表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/165

第二話 失恋

世の中顔だ。

もう一度言う。世の中顔だ。


少し前までは人間顔じゃないと思っていた。

だがそれは誤りだった。


優しさ?愛嬌?能力?

何それ?美味しいの?

圧倒的な美貌の前にはそんな物はゴミだとはっきりと理解した。


真っ白な天井を眺めながら、そこに彼女の顔を思い浮かべる。

黄金に輝く美しい髪。

吸い込まれそうなほど深い緑の瞳。

ぷっくりとした桜色の唇。


ああ……マイエンジェル……


あの時僕を助けてくれた天使。

僕は天使に心を奪われてしまった。


彼女の名前はリン・メイヤー。

僕の命の恩人だ。


父の話によると彼女は旅人で、たまたまあの場に居合わせたとの事だ。

人はそれを運命と呼ぶ。

そう考えればあのケルベロスの上位種さえ、僕たちの出会いを演出するピエロだったように思える。


ああ、早く彼女に会いたい。

会って自分の気持ちを伝えたい。


それなのに自分の虚弱な肉体が恨めしい。

ケルベロスにやられた傷はかなり深刻だったらしく、一命を取り留めた物の、回復には数日の時間を必要とされた。

お陰でこの三日間、彼女への気持ちを悶々とため込む羽目に。


コンコンと扉をノックする音が響く。

その音を耳にした瞬間、どきりと心臓が跳ね上がる。


まさか彼女が!?


思わずつばを飲み込み。

震える声で答える。


「ど……どうぞ」


ゆっくりと開く扉に、僕は熱い眼差しを送る。

その先に居る天使を思い。


「マイキー怪我はもう大丈夫?」


外れだった。

期待が大きすぎたせいか駄目だった時のショックは大きく、思わず項垂れる。


「どうしたのマイキー!怪我が痛むの!?」


僕の反応を違う意味に捕らえたエミリーが慌てて僕に駆け寄り、心配そうに声をかけてくる。

心配してくれるのは嬉しい。

嬉しいんだけど。


「大丈夫だよ、痛みも殆どないし。医者に止められてなけりゃさっさと訓練を再開したいぐらいだ」

「まあ、マイキーったら」


僕の答えに安心したのか、エミリーは微笑みながら僕の手を握ってくる。

そんなエミリーの積極的な行動に焦って手を引っ込めようとするが、それを拒むかのように彼女は強く手を握ってくる。


「照れなくてもいいのよ、マイキー。私たち夫婦なんだから」

「な……何を言って……」


エミリーの唐突な発言に思わず言葉が詰まる。

確かに体面上彼女は婚約者という事になってはいるが、それは親が勝手に決めた物。

あくまでも、お互い成人した際にその気があれば程度の約束でしかない。


エミリー……ついに頭がおかしくなってしまったんだろうか?


「私嬉しかった。いつもそっけないマイキーが私のために命を賭けてくれて。それに……」


僕は将来町を守る戦士を目指して頑張ってきた。

だから危ないときに女の子を守るのは当然の事だ。


ていうか感謝しているならマイキーって呼ぶな。


「キス迄してくれて」


あ………………忘れてた…………

あの時雰囲気に飲まれて、ついやらかしていた事を……


顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうにもじもじしているエミリー。

その様子を、僕は死んだ魚の様な目で見つめ。心が地の底に吸い込まれるような、絶望的な気分に落ちていく。


不味い!不味いぞ!

こうならないようにずっと気を付けて来たのに!

手を出しておいて、今更婚約は無しだなんて絶対に通らない。

とにかくエミリーが周りに言いふらさないよう口を封じないと!


「あ、あのさエミリー。そういう話は外では……」

「皆もね、おめでとうって言ってくれたの!!」


ああ、おわった……


さよなら僕の初恋……

さよなら僕のマイエンジェル……


その夜、マイケルは生まれて初めて泣いた。


失恋の味は、いつの世もほろ苦い物である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他にも投稿してますんで、良かったら見に来ていただけると嬉しいです。 おっさんだけど、夢の中でぐらい夢想していいよね!?~異世界へ日帰り転移~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