第七十九話 極大召喚
極大召喚
三つの召喚枠と、自身の全てのMPを消費して呼び出す召喚魔法。
呼び出すのは最強モンスターたるドラゴン。
その強さは、召喚時に消費したMPがそのままレベルへと反映される。
現在俺の最大MPは260。
この状態で極大召喚を行えば、召喚強化の影響も併せて、呼び出されるドラゴンのレベルは320になる。
まあ仮契約や遠距離通話でMPを消費する事から、最大レベルで呼び出すには、パーやフラムにMPを回復してもらう必要があるが。
「凄い……ですね……このドラゴン」
「えへへ、すごいでしょ!」
視界を覆いつくさんばかりの、山の様な巨大なドラゴン。
そんな巨大で白い竜を目にし、フラムが感嘆の声を漏らす。
そんなフラムの驚きの声に、何故かリンが自慢気に答える。
(呼び出したのは俺なんだが。なんでリンが自慢げに答えるんだ?)
37層を抜け38層迄来たは良いが、38層は溶岩地帯だった。
流石に溶岩地帯を歩いて探索するのはきつい。
そこで俺はゴブリン達を戻し、新たに習得していた極大召喚でドラゴンを召喚したのだ。
ドラゴンの背に乗って探索する為に。
幸い天井は高く、ドラゴンが飛行するにも問題なかった。
「まさかドラゴン迄呼び出せるようになるなんて。初めて会った時からは想像もできない程成長されていますね。流石は彩音さんの幼馴染と言うべきでしょうか。本当に素晴らしいです」
(素晴らしい、か)
素晴らしいなどと声をかけられたのは、生まれて初めての経験だ。
それも相手がティーエさんみたいな綺麗な人だと、照れくさくて全身ムズムズしてしまう。
(別に異性として意識している訳じゃないけど、やっぱ美人に褒められのは嬉しいもんだな)
一つ問題があるとすれば奴だ。
振り向いてみてみると、案の定、凄い形相でティータに睨みつけられる。
「異世界の人間はほんと、とんでもないねぇ」
パーが異世界という単語を口にする。
そう、彼女は俺や彩音の出自を既に知っていた。
何故なら、彼女は共に戦場を生き抜く戦友だからだ。
戦友に隠し事など不要。
というのは真っ赤な嘘で。
実はパーに鎌をかけられて、単に俺が口を滑らせただけだったりする。
我ながら本当に口が軽くて困ってしまう。
パーが言うには、この世界にはちょくちょく異世界人がやって来ているようで。
様々な書物で、異世界の人間についての記述が残されているらしい。
とくに有名なのは、神聖王国の初代国王だ。
ルグラント三国の元になった神聖王国の始祖であり、明言こそされてはいないが、出自が不明な点やその人知を超えた能力から、異世界人だったのではと推測されている。
(魔物退治に呼び出されてるのに建国とか……ありなのか?いくら何でも異世界に影響残しすぎじゃね?)
世界全体での魔物の討伐を考えた場合。
人手を纏め、軍隊を編成するのが一番効率がいいとも言える。
とはいえ、強大な国を立ち上げるのは流石にやりすぎな気がしてならない。
因みにこの王墓は、その初代が作らせたものだ。
(でっかい国作ったり、こんな訳の解らん墓作らせたり。やりたい放題だな)
人間力を手に入れると碌な事をしないという良い見本だ。
まあ蘇生薬の研究をしていてくれた事には感謝をするが。
「ふむ、ドラゴンか。少し手合わせしてもいいか?」
「いいわけあるか!」
彩音がドラゴンを前にして「ちょっとぐらい構わんだろう?」と訳の解らん事をほざきだす。
恐らく王墓内で遭遇した魔物では、彼女の戦闘意欲を満足させるには至らなかったのだろう。
終いには、お前とドラゴンの二対一でいいからと言い出す始末。
(何が悲しくて、ダンジョン探索中に彩音にボコボコにされにゃならんのだ)
俺は強くなった。
が、それでも彩音には遠く及ばない。
(と言うか、俺が強くなったように彩音も強くなってるんだよなぁ)
ヴラド討伐直後の彩音のレベルは370だった。
最初覗き見でレベルを確認した時、なんてふざけたレベルだと思ったものだ。
そして数日前に合流した際、俺は再び覗き見で彩音のレベルを確認する。
山籠もりでレベルが変動するのか興味があったからだ。
そして出た数値が470……
(おかしくね!?なんで1月足らずで100も上がってんだよ!?)
此方もレベルが50上がったとはいえ、同じ期間で此方の倍上がるとか滅茶苦茶にも程がある。
しかもこっちは70で相手は370。
レベル差的に考えて、必要経験値は下手したら10倍以上変わってくる差だ。
目の前の女はほとほと化け物だと痛感させられる。
ノウキンサイキョー。
「今度暇があったら相手するから、いいからさっさと西側探索して来いよ」
「わかった、約束だぞ。ティーエ、悪いがその時はたかしにドラゴンリングを貸してやってくれ」
「わかりました」
(馬鹿め!只の社交辞令だ!誰がてめーみてーな化け物と手合わせするか!)
嘘も方便。
この言葉を考えた奴は天才だ。
少し楽し気に西側へ向かう彩音を尻目に、俺達もドラゴンの背に乗り込み探索を開始する。




