備え方
多門さん(さすがにもう『さん』付けにしないとだめですよね。)、が私達を連れて行ったのは、城砦の塔の入ってすぐのところにある、まるで大店の倉庫に市場をくっつけたようなところだった。
「ここが備え方に受付方だ。奥の受付方が森に入る前の受付と、戻った後の報告をするところだ」
何だろう奥には受付らしい長い長い帳場があって、その後ろに手すりのようなもので区切ってある。これだけたくさんの列にいったいどれだけの人が並ぶのだろう。
「今はもう皆潜っている時間だから、ここに来るのは森に潜る以外の各種申請をするやつらだけだから閑散としているが、朝は大変だぞ。ここには千を優に超える冒険者がいるんだ。お前たちのような奴は踏まれた蛙みたいになる」
やっぱりこの人は一言多い人ですね。そんなんだと女性にもてませんよ。まだ独身ですよね?
「備え方は森に潜るに必要な各種装備を用意している。それに装備の保守や点検もやってくれるところだ。もちろんただじゃないぞ。マナ除けから剣までなんでも揃っているところだ。ここも朝と夕は大忙しだな」
禿げ頭だけど温和そうな顔をしたおじさんが、多門さんを見つけてこちらに歩いてきた。
「おい多門、この子はお前の隠し子か?」
百夜を指さして笑う。うん、たぶん性根が曲がっているところは似ているから娘になれそうな気がします。
多門さんはというと、無言で相手を睨んでいる。だめですよ。こういう冗談にはちゃんと返してあげなくっちゃ。会話力無さすぎです。商人には向いていないですね。
「ああ、悪かったよ。お前にはこの手の冗談は通じないんだったな。こちらのお嬢さん方は?」
「穿岩卿に押し付けられた」
「穿岩卿? ああ、お偉いさん達が盛り上がっていた例の娘さんか? で、一人はやっぱりお前の隠し子か?」
何ですかそれ? もしかして私には親の七光りってやつがあります? それで上納とか許してもらうとかできないですかね?
「分かったよ。いい加減にしろだろ。俺は、鹿斗というものだ。備え方の組頭の一人だよ」
「はじめまして、風華と申します。こちらは私の妹で百夜と言います」
とりあえず挨拶、挨拶。そして笑顔。本業は商人ですからね。
「いい笑顔だね。なるほど、お偉いさん達が盛り上がるわけだ。今日は何用だ? この子達のあつらえか? いや、一通りそろっているな。ちょっと待ってお嬢さん、その腰に差しているの黒刃だろ!!その革も赤蜥蜴の内革か? 一体どこの大貴族様のお嬢なんだ?」
「普段使いする馬鹿はいないな。この子達の大きさに合わせて、普段使いのちょっとましなやつを見繕ってくれ。金は俺のところで払う。お前なら特に測らなくても分かるだろう?」
鹿斗さんは、私と百夜の周りをぐるりと回ると、
「ああ、大丈夫だ。肌着とかはどうする?」
と多門さんに聞いた。
「それも少し多めにつけてくれ。これから研修で忙しくなる。ちなみに査察官は首になって『特別監督官』とからしいから、伝票の宛名を間違えないでくれよ」
ちょっと待ってください鹿斗さん。そんな周りを一周したくらいで肌着の大きさまで分かっちゃうんですか? 胸とかもですか? 底上げしていてもばればれですか?
あなた一体何者なんです?




