転校と疑問
なぜ僕は少しダサめの状態で学校でいるのかというと、それは偶に会社の社長としてテレビに出るから正体を周りに隠している為だ。
『高校生社長に直撃』みたいな感じで。それはともかくとして……、
(なぜ彼女がこの学校にいるんだ!?)
「えー皆さん、彼女と仲良くするのはたいへん結構だが彼女は有名人なのだから、写真をSNSにアップしたり、テレビやマスコミが来たとしても彼女の話をしないように」
そう担任の岸尾が言って朝のホームルームが終わって教室を出ると、うわーっとクラスの生徒がなだれ込む様に彼女に近づいた。
「凄い、本物ーっ!」
「綺麗ーーっ」
「どうして休業したの!?」
歓声や質問がやんややんやと飛び交う。僕は自分の席に静かにいたが、ほとんどの生徒が彼女の所に集まっているので座っているのが逆に目立つ有様だ。そしてクラスから出ようとすると、他のクラスの連中がどーーっと彼女を生で見るべくうちのクラスの前の廊下に集まって男女問わずガラス越しに見に来た。
そして可愛ーとか綺麗ーとか飛び交う。こいつら語彙力ないのか!? クラスの外に出れないので渋々自分の席に戻り、周りを無視して僕は宿題を始めた。そして昼休みに加納が学生の群集に囲まれる一方で僕は一人でクラスから逃げる様に出て行って静な場所でご飯を食べる。
(静かだ……)
風を感じながら暖かい陽気に照らされて一人で食べる弁当は格別だった。
(一人、万歳!)
しばらくクラスの人の賑わいが減らないと思うからここで食べようと決め、一人静かに本を読み耽る。そして予鈴が鳴りクラスの席に戻りちらっと彼女の方を見る。
──同い年の普通の女子高校生活に憧れて……
僕はふっと笑いながら、良かったな。普通とまではいかないが本物の女子高生になれ……ん? やけに皆と目線が合うな。え? 皆がこっちを見てる……。何? どうして?
そして何人かの男子が近づいてきて僕に問う。
「松尾、お前。加納さんと知り合いなのか?」
僕はドキーーッとする。え? どういうこと??? どうしてそんなこと知ってるんだ? 僕は何も答えず震えていると、
「ゴメーン。何か勘違いだったみたーい」
加納が明るく周りにそう言ってその場の雰囲気が明るくなった。
「そうだよな、こんな陰キャがなー」
「悪い悪い。忘れてくれ」
そういって彼等は僕から去って彼女の方へ行った。
(何だったんだ一体??)
そして放課後。いつものように会社へ出社し社長室で業務を行っていると、部屋にノック音が聞こえる。
「失礼します」
「どうぞ」
秘書の三井だった。彼女は僕を支えるキャリアウーマンで背中まで伸びる黒髪のストレート目は少しつり目だがぱっちりして鼻はすっと伸びた容姿端麗の23歳。秘書としての実力はかなりのものでスケジュール管理は彼女にほとんど任せているほどだ。ついでに黒のスーツがよく似合う。
「どうした?」
「加納様がお見えです」
「え? 加納が?」
僕はため息をつき、彼女を部屋に呼んだ。学校からそのまま来たのか、制服のままだった。
「でっかーい」
「で、どうした加納? 一体何の用事だ?」
「あ、あのさあんたの高校って池野高校よね?」
「あ、あぁ、そうだが……」
「じゃあなんでその高校にいないのよ!?」
「え?」
「私、あんたのいる高校にわざわざ難しい編入試験を受けてまで来たのにどうしていないのよ!?」
「おい、何言ってんだ?」
「え?」
「今日僕のクラスに転校して来て会っただろ?」
「え?」
彼女はぽけーっとした顔でこっちを見る。
(こいつまさか……、まだ気付いてなかったのか!?)
「まさかあの、根暗そうな……彼?」
「そう……あれ僕」
「えーーーーーー!?」
彼女はかなり声で叫んだ。女優していただけあって肺活量が大きい。うるせっ!
「な、なんであんな感じでいるの?」
「まぁ、色々とあってな」
「え? 何かあったの?」
「中学の時……」
「中学生の時……?」
「……」
「……」
「いや、もう良いだろう。その話は無しだ。で、何の用だ?」
彼女はぶつぶつ言いながら、
「納得いかないわ。どうしてあんな冴えない感じでいるの? 仕事の時は格好いいのに」
「学校では秘密にしているんだよ」
「秘密なんだ。何……」
また彼女は思案しながら喋る。
「分かった。まぁ、確かに大企業の社長って同級生にばれたら騒動になりそうですものね」
「……まぁな」
「分かったわ。秘密にしといてあげる」
「助かるよ」
「私以外に貴方の正体を知っている人はいるの?」
「えーと他に……」
「まぁ、いいや。今日の所は引き上げてあげる」
「え? 今日の所は?」
「じゃ、帰るから」
「おい、要件は……」
「もう済んだわ」
「え? そうなのか?」
「じゃあねっ」
「お、おう……」
彼女はさっさと帰った。僕は社長室の椅子に戻り、このだだっ広い部屋で一人ただぽつねんと思う。
「何しに来たんだあいつ?」
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