第五話:優れた人物には敬称を付けるべきだよね!
今、俺達4人は荷馬車に乗ってコールスという村を目指している。
コーサスから馬で東へ3日程の距離にある村で、村へはドルイドの力を借りる為に立ち寄る予定だ。
ドルイドとは、自然やそこに宿る精霊の力を行使する魔法使いだ。
「姉上、村が見えてまいりました。」
御車台に座るティータが声をかける。
荷馬車は神殿から借り受けており、その手綱はティータが握っている。
「やっと到着か」
荷台には俺とティーエさんが乗っており、彩音さんはこの3日間荷馬車には乗らず、自分の足で走っていた。
彩音さん曰く、荷台に乗りっぱなしだと体が鈍るからだそうだ。
最初は馬の代わりに荷馬車を引くと主張していたが、知らない人間がそれを見ると外聞が悪いということで諦めてもらった。
正直、この3日間の旅は息苦しいものだった。
3日間俺とティーエさんはほぼずっと荷台で2人っきり。
本性を知る前ならうきうき気分だったろう。
しかし知った後だと気まずくてしょうがない。
猫被らなくていいっすよと、何度言おうとしたことか。
周りが性格を把握している状況だと、それに甘えてぼろが出やすくなってしまう。
だから知らない振りをしろ。
そう彩音さんに口止めされた為我慢しているわけだが。
どうも彩音さんは俺にティーエさんのフォローをさせたいようだ。
コミュ障に猫かぶりの手伝いをさせるとか、無茶にも程がある。
そんな分けで息苦しい事この上無かったのだが、そんな状況からもやっと解放される。
俺は1度軽く伸びをし、荷台から顔を出して前方の村を眺める。
前方に見える村は人口2~300人程度の小さな村だ。
(こんな村に本当に名うてのドルイドなどいるのだろうか?)
ティーエさんが言うには、元冒険者で相当力のあるドルイドらしい。
そんな優秀だった人物が暮らすには、目の前に見える村は余りにも慎ましやかだ。
「こんな村にそんな優秀なドルイドがいるんですか?」
思ったことを素直に口にする。
ティーエさんへの質問だったのだが、俺の言葉を侮辱と受け取ったのかティータが怒鳴ってくる。
「貴様!姉上の言葉を疑うか!」
ちょっとした疑問を口にしただけなのに、一々煩い奴だ。
ティータは当たり前のようにパーティーに参加しているわけだが、これにはちゃんと理由がある。
それは3日前の話だ。
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「ドラゴン討伐!?」
驚きから思わず大声を出してしまう。
声を上げてから、ここが宿屋備え付けのレストランである事を思い出し、きょろきょろと周りを見渡す。だが幸い周りの席に人影はなく、どうやら誰にも迷惑はかけなかったようだ。
「ドラゴンってあのドラゴンですよね?それをここに居る4人で討伐するんですか!?」
暇なときに古書屋で魔物に関する本などを読んだ限り、ドラゴンはこの世界においても最強クラスのモンスターだ。
過去には5千からなる軍がドラゴン一匹に滅ぼされた、などという記述もあった程。
それをここに居る4人で倒すなど正気の沙汰ではない。
「まさか。4人ではありませんよ。」
「ですよね、はははは。ちょっと焦っちゃいましたよ。」
「今回はドルイドの方の力をお借りしようと思っていますから、5人ですわ」
ティーエさんがさらりと恐ろしいことを言う。
話を纏めると。
北東にあるカルディメ山脈に古くから住みつくドラゴンが、麓にある村を襲い壊滅させたらしい。
国としては看過出来ない事態ではあるが、ドラゴンはカルディメ山脈の洞窟に居を構えているため迂闊に手が出せない。何故なら、大群で向かえば確実に足場の悪い山道で飛行するドラゴンに襲われる事になるからだ。そんな足場の悪い場所で襲われれば一溜まりもないだろう。
もし仮に迎撃できたとしても、空を飛んで逃げられる可能性が高く。
そうなればドラゴンが報復として再び人の村や町を襲うのは目に見えていた。
その為国は有効な手立てを打てずに手をこまねく。
そんなお手上げ状態の中、手を上げたのがティーエさんだ。
道中の足場の不安定な山道での戦いを避け、飛んで逃げられないよう確実に仕留める。その都合の良い条件を満たす方法はたった一つ。
ドラゴンの塒に少数で奇襲をかける事だけだ。
普通なら絶対無理だろう。
軍にだってそんな奇跡の御業を行なえるような人材ははいない。
だが彼女は自分達ならそれが可能と踏んだのだ。
(たった5人で本当にドラゴンなんか倒せるのか?そもそも俺を頭数に入れるのは無理がある。つまり実質4人で倒すってことか?)
