第七話:注意一瞬、怪我一生
(ほんと、俺何もしてねぇよな)
結局ドラゴンは彩音が一人で倒してしまった。
何もしていないのはティータも同じなのだが、奴は登山中フラムさんとティーエさんの荷物を運ぶ程度の働きはしてる。
それに対して俺は誰かの荷物を持つどころか、逆に彩音に荷物として背負われて山脈を登ってきた。我ながらひ弱な事この上なしだ。
(洞窟内にドラゴンがいるか、フローティングアイの千里眼で確認作業をしてるし、帰りのテレポートも含めて考えると一応ティータよりは仕事してるよな?)
活躍していない事に変わりはないが、貢献度最下位はやはり気分が良くない。
とりあえず、ガッツポーズを決めている彩音にねぎらいの言葉でもかけてやろうかと、近づこうとした瞬間。
彩音が豪快に吹き飛ぶ。
(え?)
一瞬何が起きたのか理解できずに固まる。
だが、答えはすぐにやってきた。
さっきまで倒れていたドラゴンが、ゆっくりと起き上がってきたのだ。
(嘘だろ…顔面半分吹き飛んでんだぞ。なんで死んでねぇんだよ!!!)
吹き飛ばされた彩音の方を見ると、ピクリとも動いていない。
いかに彩音が強かろうとも、背後からの強烈な不意打ちを食らえば一溜りもない。
「プランBですわ!!!」
ティーエさんの声が響く。
その声に素早く反応したティータが物陰から飛び出し、倒れている彩音へと駆ける。
フラムさんとティーエさんもそれに続く。
プランBは彩音が怪我などで動けなくなった場合の作戦で、ティーエさんが彩音を回復し残った3人で時間稼ぎをするというものだ。
俺はドラゴンの足元にゴブリンを2匹召喚する。
俺の召喚は右掌の直線状、射線が途切れる場所で召喚が発生する。
その特性を利用し、ドラゴンの足元でゴブリンを召喚したのだ。
ゴブリンを足元でちょこまかさせ、意識を俺達から足元に移すために。
人間だっていきなり足元にネズミが出たらびっくりする、ましてや足元をちょろつかれれば嫌でも意識はそちらへと向くものだ。
もっとも、引き付けられる時間は10秒と無いだろう。
たかが数秒であっても、大技などで長く足止めできない以上、小さな事を積み重ねていくしかない。
召喚と同時に俺も駆ける。
俺にはもう一つ大きな仕事があり、仲間たちの傍に控えていなければならない。
ドラゴンの方を見ると煩わしそうにゴブリン2匹を前足で薙ぎ払っていた。
当然ゴブリンは即死し、消滅する。
(げ!5秒も持ちやがらねぇ)
走りながら右手を向け、再び足元に召喚する。
直ぐに殺されるが、構わず何度も召喚しなおす。
続けていると、際限なく足元から湧いてくるゴブリンにイラついたのか、ドラゴンが大きく雄叫びを上げ、前足2本で地団太を踏むかの様に地面を叩き始める。
(作戦成功!)
そのすきに彩音のもとにたどり着く。
当然他の面々は先に到着しており、ティーエさんによる回復が行われていた。
彩音を見ると口元に血を吐いた跡があり、右手右足はあらぬ方向に捻じ曲がっている。
そんな痛ましい姿に、つい顔をしかめてしまう。
俺は回復魔法に詳しくはない。
だが流石にここまで酷い状況だと、回復するまでには相当な時間が必要となるはず。
果たしてそれだけの時間を稼げるだろうか?
そんな不安に駆られていると、ドガドガと地面を叩く音と振動が止まる。
ドラゴンの方を見やると、癇癪はもう収まってしまったようだ。
ゴブリンによる時間稼ぎで相当イラついたのか、ドラゴンが怒りに燃える瞳でこちらを睨みつけてくる。その余りの形相に、俺は思わず背筋が凍り付く。
(早いとこ彩音に復帰して貰わないとやばいぞ、こりゃ)
「彩音は大丈夫なんですか!?」
「回復に少し時間がかかります。どうか時間稼ぎをお願いします」
やはり予想道理時間が掛かるようだ。
出来れば外れて欲しかった。
「お任せください!姉上!このティータの一世一代の晴れ舞台、御照覧あれ!」
そう言うと、ティータは盾を構えながらドラゴンに向かって前に出る。
(御照覧も何も、回復で手いっぱいでお前なんか見てねーぞ)
勿論思っても口には出さない。
それが大人のマナー。
などと馬鹿なことを考えている場合ではない。
恐怖のあまり現実から目を逸らすのは良くない癖だ。
生きて帰れたら頑張って直すとしよう。
気持ちを切り替え、再びドラゴンの足元にゴブリンを召喚する。
だがドラゴンはそれを無視し、こちらへと突っ込んでくる。
(召喚してるのがばれたか?)
もしくは怒りの余り足元が見えていないのか。
どちらにせよ、もうこの手は通用しない様だ。
「我が名はティータ・アルバート!我が忠誠と信念を姉上に捧げる!我を恐れぬならばかかってこい!」
「こんな状況で何恥ずかしい事叫んでやがる!」
「いえ、これは身体能力を一時的に向上させる勇敢な心です」
只の恥ずかしい前口上ではなかったようだ。
スキルが発動し、ティータの全身を青いオーラが包み込む。
そのティータへとドラゴンが勢いよく飛び掛かり、右足を叩きつけた。
轟音が鳴り、地面が弾け飛ぶ。
だが、ティータは見事にドラゴンの一撃を受け止めて見せた。
(すげぇ…)
俺はティータへの評価を改める。
(でかい口叩くだけあって、こいつも普通に強ぇぇ…)