第八話 再会
「はーい、ケロちゃんご飯ですよー。お口をあーんしましょうねー」
「はーい!」
椅子の上に立ち、テーブルの淵から顔を出して大きく開けているケロの口に、リンはポイポイと食べ物を次から次へと放り込む。
口の中がいっぱいになった時点でケロは口を閉じ、凄まじい勢いで租借し飲み込む。
その流れを10回ほど繰り返したところで満腹になったのか、ェプッと小さくゲップしケロは椅子に座り込んだ。
「ケロちゃんもういいの?」
「うん!お腹いっぱい!」
ケロは満面の笑みでリンに応える。
その笑顔は見る者に明日への活力を与えるまるで向日葵の花の様だ。
俺はケロの笑顔を見て幸せな気分に浸り、思わず顔がにやけてしまう。
そんな幸せな気分を満喫していると、背後から急にかけられただみ声で現実に引き戻される。
「よう!主元気にしてたか!」
声をかけられると同時に肩に重みが掛かり、驚いて振り返ると。
緑の肌をした大男。ゴブリンが俺の肩に手を置いていた。
そしてその顔には見覚えが。
「お。お前まさか!ガートゥか!?」
驚いて声を上げる俺に、ガートゥは凶暴な顔をにやりとさせる。
いかつい顔でその笑い方をされると逆に怖いのだが、今はそんな事はどうでもいい。
「お前生きてたのか!」
「良かった!生きてたんですね!」
「ん?二人共何の話だ?」
「いや何の話って、キング達に殺されたとばかり思ってたよ」
そう、ガートゥは王墓30層におけるキングとの戦いで命を落としたはず。
そうでなければ送還できなかった説明がつかない。
それにその後の召喚で呼び出すことも出来なかった。
「ひょっとしてあれか?主は召喚で呼ばれてる奴が絶対死なないってのを知らないのか?」
「へ?そうなのか?」
「そりゃそうだろ?いきなり呼ばれて、しかも命令には逆らえない状態で死んだら終わりとか。誰が召喚に応じるんだよ?」
(言われてみればそりゃそうだ。しかし応じないって選択肢があるなら、応じてる奴らは何で来てくれてるんだ?)
少し疑問に思ったが、今はそんな疑問よりもガートゥが生きていてくれた事が素直に嬉しかった。
「俺のせいで死んだとばっかり思ってたから、生きててくれて本当に良かったよ」
「なんだ?そんなこと気にしてたのか?」
「そりゃ気にするさ」
他の召喚モンスターに関しては消耗品程度にしか感じてはいないが、実際に言葉を交わした相手だとどうしても情が移ってしまう。
そんな相手が俺のミスで死んだとなれば、気にするなという方が無理だ。
「まあ、あれだ。召喚される側にも一応メリットはあるわけだし。何より俺達は死なないわけだから気にしなくていいぞ」
「メリット?」
「ああ、俺達精霊は召喚された時点で体調が全回復するからな。あと肉体も若返るから、年老いた精霊なんかは大喜びで召喚されてるぜ」
「そうなのか」
(病気の回復や若返りがあるならメリットとしては確かにでかいな。特に若返りは)
「ま、なんにせよガートゥが生きてた事はめでたい!今日は俺のおごりだ、腹いっぱい食ってくれ。」
空いている席の椅子を引き、ガートゥに座るよう促す。
「いや、気持ちは嬉しいんだが、俺達ゴブリンは飯を食わねぇんだよ」
「え!?まじで」
「まあ、雨とかが長く続いた場合は苔とか雑草とか食うけど。基本的には光合成だ」
「えええええええええ!」
(嘘だろ!?こんなごつい体で草食?っていうか植物系?)
目の前の大柄のゴブリンが動物ですらない事に驚き、思わず大声を上げ立ち上がる。
「たかしさん!ケロちゃんがびっくりするから大声を出さないでください!」
「あ、ごめん」
ケロの方を見ると俺の大声で驚いたのか、リンのお腹に顔を埋める様にしがみ付いていた。
大失態だ。
「ケロごめんね」
「パパ。怒ってない?」
ケロがしがみ付いたリンのお腹から襲る襲る振り返り、此方を伺うように怯えた表情で聞いてくる。
「勿論だよ。大声出してごめんね」
ケロの目を見て心から謝ると、許してくれたのか、曇っていた表情が見る見る笑顔に変わり抱き着いてきた。
そんなケロを抱き上げほっぺたをすりすりする。
すりすりすりすりすりすりすりすり。
(あー幸せだなー)
「あのよ、主。幸せそうなとこ悪いんだけど、実は頼みがあってここに来たんだ」
「頼み事?」
「ああ、実は俺達の一族を救ってほしいんだ。主に。と言うかリンに」
「え?私にですか?」
いきなりガートゥはその場でしゃがみ込み、土下座を始める。
(いきなり最終奥義土下座!?)
「ええ!っちょ何やってんだ!?」
「頼む!この通りだ!力を貸してくれ!」
「わかった!わかったから頭を上げろ」
「本当か!」
ガートゥが頭を上げ、目を輝かせて聞いてくる。
「ああ、勿論だ。リンもいいよな?」
「はい!大丈夫です!」
「感謝する!」
そう言いながらガートゥ再び頭を下げる。
「だからもう土下座はいいって!」
(めっちゃ見られてるじゃねぇか!)
周りの視線が痛くてしょうがない。
俺はガートゥに席に座るよう促し、話を続けた。
「とりあえずどういう事か教えてくれ」
「実は―――――」
この後、ガートゥから事情を聴いた俺達はバヌ族を救うために東の平原へと向かう事になる。




