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第七十三話 待ち伏せ

「こりゃまた大歓迎ってところだねぇ」


パーが眼前に広がる光景を目の当たりにして呟く。


俺達は30層の森を抜け、平原へと飛び出す。

するとそこには、武器を手にしたゴブリン達の姿が立ち並んでいた。


「百じゃ利かねぇよな、これは……」


見渡す限りゴブリン塗れと言った所だろうか。

その全てが、此方へと敵意ある視線を向けてきている。


「完全に待ち伏せされているな。森で遭遇したゴブリン達は全て確実に始末したはずだが」

「ゴブリンってのは血の臭いに敏感なんだよ。始末する度に流される仲間の血が、あいつらに俺達の居場所を教えてたって事だ」


レインの疑問に、ガートゥが答える。

どうやらゴブリンはそうとう鼻が利くようだ。


結局、逃がそうが殺そうが此方の位置は相手に把握され。

どう足掻こうと、進む限りは森を抜けると大群に待ち伏せされる運命だったわけだ。

ニカの母親が所属していた大規模パーティーが壊滅させられたのも頷ける。


「明らかにこれまでの敵とは違いますね。今までの魔物には連携なんてありませんでしたし」

「ここからが本番ってとこか」


覗き見(サーチ)でざっと見たところ、敵のレベルは全て50前後。

これまでの階層にもこのレベルの敵はいたが、これほどの数が徒党を組んで襲ってきたことは無い。

そういう意味では、ここ30層はそれまでとは一線を画する難易度と言える。


「しかし何であいつら睨むばっかで、襲い掛かってこないんだ?」


蛇の道は蛇という。

ゴブリンの事はゴブリンに聞くのが一番だ。

そこで俺はガートゥに今の状況を質問する。


「大方、こっちの退路を断つ為に背後に仲間を回り込ませてんだろ」

「ええ?お前そういう事はさっさと言えよ!睨みあい続ければ続ける程、状況が悪くなるじゃねーか!」

「落ち着けよ。この程度の敵、いくら頭数揃えたって俺達の敵じゃねぇ。今レインと競争してるんだからちょっとまってろ」


(レインと競争?一体何の競争だ?)


ガートゥの言葉の意味が理解できずに混乱する。


「見つけたぞ」

「見つけたって何を?」

「群れのリーダーに決まってんだろ?ったく、主が喋りかけてくっから負けちまったじゃねーか」


(こいつらリーダーを探してたのか)


しかし動きのない百を超える集団から、よくリーダーを見つけ出せたものだ。

俺には手にしている得物以外、違いがまるで分からない。


「俺が突っ込み頭を潰す。そうすれば残りは烏合の衆だ」

「しょうがねぇ、負けは負けだ。サポートしてやるぜ」


そう言い終えると、ガートゥとレインがゴブリンの群れに突撃する。

その動きに合わせてゴブリン達も動き出した。


近接武器を手にするものは前へ。

弓を手にするものはその裏へと周り、矢を番える。

とても魔物とは思えない程の連携の取れた動きだ。


ゴブリン達から放たれた無数の矢は、レイン達に。

そしてその後方にいる俺達へと襲い掛かる。


飛来する矢を、レインとガートゥは苦もなく切り払いながら前進する。

そして瞬く間に敵の眼前に迫った二人は、一刀の元全ての敵を切り裂いていく。


一方、俺達の元に迫る全ての矢はフラムの魔法によって無力化される。


風の結界(ウィンドパレス)

風の防壁により、飛び道具を無効化する魔法だ。

ゴブリン達の膂力程度ではこの魔法を突破する事は不可能。

お陰で飛び道具を気にしなくて済む。


俺達は寄ってくる敵を迎撃する隊形を組みながら、少しづつ前進する。


風の結界(ウィンドパレス)を使うフラムを中心に、正面は俺が。

背後は召喚したゴブリンウォーリアが。

そして両サイドはパーとリンが担当し、ニカはフラムの傍へ。


するとゴブリン達は弓を捨て、背に掛けてあった斧や鉈等へと持ち替える。


突っ込んだ二人は乱戦状態。

後方の俺達には飛び道具が効かない。

この状況下で弓は有効ではないと判断したのだろう。


隊列を変更しようかとも考えたが、見えない位置から弓が射掛けられないとも限らない。

万一の事態を想定し、そのままの隊列で敵を迎え撃つ。


俺は腰の剣を抜き放ち、襲い来る敵を一刀の元切り伏せる。

敵は此方を囲み一斉に飛び掛かってきたが、それら全てを四人で返り討ちに。

俺やリンは元より、召喚したウォーリアもこの程度の相手なら敵ではない。


驚かされたのはパーだ。

彼女はその手にした棒で華麗に敵を叩き伏せる。


棒術に自信があると本人は豪語していたが、正直半信半疑だった。

だがその言葉に嘘偽りが無かった事を、彼女はここで見事に証明して見せたのだ。


彼我の戦力差は圧倒的だったが、敵は此方の消耗を狙い休まず波状攻撃を仕掛けて来る。そんな敵の攻撃を、俺達はそれぞれの個人技で切り抜ける。

二陣三陣と退けた所で、急に敵の動きに異変が現れた。

それまでは息をぴったり合わせて襲ってきた魔物達だが、急に動きがちぐはぐに。


「どうやら、群れのリーダーをレイン君が倒してくれたみたいだね。もう少し手こずるかとも思ったんだけど、流石レイン君。頼りになるねぇ」


パーが巧みな棒術で敵を叩き伏せながら、レインへの称賛の言葉を口にする。

レインが聞いていたら、きっと大喜びだったに違いない。


「敵が逃げていきますね」


リーダーを失ったことで一部の敵が逃げ出し、それを目にした他のゴブリン達も、堰を切ったかのように散り散りに逃走を始めだす。

レインの言った通り、頭を失ったゴブリン達はまさに烏合の衆そのものだった。


「さて、と。レイン達に労いの言葉でもかけてやるか」


俺は剣を鞘に納め、パーに声をかける。


「さっき言ってた台詞、レインが聞いたらきっと喜ぶぜ」

「そうですね!さっきの言葉、レインさんに言ってあげましょうよ!」


フラムが凄く嬉しそうに俺の案に賛成してくる。

普段はうざくて仕方のないこういった反応も、こういう時は助かる。


「残念。僕はそんなに優しくないんでね」


パーはにやりと笑いながら、彼を甘やかす気は無いよと言葉を続ける。


(本当にいい性格してやがる)


余りにも前途多難なレインの恋に、思わず黙祷を捧げたくなる気分だ。


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他にも投稿してますんで、良かったら見に来ていただけると嬉しいです。 おっさんだけど、夢の中でぐらい夢想していいよね!?~異世界へ日帰り転移~
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