第八十一話 夢
「あなた?その人形は?」
「彩音へのプレゼントさ」
男は両手に大きな人形を抱え、手作りだぞと言葉を付け加える。
「ふふ、あなたそっくり」
「ああ、彩音が少しでも寂しくないようにね」
手にした人形を妻が大事そうに抱く赤子の前に掲げ、顔を隠し裏声で話しかける。
「はじめまして、彩音ちゃん!今日から僕がパパの代わりだよ!仲良くしてね!」
彩音と呼ばれた赤子が嬉しそうに人形に手を伸ばし、可愛らしい声を上げる。
男はそんな愛くるしい娘の姿に破顔し、その小さな手を優しく握った。
叶うなら、この温かく柔らかい手をいつまでも握りしめていたい。
男はそんな衝動に駆られる。
だが彼には成さねばならない事があり、それは決して叶わぬ願いだ。
男は強く後ろ髪が引かれる思いを断ち切り、その手を離す。
「俺は必ず帰って来る。だから、それまで彩音の事を頼む」
「はい、たかしさんを信じて待ちます。この子と二人で。だから必ず帰ってきてください」
「約束する」
男は人形を棚へ置き、妻を優しく抱き寄せ口づけを交わす。
今生の別れではなく、再開の約束を込めた口づけを。
「行ってくる」
唇を離し、男がそう告げたとたん男の体は光だす。
その眩い光に女は思わず瞼をを閉じる。
光が収まり、閉じた瞼を開いた時にはもう男の姿はそこには無かった。
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「なんだったんだ?今の夢は」
彩音とその両親?
(意味が解らん?何で俺が彩音家族の夢を見るんだ?)
一つ気になったのが彩音の父親と思しき男の名だ。
(まあ有り触れた名前だし、被ってもおかしくないか。そもそも夢の話だし、気にするだけ無駄か)
大きな欠伸を一つ。
時計を見ると、起きるにはまだまだ早い時間だ。
(次は訳の分からん夢じゃなく、マーサさん辺りが縄跳びしてる夢が見れますように)
俺は本能に従い、布団をかぶり瞼を閉じた。




