ID交換
翌日。いつものように学校へ行くと、もう僕のクラスの前にはワイワイと賑やかな列が出来ている。僕は人の群集の中を極力当たらない様に通りながら自分の席に着いた。窓の外から彼等の妬みが聞こえてくる。
「あんな陰キャでも加納さんと同じクラスになれるなんて」
「羨ましいなー」
全く、こっちも周りに気を使って生活しているのにと文句を思いながら僕は一人本を読んだ。朝のホームルームが始まるとさっきまで居た群集が一斉に自分のクラスに戻る。すごい、人間行動学の研究に使えるんじゃないか等と、くだらない事を考えていたら担任の岸尾がクラスに入って来て言う。
「加納と仲良くするのは構わないが、あまり彼女の迷惑にならないように」
それ以降うちのクラスに来る他のクラスの生徒の数は減った。どうやらこのクラスに行くことの制限を他のクラスの生徒達に先生達が通達をしたようだ……と噂で聞いた。
(先生達Good job! これで暫くは静かになるだろう)
そして僕は休み時間心を弾ませながら本を読んだ。学校を終え仕事場(今日は貿易関係)に行ってしばらく勤務しているとスマホが鳴る。兄貴からだった。
「もしもし」
「あ、幸朔か? どうだそっちの状況は?」
「まあまあかな?」
しばらく兄貴と互いの会社の進捗状況を話し合った。
「ところで夕は元気か?」
夕とは妹のことだ。
「元気元気、家に帰ると相変わらずテレビ見ているよ」
「そうかぁ。俺も家に帰りたいがなかなかなぁ」
「まぁ、4つも会社を経営しているとな」
彼が経営している会社は関東と関西にそれぞれ2社あるから、会社に寝泊まりしていつも往復している。
「最近仕事場に寝る専用の部屋を造ったんだ」
「まじか。大変だな」
「4つも会社持っていたら仕方ないさ」
「まぁ、それはそうだが無理はするなよ」
「ところで幸朔、学校はどうだ? 相変わらず正体秘密にしてぼっちなのか?」
「そろそろ仕事したいから切るわ」
「わーっ、待て待て! お兄ちゃんも弟の学校生活が気になるんだよーっ!」
「至って変わらない」
「そっかー。まぁ、人間そう変わらないか」
「あ、そういえば転校生に加納……」
「あ、悪い。取引先の電話が来た。切るぞ」
「お、おう……」
全く兄貴からかけておいて……とブツブツ言いながら22:30まで仕事をした。
それから数日経つと加納を囲む生徒達は少しずつ減り、彼女の顔が見えやすくなった。まだ慣れないところは沢山あるだろうが、少しだけ顔をほころばせている。しかしまぁ、彼女に集まるのは陽キャの連中が多い感じだからクラスが明るい。そして彼女がその中心になりつつある。凄いな……流石実力派女優。僕は彼女の様子を気にしながら机に向かって一人勉強を始める。
翌日。朝、少し仕事の疲れを感じながら、下駄箱に靴を入れていると手紙が入っていた。え? と思い見ると、
『今日の19:00に松尾貿易センタービルの一階ロビーにて待つ Kより』
僕はかなりドキッとした。ついに学校の誰かにバレたのか!? 反射的に周りをキョロキョロと見渡した。
「えぇ、あの陰キャがきょどってるよ。キモッ」
近くの女子にキモッとか言われたんですが……いやそれよりKとは一体誰だ!? 学校で気が気でないまま授業を受け、会社でも判子を押す書類の内容が頭に入らない。そして恐る恐る予定の19:00に行くとうちの制服を来た女子がいた。バクバクしながら顔を書類で隠して彼女に近づくと、
「何やってるの松尾?」
「ひゃっ!? えっ、あれ、加納? 何でここに?」
「何でって私が貴方を呼んだからよ」
「え? Kってあぁ、あーそういうことーっ」
なんだ焦らせんなよっ! ったく。君のお陰で周りの何人かがこっちを見てるじゃないか!
「仕事は休憩?」
「え? あぁ、まぁそうだが……」
「はい、これ。渡しとくからちゃんと返してよね」
「?」
見ると加納のラインIDだった。
「えっと、これは……?」
「何ってまさかラインしてないとか言わないでしょうね!?」
「してるけど何で僕に?」
「それは貴方が言ったのよね? 『出来ることなら助けてくれる』って」
「あぁ、確かに言ったが……」
「学校ではなかなか話するタイミングがないんだから連絡手段作っとかないと」
「しかしこのまま学校生活は君の願うことは出来ると思うが」
「そんなこと分からないじゃない。今までこんな生活をちゃんと送ったことないからまだ不安要素はあるわ」
(……そっか、学校では明るく振る舞っているがまだ不安な所はあるか)
「加納」
「何よ?」
「有難く貰っとくよ」
「! えぇ!」
そして仕事終わりに車で自宅に送ってもらっている時、彼女にラインを送ったら直ぐに返信が来た。見ると、
『あんたの会社相変わらずまじ卍~』
本当に意味分かって使ってんのかこいつ?
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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