学業と社長の二足のワラジ
僕は松尾幸朔。高校2年生で所謂陰キャでボッチだ。前髪はボサボサで少しダサい眼鏡をかけている。いつも学校では机に向かって勉強するか本を読んでいる。お陰で勉強は上位の成績だ。だが、
「また松尾の奴、一人で勉強しているよ」
「くくく、本当学校に何しに来てんだが?」
学校は勉強する場所ですよね? あれ、違う? そして僕は家の仕事が忙しくて部活も入っておらず、中学の時のトラウマで友達がいない、いや一応作ろうと思えば作れるんだけど作っていないだけだよ?
そして授業が終わればそのまま直帰をする。いつも自転車を漕いで駅まで行って電車で3駅先まで乗り、降りると普通の車が待っているのでそれに乗ってそのまま一等地にある高層ビルに向かう。
なぜなら僕はこの会社の経営者だからだ。うちは親父が早くに死んで兄が親父の会社をほとんど受け継いだが、親父は経営の天才で手広くしていたものだから兄もその量に限界を感じ、残りの会社の経営を僕にさせている。兄貴が4つの会社を経営し、僕は2つの会社を経営している。IT関係と貿易運輸関係だ。そして本日も車の中で秘書とスケジュールについて話をする。
「社長。今日はこういう内容になってます」
「ありがとう」
いつもは会社に着くときちんとスーツに着替えて社長業務を行うのだが、今日は自社パーティがあるのでパリッとした服で出向く。
そこに行くと、会社の重役達やCMに起用した俳優、女優やアイドル達と話をする。こういうパーティを開くと色んな業種の人と知り合いになるから面白い。
「ちょっと外の景色を見たいので失礼します」
僕は少し彼等の会話から離れて窓から外の風景を見る。芸能界の裏話とか聞いていると社会の影を知る様で辟易する。はぁ、とため息を吐いていると、
「あんたも大変ね」
僕の横からそう声が聞こえた。見ると女優の加納瑞紀が綺麗な赤色のドレスを身に纏いジュースを飲んでいる。彼女は子役からずっと役者をしており、高校生役で主演から脇役まで幅広くしている。僕と同じ高校2年生の16歳だ。
「え?」
僕はドキッとした。ため息を聞かれたか?
ん? 貴方も?
「君はいつも明るい役をしているが、やはり嫌な時もあるのか?」
「仕事だからね。それはあるわ」
当たり前の質問をしてしまった。
「それはそうだよなっ……」
「貴方もあるの?」
「まぁ、君も分かると思うけど大人相手だからな、そういう時もある」
「そっかー」
なかなか正直な子だなと思った。もう少し社交的にすればと思いつつも僕にとって何となく話しやすい存在だったからつい色々話をした。
「親が早くに死んだから後釜が居なくて僕に白羽の矢が立ったんだ」
「そうなんだ。じゃあ、したくてしたんじゃないんだ」
「そういう訳じゃないけど初めの頃はやはり大変だったな」
「どうして?」
「やっぱり重役達から賛否両論あったから。『こんな子供に任せていいのか!?』ってね」
「あ、やっぱりそうなんだ。そういうことあったんだね」
「まぁね」
「今はないの?」
「今はほとんどないはずだ」
「へぇ、どうして?」
「信用を得るために必死に結果を示したから。そうしたら言われなくなった」
「成る程ねぇー」
「……」
「私は親にやらされてそのまま仕事をしてるって感じ」
「まぁ、子役からだもんね」
「知ってたの?」
「まぁ、有名だから」
「……だからこのままで良いのかなーっと思う時がある」
「えっ、じゃあもしかして別のことしたい時もあるのか?」
「……そうね確かに女優業は楽しい。けどやっぱり今まで何となくの流れでして来たから私が自分で選んだことをしてみたいと思う時はあるわね」
「へー、じゃあ女優業を休みたい時とかあるってこと?」
「まぁ、偶にね」
「そっかーっ。僕は好きで好きで仕方なくてこの仕事をしているからなぁ」
「え、そうなの?」
「あぁ、いつも父の背中を見て育ったから経営者になるのが憧れててね。子供の時から経営の勉強をしていたんだ。そして白羽の矢が立った時これはチャンスと思ったんだ。『好きなことが出来る!』ってね」
「そっかーっ、私とは正反対ね」
「まあ、そうかな」
「実は私、同い年の普通の女子高校生活に憧れてね」
「普通は女優に憧れるのに」
「そうなの。皆とプリクラ撮ったり、パフェ食べたり、恋愛したり」
「成る程。それは女の子らしい」
「貴方は高校生活楽しい?」
「僕はあんまりかな~っ?」
「また私と正反対ね」
「そうだな」
僕達は笑いあった。
「子役からずっと仕事をしているから偶には息抜きしたいわ……」
彼女の諦念とも取れるその言葉に気になって僕は彼女に訊いた。
「本当に普通の高校生活をしたいのか?」
「え、えぇ」
「なら本当に休業したらどうだ?」
「え!?」
彼女は驚いた声を上げたから、周りが少しザワついた。
「あっ、ゴメンなさい。大丈夫でーす」
「で、でもそんな簡単に……」
「簡単じゃあないけど、このままじゃ君はずっと周りに振り回されるぞ」
「けど私には沢山のファンが……」
「周りなんて関係ない。一度きりの人生だ。君のしたい通りにしないと君の憧れる高校生活は二度と出来ないんだぞ!」
「けど親が許してくれるか……」
「君の人生だぞ! そのままでいて後悔しないのか!?」
「……」
彼女は頭を垂れた。
「もし……」
「?」
「もし……休業をして私が困ったりしたら、助けてくれる?」
「あぁ、勿論出来ることなら」
「そう……」
そしてしばらくして彼女は会場の集まりに向かった。
それから数週間後。朝、妹が家でテレビを見ていると、
「お兄ちゃん。なんか加納瑞紀が……」
「お兄ちゃん、早く行かないと電車に乗り遅れるから、もう行くな!」
そしていつものように少しダサい格好で学校に向かい、学校に着いて勉強していると、ショートホームルームが始まった。昨日はぎりぎりまで仕事があったので、先生の話を聞かず僕は必死にプリントを解いていると周りがどやどやする。何事かとふと教壇を見ると女子が立っていた。転校生か? じっと彼女の顔を見ると驚愕した。
(え!?)
「加納瑞紀です。皆さん、宜しくお願いします」
(な、なんで彼女がここに!?)
こそっとスマホを見ると、『加納瑞紀休業』のニュースが流れていた。
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