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第六十二話 切り札

「すごい!!これすごいです!!」


リンが興奮して凄い凄いと叫びながら、ぴょんぴょん飛び跳ねる。

自分に今起こっている事に大興奮だ。


「リンちゃん凄い凄い!」

「これは確かに凄いですわ。これなら、王墓の探索は私たち抜きでも大丈夫そうですね」


先程のリンの動きを見て、フラムとティーエさんも絶賛する。


俺達は今、王都にあるアルバート邸へと訪れている。

パーの件の確認と、明日から正式に王墓攻略を始める報告の為だ。

そのついでに広いアルバート邸の庭を借りて、新しく習得していた召喚のテストをしてみたのだが、そこで思わぬ拾い物をする。


新たな召喚モンスターはサキュバス、インキュバス、それにドッペルゲンガーだ。


サキュバス・インキュバスのレベルは60。

それぞれがフェロモン振り撒く美男美女だ。ただし実態が無く、格好良く言えば物理攻撃無効、悪く言えばお触り禁止状態。

当然実態が無い以上戦闘力は皆無に等しく、主に異性に対する精神攻撃――幻覚や悪夢、精神支配――を主体にしたモンスターとなる。

効果自体は強力なのだが、こいつらの精神攻撃は、相手のレベルが少しでも上だとかなりの確率で抵抗(レジスト)されてしまう為、正直いまいち。


今回のテストの本命はドッペルゲンガーだ。


ドッペルゲンガー

黒い人型のモンスターで、顔の部分に大きな穴が穿かれており、少々不気味な見た目をしている。

夜目覚めたときにこいつが傍に立ってたら、ちびる程度には不気味な見た目だ。

能力は、対象となった相手の姿形・能力をコピーするという物。

ただし自分よりレベルの高い物には変身できない。


ドッペルゲンガーのレベルは60。

そこに俺の基礎スキルである召喚強化が加わると、レベルは83になり、指輪の効果も加えると94にまで上昇する。

因みに変身後はその対象のレベルになり、そこに俺からの補正が掛かることになる。

その為、94レベルのモンスターに変身すると、最終的には127レベル相当の強さを得ることになる優秀なモンスターだ。


もっとも今回のテストはドッペルゲンガーの強さ云々ではなく、ドッペルゲンガーを俺に変身させて、無限召喚が出来るか試すというのがメインだ。

まあ結論から言うと、無理だった。

デスヨネー。


(流石にそれが出来たら、数の暴力でやりたい放題出来るからな)


召喚自体は出来るのだが、どうやら俺本人と召喚数といった基本的な部分がシェアされてしまうようで、俺が3匹呼び出している場合は、それ以上追加で召喚出来なくなってしまう。


俺の能力は元々神から貰った様な物で、俺のために神が用意したスキルとも言える。

神もきっと、それは不味いって事で制限のかかる仕様にしたのだろう。

最も無限召喚は無理だったが、結果思わぬ副産物が舞い降りる事になった訳だが。


(まあこれもバグみたいな物だし、あんまり使わない方が良いよな)


後々神様に罰でも与えられたら叶わない。



「まあ、ちょっとしたバグっぽいから、出来るだけ使わない方向で行こうかなと」

「バグ?ですか?」


ティーエさんが不思議そうに聞いてくる。


「虫に一体何の関係がある?貴様が姉上にとって悪い虫だと、やっと認識したのか?」

「んなわけねーだろ!虫じゃなくて、仕様の穴を突く感じの悪用だって話だ」


(何でこの流れで、俺が悪い虫って話になるんだよ。こいつの脳みそは空っぽか?)


「不味いのですか?」

「まあ、あんまり褒められた行動じゃないんで、いざってとき以外は使わないようにしておきます」

「ふふふ、まさに切り札って感じですね」

「切り札。何かかっこいいですね」


(バグが切り札……それってなんかあれだよな…不正使用が奥の手ってどうよ?)


ちょっと格好悪い気もするが、命懸けのやり取りに綺麗も汚いもない。

本当に必要になったら迷わず使うとしよう。



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