第六十一話 追加メンバー
「たかしさん!お代わりしてもいいですか!」
「ああ、別にいいけど」
「やったあ!あ、ニカちゃん!ケーキもうワンホールお願いします!」
ホールで忙しそうに働いているニカを呼び止め。
リンは追加注文を頼む。
その内容が余りにもあれだったため、ニカが困ったような視線を此方へとむける。
「おいリン。そんなに頼んでちゃんと食べきれんのか?」
「はい!全然いけます!むしろお腹ペコペコなぐらいです!」
それは絶対嘘だろうと呆れつつ。
ニカに持ってくるように頼むと、直ぐに頼んだケーキが運ばれてきた。
本当に仕事の早い子だ。
「勿体ないから残すなよ」
「大丈夫です!」
それはそれで大丈夫じゃない気がしなくもない。
まあ太るようならダイエットさせればいいだろう。
「そういえば、あの人は何だったんでしょうね?」
食後のデザートを食べ終えたフラムが口を開く。
「ああ、あいつか。全く理解不能だったな」
昼間の闘技終了後、受付で俺にいきなり決闘を申し込んできた馬鹿が居た。
決闘などする気は更々ないのでバッサリ断っておいたが、あれは一体何だったのか?
ティータの時の様に、女性絡みかとも考えたが。
リンとフラムは帝国に来たことが無い事から、その線は考え辛い。
パーに限っては異性関係などあり得ないだろうし。
本当に何だったのだろうか?
「ひょっとして決闘でも申し込まれたのかい?」
パーは昼間の試合を観客席から見てはいたが、用事があるとかで俺達とは合流せず帰っている。
その為、試合後控室で決闘を申し込まれたのは知らないはずだが。
「何で知ってるんだ?」
「腕の立つ相手を見つけると、すぐ決闘を申し込む人間に心当たりがあってね。多分そうなんじゃないかと思ってさ」
「お知り合い何ですか?」
「まあ、ちょっとしたね」
直ぐに決闘申し込むとか非常識な奴だ。
流石パーの知り合いだけはある。
「彼はレイン・ウォーカー。この国一の剣士って呼ばれてる男だよ」
「あの変人が?」
「まあ変わり種なのは確かだけど、腕は本物だよ。僕も何度か彼の闘技を見た事があるからね。噂だと、王国最強と名高いバルクス・ファーガンにも匹敵するとも言われてるね」
「誰だそりゃ?」
「たかしさん。王国の騎士団長さんですよ」
「なんだい君、王国から来た冒険者のくせに、騎士団長の名前も知らなかったのかい?」
この世界に来てまだ3ヶ月程だ。そんな俺が王国の騎士団長の事など知るわけがない。
もっとも、それを話せば自分が異世界の人間だと公言するようなものだから、当然口にはしないが。
「うっせぇな、騎士とか興味なかったんだよ。にしても、何でそんな凄い奴が俺なんかに決闘を申し込んできたんだ?」
「それは君が彼のお眼鏡に適うほど強かったからさ。いやー、大したものだったよ実際」
「うふふ、たかしさん格好良かったですよ。ね、リンちゃん」
「ふぁい!すふぉふぁったです!!」
絶賛してくれるのは有難いが、マジックアイテムありきの強さを誇っていいものやら……
(そもそも、ここに居る全員それ位普通に出来るんだよなぁ)
その為か、どうも褒められている気がしない。
まあパーは兎も角、リンやフラムは純粋に褒めてくれているわけだから、賞賛として素直に受け取っておこう。
後、リンは口の中の物飲み込んでからしゃべれ。
行儀悪いぞ。
「で、分かったのか?」
「何がだい?」
パーが不思議そうな顔をして聞き返してくる。
(こいつ脳みそ大丈夫か?)
