表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/165

第七十一話 ゴブリンヒーロー

「いや、どんな魔物って言われても。弱いとしか答えようがないんだが」

「弱い?ゴブリンって魔物は弱いのかい?」


パーが訝し気な顔で聞き返してくる。


冗談抜きで、そうとしか答えようがない。

この世界に来た当初は、その余りの弱さに絶望の淵に叩き落された。

それぐらい弱い。


「ふむ、まあここまでの階層に現れた魔物たちも、大した強さでは無かったからな。そのゴブリンとやらも、俺達の敵ではないという事か」


(まあ、そう受け取るよな。普通)


「成程。相対的な評価って訳かい」


パーがレインの言葉を受け、納得する。


「いやまあなんて言うか。本気で弱いんだよ。ゴブリン」

「ゴブリンって、ドラゴンと戦っていた時にたかしさんが召喚していた、あの小さな魔物ですよね?」

「ああ」

「へぇ。君、ゴブリンを召喚できるのかい?だったら、とりあえず呼んで見せてよ。百聞は一見に如かずって言うしね」


もっともな意見だ。

確かに見てもらった方が早いだろう。

納得したので、とりあえずゴブリンを召喚してみる。


(ん?あれ?)


地面に描かれた召喚陣を見て、違和感が生じる。

心なしか陣が大きい気がする。

呼び出すのが久しぶりである為、勘違いかとも思えた。

だが、その違和感は決して勘違いではなかった。


「でけぇ……」


ゴブリンを見上げながら、思わず呟く。


(え?なにこれ?)


俺の知るゴブリンは身長1メートルちょっとで、棍棒と腰蓑を身に着けた粗末なモンスターだった。

だが、今俺の目の前に現れたゴブリンは身長が優に2メートルを超えており、以前まで召喚していた物とは明かに別ものだ。


その肉体は屈強その物。分厚い胸板。樹の幹の様に太い腕。

その手には、人の身長ほどもある大剣が握られており、大剣は抜身のまま肩に担がれている。

以前のゴブリンと共通点があるとしたら、肌が緑色なのと、衣類が変わらず腰蓑という点だけだ。


「へぇ。立派な魔物だねぇ。僕にはこのゴブリンが弱いとは、到底思えないんだけど?」

「いや、以前はこんなんじゃなかったんだ」

「そうですね。以前呼び出していたゴブリンさんは、人間の子供位の大きさだったような気がします」


明かにデカくてごつい。

以前のものと比べると、大人と子供、もしくはそれ以上の差がある。


(こいつほんとにゴブリンか?)


余りの容貌の差に、当然の疑問が頭に浮かぶ。

今目の前にいる巨体を見て、以前までのゴブリンと同じだと考える方が無理がある。


「面白い。たかし、こいつと勝負させろ」


ゴブリンを繁々と眺めていると、レインが馬鹿な事を言ってくる。


「なんで俺の召喚と、お前が戦う必要があるんだよ?」

「知れた事。それはこいつが強いからだ」


どうやらレインは、目の前に現れたゴブリンを強敵と判断したようだ。

その顔には、薄っすらと笑みが浮かんでいた。


(本当に戦うのが好きだな)


「主よ。俺はこの男と戦えばいいのか?」

「いいわけないだろ!」


そんな許可を出すわけがない。

レインの気持ちは分からなくもないが、今はダンジョン探索中だ。

無駄に体力を消耗する行為を認めるわけには行かない。


(ん?あれ?)


気のせいだろうか?今ゴブリンが……


「おや、この魔物は人語を習得してるのかい?珍しい魔物もいたもんだ」


(だよね!喋ったよね、こいつ!)


「お前、喋れるのか?」

「人語は習得済みだ」


(習得済み?一体どこでどうやって?)


色々と疑問はあるが、とにかく今一番知りたい事を聞いてみる。


「ていうか。お前、ゴブリンなんだよな?」

「俺はバヌ族の勇者ガートゥだ」


(バヌ族ってなんだよ!ゴブリンかどうか聞いてるのに、変な部族名で答えんな!)


どうやら人語を解してはいても、おつむの出来はそこまで良くはないらしい。

なんだか、根掘り葉掘り説明しながら聞くのもめんどくさくなったので、覗き見(サーチ)でパパっと調べる事にする。


ガートゥ

【種族:ゴブリン・クラス:勇者】

バヌ族の勇者。人語を解し、高い戦闘能力をもつバヌ族きっての猛者。

レベル120【+34】


(まじか!?レベルが補正込みで154もあるじゃねぇか!)


「それで?俺は何と戦えばいいんだ?」

「俺と戦え」


レインがまだ諦めていないのか、しつこくゴブリンに勝負を申し込む。


レインに諦めろと告げるより早く、ゴブリンは肩に掛けてあった大剣を、大きく踏み込みながらレインめがけて振り降ろす。

だがレインはその一撃を、右足を下げ軽く体をひねって躱す。

叩き潰すはずだった目標を失った大剣は、轟音と共に地面を抉りとる。


一瞬何が起こったのか分からず、あっけにとられていると。

今度はレインがお返しと言わんばかりに、腰の剣を抜き放ち、相手の無防備な喉元を斬りつける。

だが斬撃が首を切り裂くよりも早く、ゴブリンは大剣から手を放し、後方へと飛んだ。

大剣を手にしたままでは躱しきれないと判断しての行動だろう。


「いい判断だ。だが武器を失っては貴様に勝機はあるまい?」

「武器を失う?何の話だ?」


ゴブリンはにやりと笑いながら、右手を前に突き出す。

すると、地面に横たわっていたはずの大剣がふわりと宙に浮かび、疾風の如き速さでその手に収まった。


「魔剣の類か。面白い」


ゴブリンは再び剣を肩に担ぐ。

だが先程までの無造作な棒立ちではなく、今度は深く腰を落とした攻撃態勢だ。

それに応えるかのように、レインも正眼に構える。


「おい止めろ!」

「まあまあ、いいじゃないか。お互いの力量が分かっていた方が、今後の戦いに生かせるんじゃないの?」

「そりゃそうだけど。これから30層に向かうのに、消耗するのは不味いだろう」

「じゃあ、30層は明日でいいんじゃないの?ニカちゃんには悪いけど、一応大きなパーティーが全滅してる階層だし。念には念を入れておいた方がいいんじゃない?」


此処までは大きな問題は発生してこなかった。だが30層もそうだとは限らない。

そう考えると、確かに用心するに越したことは無いだろう。


「あ、私の事は気にしないでください」


ニカは本当にいい子だ。

1秒でも早く30層に向かいたいだろうに、健気に我慢している。


(それに比べてレインの奴ときたら……)


いい歳して、我慢する事を知らないのかと言いたくなる。


結局、この後1時間近くレインとゴブリンの勝負を観戦する羽目になり。

当然のようにくたくたになったレインを連れて、地上へ戻る事となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他にも投稿してますんで、良かったら見に来ていただけると嬉しいです。 おっさんだけど、夢の中でぐらい夢想していいよね!?~異世界へ日帰り転移~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