文化祭
講堂の扉を開き中に足を踏み入れた。
講堂の中には出入り口から見て左側に各グループが作成した展示物が並び、右側に屋台が並んでいる。
展示物や屋台の回りには生徒達が思い思いの場所に立っていて講堂に入ってきた私達教師に注目。
壇上に上がりマイクを手にして生徒達に声をかける。
「飛翔学園第2回文化祭を…………」
此処まで言ったとき、私に注目している生徒達の中から異論を唱える声が飛んできた。
「先生! 第1回文化祭で良いのでないの?」
「俺もそう思う」
「私もそれに賛成!」
声を上げていない生徒達も、異論に賛成するように声を上げている生徒達の言葉に頷いている。
それを見て言い直した。
「そうだね、去年は出来なかったからな。
うん! 今回が飛翔学園初めての文化祭だ、言い直そう。
飛翔学園第1回文化祭の開会を宣言します」
開会の宣言を聞いて、壇上を見上げていた生徒達や教師が歓声を上げながら拍手する。
私は同僚の先生方と共に各グループが作成した展示物を眺め、作成した生徒達に質問したり色々突っ込みを入れたりした。
壇上では音楽好きの生徒達が思い思いの楽器を手にして演奏を始めている。
展示物を一通り眺め質問を終えた私達は反対側に並ぶ屋台に向かう。
屋台は全て食べ物の屋台。
たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、クレープ、焼き鳥、肉じゃが、焼き肉、ラーメン、野菜ゴロゴロカレー、焼きとうもろこし、おにぎり、鯛焼き、サンドイッチ、オデン、唐揚げ、餃子、等々食べ物の名称が書かれた手書きのポスターが貼られた屋台が並ぶ。
屋台の前に並ぶ生徒達に私達教師はレーションの箱を一つずつ手渡す。
生徒全員にレーションが行き渡ったのを確認して生徒達に声をかけた。
「蓋を開けたら皆目を瞑れ。
そして君達1人1人が食べたいと思っている食べ物を頭に描き、味を思い出しながら食べるのだ。
それじゃ、いただきます!」
私の「いただきます」の声に合わせて、講堂のあちこちから「いただきます」の声が上がる。
食べたい物を頭に描き味を思い出せって言ってもそんなの無理だ。
講堂のあちらこちらから啜り泣きが聞こえる。
「グス、お母さんの野菜がゴロゴロ入ったカレーが食べたい」
「ヒック、母ちゃんの肉じゃが、また食いたいよぉー」
「ママの作った唐揚げを食べたい、エーン」
私達教師はレーションを泣きながら食べている生徒の下に行きその身体を優しく抱きしめた。
去年のあの日、文明が崩壊したあの日。
新設された中高一貫学校の初めての文化祭を明後日に控え、学校に遅くまで残って最後の準備を勤しんでいた生徒と教職員合わせて約200人は、学園の地下に造られていた全校生徒を収容できる核シェルターに逃げ込み難を逃れた。
あの日から1年、私達は何時か地上に戻れる事を信じて核シェルターの中で学園生活を続けている。