「俺がどの程度戦えるのか見てみたいって言ったの、お前だろうが。だからサイクロプスとも一人で戦ったんじゃねーか」
「ああ、そう言えばそうだったね。ティーエちゃんから貰った資料だと、君の強さがよく判らなかったんだよね。まあ、合格かな」
「合格って。不合格だったらどうなってたんだ?」
「ふふふ、それは秘密さ」
(何か悪い顔して笑ってやがる、とりあえず合格してよかったぜ)
「そう言えば君。なんで剣を使わなかったんだい?」
「おめーが繊細とか言ったからじゃねぇか。折れたら嫌だったから使わなかったんだよ」
「君、そのままの意味で受け取ってたのかい?持ち主のテンションや体調で切れ味が変わる、扱いの難しい子って意味で言ったんだよ?」
「一々紛らわしい言い方すんな」
本当に紛らわしい。
高価な物だけに壊すのが嫌で扱わなかったが、どうやら気兼ねなく振り回せそうだ。
「所で僕から一つ提案があるんだけど、レイン・ウォーカーをこのパーティーに誘わないかい?」
「はぁ?」
「さっきも言ったけど、彼はこの国一の剣士だ。戦力としては申し分ないよ。それに報酬の方も問題ないからね」
「報酬が問題ないって何でわかるんだ?」
「いったろ?彼は変わり者だって。彼が望むもの……それは戦いさ」
(戦闘狂かよ。普通にパーティーに入れたくないぞ、そんな奴)
「王墓の深層に行けば強い魔物と戦える上に、君との決闘も叶うんだ。おそらくそれ以上の報酬は求めてこないと思うよ?」
「ちょっと待て。なんで俺があの野郎と決闘しなきゃならないんだ?」
「決闘を申し込まれてたでしょ?仲間にするんなら確実に必須条件になると思うけど」
「そもそも仲間にするとは一言も言ってないぞ」
「ただ同然で戦力が手に入るのに、君は何を言ってるんだい?」
(こいつにとって、俺の決闘はただ同然と言いたいわけか)
決闘で怪我するなどまっぴらごめんだ。
とは言え、王墓攻略用の戦力は多ければ多い程良いのも事実。
現状の5人では流石に心許ない。
帝国一の剣士なら、間違いなく役に立ってくれるだろう。
しかも報酬で揉める可能性が低いのは大きい。
王墓攻略時の最大の報酬は、蘇生薬及びその研究資料だ。
他の報酬をかき集めたとしても、その2つの足元にも及ばないだろう。
蘇生薬と資料を独占する必要がある以上、それ以外の報酬で納得する人間しかパーティーには加えられない。
だからこそ、パーはニカを仲間に入れる事を進めたのだ。
ニカにとっての最大の報酬は遺品となる。
それさえきっちり回収できれば、最終的な報酬で揉めることは無いと判断したのだろう。
「それでどうするんだい?」
「ニカへのフォローの事もあるし。人数は多い方が良いだろうから、まあ賛成しとくよ」
「うんうん、お姉さん物分かりの良い子は好きだよ。じゃあ彼には僕から話をつけておくね」
結局こうなるんだよ。
と言わんばかりのどや顔に少々イラっとするが、ぐっと堪える。
どうもこいつの事は好きになれない。
相性が悪いんだろうか?
「そう言えばパーちゃんが研究するのって、やっぱり亡くなった恋人さんを生き返らせたいからですか?」
「亡くなった恋人ぉ?そりゃ一体何の話だい?」
「え?たかしさんが武器を買った時、一緒に勧められた貴婦人の涙の説明で、亡くなった恋人を思って作ったって?」
「そりゃ只のセールストークだよ。悲しいかな、僕は生まれてこの方ずっと独り身さ」
(だろうな)
そりゃこんな身だしなみに全く無頓着な奴に、恋人なんかできる訳がない。
「君?今失礼な事を考えてなかったかい?」
「気のせいだろ?」
これでもかと言うくらい失礼な事を考えていたが、当然すっとぼける。
世の中伝えなくてもいい事なんて、いくらでもあるもんだ。
「まあいいか。それじゃあ僕は帰るけど、集合は明後日の朝、この宿のレストランスペースで待ち合わせって事で。各自明後日までに必要な物は揃えておく様に」
コップに残っていたオレンジジュースを一気に飲み干し、パーは席を立つ。
「あ、そうそう。ここの支払いは頼んだよ」
「なんでだよ!」
「レイン・ウォーカーと交渉する役引き受けたんだから、それぐらいは出しといてよ。じゃあねぇ」
パーは手をひらひらと此方へと振ってから、その場を後にする。
「うふふふ、完全にしてやられちゃいましたね」
集合が夕食時の樫木邸のレストランだったのはこのためか。
どうやら初めから奢らせる腹積もりだったようだ。
「たかしさん!」
「ん?」
「ケーキお代わりしていいですか!!」
お前はいったいどれだけ食うつもりだ?
当然答えはノーだ。




