第八十四話 拷問
「しっかし腹からブレスとか聞いてねぇぜ」
「何事も油断は禁物だ」
(おめーだって昔油断して吹っ飛ばされてたじゃねーか)
勿論口には出さない。
機嫌を損ねると背中の皮をこそぎ落されそうで怖いからだ。
「そういやあのドラゴン、何も落とさなかったのか?」
「ああ、魔石だけだったぞ」
酷い目にあったにもかかわらず、たいして成果が無いとなるとがっかりしてしまう。
(まあ俺が倒したわけじゃないし、そもそも彩音は一発でぶちのめしたらしいからな。レアアイテム求める方が厚かましいか)
しかし背中が熱い。
熱いというか痛い。
「まあ、魔物がアイテム落とすのはかなり低確率らしいからな」
「え!?そうなのか?」
「ティーエが言っていた」
どうやら以前連続でアイテムが手に入ったのは、相当運が良かっただけのようだ。
王墓は定期的に魔物が湧く為、48層に目印をセットして、転移魔法を使ってドラゴンを定期的に狩ればウハウハだ。などと考えていたのだが、世の中そんなに甘くなかった。
しかし痛い。冗談抜きで。
「あ、すまんたかし」
「急にどうしたんだ?」
彩音が手を止め謝ってくる。
そのおかげで、先程まで背中に感じていた痛みを伴う摩擦から解放され、ほっと一息つく。
気を使ってくれての行動なのだろうが、彩音の背中流しはもはや拷問に等しかった。
「なんか皮が剥がれて血が出てきた」
「ふっざけんな!!」
前言撤回。
拷問に等しいではなく。完全に拷問以外何物でもなかった。
何処の世界に皮がはがれる程こする背中流しがあるというのか?
「フラム!すまんがたかしに回復魔法をかけてやってくれ!」
「は?フラム?」
彩音が大きな声で脱衣所に向かって叫ぶ。
(何いってんだ?)
何処をどう見てもフラムなどいない。
というか男湯にフラムが居る訳がない。
「わ、わたしはいませんよー!」
脱衣所の方から間抜けな声が返ってくる。
(いたのかよ!)
どうやら出歯亀していたようだ。
あの女の考えることは本当に理解できない。
「いいから回復してやってくれ」
「もう、折角隠れて見守ってたのに。なんで見つけちゃうんですか!」
フラムがぶつくさ文句を垂れながら、脱衣所から風呂場に入ってくる。
ウェディングドレス姿で。
「あ!もう彩音さん!駄目じゃないですか!!」
フラムが俺の背中の怪我を見て、大きな声で叫ぶ。
先程から結構な量の血が足元に滴っている事から、酷い怪我なのだろう。
幸い念入りに擦られ過ぎたせいか、感覚がマヒして痛みはあまり感じないが。
「服着て風呂入っちゃだめですよ!!」
(そっちかよ!俺の怪我の心配しろ!)
「いやまあ、一応年頃の男女だからな。裸は不味いだろ?」
もっともな意見である。
意見ではあるが。
(そう思うんなら背中自体流そうとすんな)
「えー!でも、二人は恋人同士じゃないですか!」
「ん?何の話だ?たかしの相手はフラムじゃないのか?」
「え!?違いますよ!!」
「違うのか?いつも一緒に行動してるから。てっきりそういう仲なんだと思っていたが?」
「違います違います!どう考えても恋人は彩音さんの方じゃないですか!」
「いや、私は別に恋人でも何でもないが」
(なんだろう。こう……要らない物を押し付けあってる感は?)
彼は私の物よ!の逆バージョン。
班分けで、クラスであぶれた人間が押し付けあわれる切ないやり取り感。
何か聞いてて悲しくなってきた。
「いいから、回復してくんね?」
だんだん背中の痛みが増してきた。
くだらない押し付け合いを聞いてたら出血多量で死にかねない。
「あ、ごめんなさい。今直ぐ回復します」
「すまんな、たかし。一応 心眼でヒットポイントは確認してたんだが」
(どこの世界に、相手のヒットポイント確認しながら背中流す奴が居るんだよ!ダメージ与える気満々じゃねーか!)
「あ!それで私の事が分かったんですね!ずるいです!」
フラムが彩音に抗議する。
魔法を中断して。
「いや、フラムの事は気配で察知しただけだ。別にスキルは関係ないぞ」
「うー。彩音さん鋭すぎます」
どうでもいい女子トークに頭がくらくらしてくる。
(ってあれ?からだが何か揺れて……)
そこで視界が暗転し、俺の意識は途切れた。




