ガチの女神解説長丁場回
タイトル通り何故主人公に
伝説の杖と呼ばれるような
杖が渡ってしまったのか?
理由は祖父の若い頃まで遡る。
もしかしてめっちゃ話が
長くなるやつではないです?
Exactly(その通りでござる)
おばあ様から入学祝いに杖をもらったらそれは伝説の賢者様が使っていたとされている神様から授けられたとんでもない杖だった。何を言っているのか判らないと思うけれど、私も何をされt(略)
なんてどこかの少年漫画の台詞を引用している場合ではないんだけれどね。体感的にはそれに似ているので同じような表現をさせてもらったんだよ。だって、可愛がっている孫に杖を贈るんだから愛用していたお古をくれたのかな、って思うでしょ?普通ならそう思うはずだ、私の考えが変だとか言うのはないと思う。
その事についてもちろん当たり前だがフォルトニア様からの説明があるので聞こうと思って今に至る訳だ。
『ミレーナさんを困らせるつもりはなかったのです…。偶然が重なり過ぎて狙ったように貴女の手元に行くような結果になってしまったのです。』
「では本来は私の手元に来るはずではなかったのですか?」
『そうですね、事の起こりは貴女のお祖父様、アウグストの若い頃に遡ります。』
まるでたそがれているような顔でフォルトニア様がお祖父様の若い頃の話を語ってくれた。お祖父様の名前はアウグスト・ジュストル・アーセラヴァヌス。アーセラヴァヌス伯爵家の長男として生まれた人で武芸に秀でていたらしい。アシュヴィヘス侯爵家には婿入りした訳だね。まだお祖父様がおばあ様と結婚する前に、ウィシュトヴァラ王国を脅かす魔物の巣が王国の領地にある小さな魔石鉱山に出来てしまい、その時の王様が困り果てて腕に覚えのある冒険者や騎士団を派遣したのだが、思いの外魔物が強くて騎士や冒険者たちは重傷を負って戻って来たらしい。その出来事はウィシュトヴァラ王国の国立図書館にも記された本があるのだそうで、もっと大きくなったら行ってみよう。このままでは城下町にも魔物の被害が出かねない、そんなおりにルツヘルムへと訪れていた賢者様が魔物を討伐すると王様に申し出てくれたのだ。その時に王国騎士団で腕の立つ騎士を供として連れて行きたいと言われたので選出された一人がお祖父様だ。白銀の鎧と武器を手にお祖父様は他の仲間の騎士と、賢者様と共に魔物退治に挑んだ。賢者様は他の冒険者たちや騎士団が苦戦していたアンデッドを聖属性の魔法で次々と灰にしていった。特に苦戦していたスケルトンの魔物が結構いたようなので騎士達も助かった事だろう。やがて、魔物の巣の奥で魔石を餌とするマジックメタルクロコダイルにたどり着き、同行した騎士と共に倒した事でその魔石鉱山は再び魔石を採掘出来る安全な場所に戻った。魔石鉱山に何故魔物があんなに住み着いたのか、その謎は未だに解明されていないが、賢者様と同行した騎士達の活躍でウィシュトヴァラ王国は平和を取り戻したのである。もちろんお祖父様は王様から勲章と名誉騎士の称号を授かったし、賢者様は一躍ウィシュトヴァラ王国の英雄となった訳だ。賢者様は大層この国が気に入ったらしく十数年程ルツヘルムに滞在していたそうな。その時にこの国に学校を作りましょう、と言って作られたのがフィーリルトン国立学園だとの話にリーゼロッテ先生の言っていた事は本当なんだな、と感心した。
『やあ、アウグスト、遊びに来たよ。』
賢者様がルツヘルムに滞在して数年後、魔物を共に倒した縁もありすっかり良き友人となったお祖父様と賢者様はアシュヴィヘス侯爵邸で一緒ボードゲームで遊んだり、お茶を飲んだりしていた。ああ、この間ヘラルダとファニタと一緒に遊んだリバーシがもしかしてそのボードゲームなのかな。賢者様は友人となったお祖父様の所へ気軽に何度も遊びに行っていたようだが、普通の貴族なら爵位もない元々平民であるはずの相手がそんなに気安いと怒りそうなものなんだけど、お祖父様はそんな事は思わなかったみたい。
『彼は私の友人だ、友人と屋敷で楽しい時間を過ごすのに理由がいるのか?』
なんと言うか、悪徳貴族とかがいたら聞かせてやりたいくらいに心に響く言葉だ。そうしてお祖父様と賢者様の友情を微笑ましく見守る女性がいたのだが、片方はお祖父様の婚約者であるおばあ様だ。賢者様とお祖父様が出会って数年後、式には友人の一人として呼んだくらいだから相当仲が良かったんだろうな。そしておばあ様以外にもう一人、お二人を見守る女性がいた。当時のメイド長だった女性だ。飛び抜けた美人とかではなかったけれど、優しくて男性が結構甘えたくなるような包容力のある女性だったのだとか。賢者様はそのメイド長といつしか恋に落ち、結ばれたのだった。魔物を討伐して、王国に学校を建設して、賢者様とその妻との間に娘が生まれて何年かの年月が経ったある日の事だ。賢者様は自分の知恵を魔法をよりたくさん使う魔法使いたちが集まるレトナークにいる人々に授けたいと思い始めるのだが、友人として良くしてもらい、お世話になったお祖父様にレトナークへと旅立つ前に何かお礼として贈り物を渡そうと思ったのだ。ありきたりの物では自分で納得出来ないので、特別なものが良いだろう、と思い付いたのが魔物討伐の際に当時愛用していた杖を彼に贈る事にしたのだった。レトナークに行けばきっと研究の為に生涯にわたりルツヘルムには戻れない気がしたので、友情の証として杖をお祖父様に託したのである。その出来事から35年あまり、今はこうして私の手に渡ったと言う事だ。
