生ダコ
海斗はただ涙を流していた。
特に悪いこともないが、
持病で痛む身体で
気分はヘトヘトだった。
海斗はもうじき29歳になる。
今はアルバイトで生計を立てている。
恋人は5年いない。
両親も25のとき
母を亡くしてからいない。
父は幼いころ亡くなった。
海斗は米だけを食べている。
塩むすびを三食。
飽きはしない。
生きていければいい。
友人の康隆に誘われて
回り寿司に久しぶりに行った。
ただパラダイスのようだった。
康隆に何度か口説かれたことがある。
うちで正社員をやらないか。
お前の持病も考慮するよ。
いつしか康隆は言わなくなった。
康隆のいる会社の経営は厳しく、
康隆は6月いっぱいで退社する。
次はコンビニの店長職が決まっている。
世界は淡い喜びに満ち溢れて
いるけれども、
なんだか切ない。
布団を藍色に変えたいが
まだ母の使っていた
ピンク色の羽毛ぶとんをかぶる。
冬でもない。
汗ばむが母が恋しい。
急に電話がなる。
元カノの夏子から
結婚します。
メールからは幸せになりたい
女のピンク色のドレスが浮かび
康隆と生ダコのにぎりをわけあって
笑い泣きした。