第七十話 いざ30層へ
「この下にお母さんが……」
大きな下り階段を前にニカが呟く。
此処を下れば、ニカの母親たちが全滅した30層へ到達することになる。
「ニカちゃん……大丈夫?」
リンが心配そうにニカの肩に手を置き、張り詰めた表情のニカに声をかける。
「ん、大丈夫。ちょっと緊張しただけだから。ありがとう、りんちゃん」
ニカは、肩に置かれたリンの手を握りながら笑顔で答える。
王墓探索がスタートしてから、既に10日以上経過している。
その間、リンとニカはほぼマンツーマンの形で行動していた為か、二人は仲のいい友人関係を見事に構築していた。
微笑ましく思うと同時に、ボッチの眼には彼女たちの関係が羨ましく映る。
一応俺も、レインとの友人関係は築けている?筈なのだが。
どうも俺の描いていた友人関係とは違う。
放課後や休憩時間に楽しく談笑するといった通常の友人ではなく、戦場で背中を任せ合うような、どちらかと言えば戦友に近い関係だ。
戦いながらではあるが、奴に剣術や戦いの指南を受けている事を考えると、どちらかと言えば子弟に近いのかもしれない。
まあようは、言葉ではなく拳や剣で語り合う仲という訳だ。
「さてそれじゃあ、下に降りる前にマニュアルを確認しようかい。最後のね」
パーにマニュアルを読むよう勧められたので、フラムが手にしていたマニュアルを開く。
マニュアルを開くのもこれが最後になるだろう。
残念ながら、マニュアルに載っているのは30層までだ。
マニュアルは王墓に潜入した直後は俺が携帯していたが、隊列が変更され、トラップゾーン以外俺とレインで前衛を務める様になってからは、フラムに所持して貰っている。
トラップゾーンに関しては、相変わらず俺は最後尾だが。
「ふむふむ、分かってはいたけど。30層の情報はやっぱり断片的な物だねぇ」
パーが、フラムの手にしたマニュアルを横から覗き込みながら声を出す。
「30層に潜入できたのは、1パーティーだけだからな」
レインが言う通り、冒険者たちが到達している階層は、30層までと言われている。
しかもそのパーティーは、1人を残して全滅してしまってる。
その為、30層の情報は断片的な物しか記載されていない。
ここまで順調に進んでこれたのは、マニュアルのお陰だ。
その恩恵が受けれなくなる以上、ここからの探索は相当な時間を要する事になるだろう。
「何々、出現する魔物は、と…………え!?嘘だろ!?」
フラムのマニュアルを横から覗き込み、内容を確認する。
そして、そこに書き込まれたモンスターの名前を見て、思わず大声を出してしまう。
「へぇ、たかし君はこの魔物を知っているのかい?僕は初めて目にする名前なんだけど?」
パーが感心したように言ってくる。
知っているも何も。
俺はこいつを呼び出す事が出来る。
だが何故だ?俺の知るそのモンスターはとてつもなく弱い。
とてもではないが、30層に配置されるようなレベルのモンスターではない。
(というか、ニカの母親が所属していた大型パーティーはこいつらにやられたって事か?いやいやいやいや、無い。それは無い。)
そんな事はあり得ない。
「それで、どういった魔物何だい?この“ゴブリン”って魔物は?」
そう、俺の知る限り最弱のモンスター、ゴブリン。
そのゴブリンが、30層の出現モンスターとマニュアルには記載されていた。
(これ絶対、何かの間違いだよな?)




