜の体力に限りがあることを完全に忘れている。こちらから手信号で知らせた方がいいか。前が早いだけでこちらが遅れている訳ではないし、適切に休憩をとって百夜に探知させてから進んだ方が早く楽に進める。


「何かいるな?」


 私のすぐ後ろをぶつぶつと文句を言いながら歩いていた百夜が急に立ち止まった。


「マ者?」


 才雅君に、『警戒』、『止まれ』の手信号を送るがぜんぜんこちらを見ていない。世恋さんとは大違いだぞ。


「違うな、なんだ」


 百夜の左目が大きく見開いた。これはやばい奴だ。


「こっちに来るぞ!」


 才雅君はまだこちらの手信号に気が付いていない。誰かが強力なマナを使う時に感じる産毛が逆立つような背筋がちりちりするような感じがする。


「右手、おもかろい奴だ!」


 森の葉が耳障りな音を立てたかと思った次の瞬間、私達の周りに突風が吹き荒れた。その力に体がなぎ倒されそうになる。木の枝やら落ち葉やら色々な物が轟音と共に辺りを舞い、下手したら体に突き刺さりそうだ。


 百夜の頭を押さえて地面に伏せさせる。後ろを見ると、朋治君も地面に伏せて大外套の頭巾で頭を守りながら百夜の体に覆いかぶさってくれている。一体何が起きているのだろう。前の才雅君は?


 前に視線を向けると彼はこちらに向かおうとしていた。何をしてるの!先ずは地面に伏せて身を守らないと。一陣の風が彼に向かったと思ったら、彼の体が宙に浮いて風と一緒に転がっていく。本当にもう何してるの!


「朋治君、百夜をお願い。私は才雅君を助けにいく。ここにまとまっていたら狙われるだけ。後ろを回って右手の杉の裏に百夜を連れて隠れて。私は才雅を連れてそこに合流する。行くよ!」


 朋治君が何か言いかけたが相談している時間は無い。待っているマ者という奴は研修所の教官の誰かという事だったんだ。美亜教官の台詞の意味がやっと分かった。そして私達が一番油断しそうな時を狙って仕掛けて来た。


『いくら何でも、これはやりすぎじゃないの!』


 私は頭を下げて立ち上がるとなるべく木の後ろに隠れるようにして、才雅が飛ばされた先に向かって走った。多分、向こうもこっちを狙ってくるはず。木の背後に入った瞬間に後ろを振り返ってみたら、朋治君が百夜を背をって私と反対側に向かって走っていくのが見えた。うん、彼は大丈夫だ。


 次に身を隠せそうな大木の陰に向かって走る。だが、私がいつ走り出すかは向こうに完全に読まれていたらしい。木の陰から出て二歩、三歩と進んだところで私の体は風によって上へと持ち上げられた。


 地面を失った足が宙をかいて体が前に倒れていく。空中の私は何もすることができない。耳に轟音が響いたかと思ったら、私の体は地面の上を山の斜面に投げられた丸太のように転がっていた。


 頭を下げて腕を顔の前にやって必死に受け身をとったが、腰の帯革の一本が木の根か何かに引っかかったらしい。地面に背中を強打する。お腹がこれでもかと締め付けられ、胃からこみ上げてきた何かが私の口の周りを汚した。


 手は、足は動くだろうか。大丈夫だ。体は? 背中を打った痛みはあるが、どこかに穴なんかは空いていないみたいだ。ここで空を見上げている訳にはいかない。引っかかった帯革は切れてしまったらしく体は動く。とりあえず両手をついて体を起こしてみた。また大量の葉のざわめきが耳に聞こえて来る。


 だめ。もう一撃喰らったら今度は動けない。


「風華!」


 誰かの声が響いて、私の体の上に覆いかぶさった。


「白蓮?」


 直撃は避けられたけど、風に煽られて二人とも地面を転がる。だけど覆いかぶさってくれた誰かが私の体に手を回して身を守ってくれた。


「風華、大丈夫か? みんなは?」


 お前のせいでこっちは大迷惑だ。朋治君に指示した大きな杉の木はどこだろう。あそこか。あそこなら大丈夫だ。例のものは? 革袋にある。こっちの帯革が切れたんじゃなくて良かった。()()についている紐を抜く。一つなんかじゃ足りない全部だ。そしてそれを風が来た方へと転がしてやった。


「顔を地面に押し付けて目をつぶれ!」


 驚いた顔の才雅。何をもたもたしている。


「つぶれ!!」


 彼が地面に顔を押し付ける。彼の胸が私の顔の前に来て私は彼に抱きしめられた。まさかこんな物が役に立つとは思わなかった。


 3,2、1、私達は真っ白な光に包まれた。



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