偶然じゃなくて何らかの因果を感じるなあ…。
現在お祖父様はちょっと病気がちではあるものの、レトナークにいる賢者様と手紙でお互いの近況やとりとめもない話を書いては送り合う気の知れた友人だ。それにしても、聞けば聞くほど賢者様はやっぱり転生者なのではないかと思えてくる。
「フォルトニア様、経緯は大体判りましたが、賢者様についてまだ聞きたい事があります。」
『はい、もしかしてその者が転生者かもしれない、と言う懸念ですか?』
やはりフォルトニア様は何となく察してはいたみたい。賢者様が転生者かどうかだが、45年くらい前に初めてティシュヴァンフォーレに地球から転生者として人を送り込んだのが賢者様らしい。当時、異世界転生などは希に見る出来事だったのでフォルトニア様も手探りの状態だった。その代わりに、何か不便があればその都度フォルトニア様が介入して調整をしていたので、今ではだいぶ過ごしやすい世界になったようだ。ボードゲームも賢者様の発案でフォルトニア様が介入して世界に行き渡った。うん、やっぱり思った通りだった。リバーシは面白いので賢者様に感謝している。他にも時計やランタンなども賢者様が発案して、レトナークで開発されたらしい。食事事情に関しても賢者様は地球と言うか日本の出身だったので美味しいものにこだわったのだとか。果樹園や焼き魚なども賢者様の知恵を一部借りているようだ。お屋敷の厨房を見たことはないが、魔法石を利用した調理器具がたくさんあるみたいだ。そんな賢者様が未だに食べたいと夢見ているが完成には至ってない食べ物がある、白米だ。色々な穀物を研究しては作り出せないかと頑張っているのだが、納得のいくものにならないそうな。確かに私もティシュヴァンフォーレに来てから主食はパンしか食べていないから不思議には思っていた。白米くらいありそうなものだが、何が原因なのだろうか?
『実は、レトナークの南にある小国で恐らく少し品種改良すれば白米になりそうな植物があるのです。』
「えっ…じゃあそれをレトナークに持ち帰れば白米になるじゃないですか!」
『それが、その植物は絶滅危惧種でして、自生しているものを探し出す事がとても困難なのです。』
「いやでも、その植物の名前さえ判れば魔法とかで他の植物と区別して探し出す事くらい出来るはずなのではないですか?」
『自生している植物や木の実、自然のものをどんなものか判別する魔法はあるのですが、その植物の名前を唯一知っている方が残念ながら賢者がティシュヴァンフォーレに転生した年に亡くなってしまわれたのです…。』
もっと早くにそれに気付いていれば白米を再現出来たはずなのに申し訳ない、とフォルトニア様はしょんぼりした顔で落ち込んでいた。まあ、亡くなってしまっているのでは仕方ないよね…。だが、その小国に手掛かりがある事が判ったのだしいつか探しに行けたら良いなあ。一応小国の名前を聞いておこう。
『レトナークの更に南にある小さな島国で、セレネドナと言う国です。気候や食文化が一部だけですが日本に似ている所もありますね。賢者ベルカイムが転生して生まれた国でもあるのですが…。』
ああ、折角白米になりそうな植物が自生している小国に生まれたのにそれに出会わないまま旅立ち、レトナークへと定住してしまった悲しい運命を持つ賢者様。同じ日本出身の転生者としていつか何とかしてあげたいものである。
まあ、うっかり賢者様愛用の伝説の杖を私の手に渡るようにしてしまったのはこの際許してあげよう。フォルトニア様はお詫びとして、賢者様の正式な名前と異世界で使えるポイントを増やしてくれるそうだ。ポイントって事はやはり良いものと交換出来てしまうシステムなのだろうか?何が交換出来るのかはどうしても欲しくなった時が来たら聞いてみよう。
とても長丁場になってしまった女神様の夢解説は白米のヒントと共に終わりを告げた。
簡単な人物紹介
賢者ベルカイム
時々話の中で出てくる伝説の
賢者様。ウィシュトヴァラ王国を
救った英雄とされているが、
本人は目立つのが苦手なので
英雄扱いに困惑している。
フルネームはベルカイム・フィーリルトン。
レトナークより更に南にある小さな島国で
男爵家の四男として生まれたが、
強力な魔力と魔法の才能があったので
冒険者となり旅をしていたらあちこちの
国で色んな危機を救ったせいか気が付くと
賢者扱いされていた。レトナークに
居を構えてからは生活に役立つ魔法や
魔道具を研究しており、白米を作り出す
為の研究にも余念はないが未だに
実っておらず、現在は魔法石を利用した
日用品で生活が豊かになる事へ
シフトしつつある。近々射影魔道具が
作れそうなので気持ちは多少上向き気味。
彼が亡くなるまでに白米になりそうな
植物を探そう、頑張れミレーナ!