ドラゴンを少数で狩れれば、相当な名声になる。
聖女を目指す彼女にとって、ドラゴン討伐の名声はさぞや美味しく映っていた事だろう。
正直ティーエさんの欲ボケによる誤判断としか思えない。
そんな不安に駆られていると。
俺に様子に気づいたのか、彩音が声をかけて来る。
「ドラゴンの相手は私に任せておけ」
その声に迷いはなく力強い。
どうやら自信があるようだ。
そんな彩音の言葉にティーエさんが続く。
「そういえばたかしさんは御存じありませんでしたね。実は以前、私と彩音さんの2人でドラゴンを倒したことがあるんですよ。まあ正確には彩音さんがほぼ一人で倒した様なものですけど」
(ドラゴンを一人でか……彩音は…いや、彩音さんはほんと無敵だな)
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「ドルイド?ああ、ミス・ウェディングさんか」
(ミス・ウェディング?)
村につき商店のおやじにドルイドの事を尋ねた所、何故か謎の名前が返ってきた。
「ミス・ウェディング?我々が探しているのはフラム・リーアという名のドルイドなのだが?」
「ああ、ミス・ウェディングってのは渾名さ。年がら年中ウェディングドレスを着てるから、周りからはそう呼ばれてるのさ」
「痛い女だな」
ティータが歯に衣を着せずバッサリ切る。
(まあ俺も同意見ではあるが)
「い、いや、まあそうなんだが。一応事情があってね。ミス・ウェディングは2年ほど前に婚約者を亡くされてるんだが、その婚約者が君のウェディングドレス姿を一目見たかったって、そう言い残して亡くなったそうなんだ。それ以来彼女はウェディングドレスを着続けてるって訳さ」
説明を聞いた限り、やはりただのあほにしか思えない。
それとも俺の感覚がおかしいのだろうか?
他の皆はどうだろうと、仲間達を見てみる。
ティーエさんは困ったような顔をしており、ティータは肩をプルプルと震わせている。
(笑いでも堪えてるのか?)
彩音さんに至っては棚の商品をしげしげと眺めており、話自体聞いてない御様子。
仲間の情報ぐらいまともに聞けよ。
勿論、思ってても口には出さない。
「か…」
「か?」
「感動した!俺は自分が恥ずかしい!例え失われても永遠の愛を誓う、そんな素晴らしい女性を痛い呼ばわりしてしまうとは!店主!フラム・リーアさん…いや、ミス・ウェディングの居場所を教えてくれ!今直ぐにでも俺は謝罪しに行かなければならん」
感極まったかのように、ティータが大声で叫び捲くし立てる。
どうも先程ぷるぷるしていたのは笑いを堪えていたのではなく、感動からくるものだったらしい。
(正気か?こいつ)
「ミ…ミス・ウェディングなら村の一番西の2階建ての家だ」
(げ、教えやがった)
気圧されたのはわかる。
けどこんなおかしな奴に女性の家教えんなよ。
感謝するの一言を残し、ティータが店から飛び出そうとするが。
勿論こんなおかしな奴を一人で行かせるつもりはない。
「おい、待て。一人で行ってどうするつもりだ!」
「そんなもの決まっているだろう!先ほどの非礼を詫びるのだ!」
「いやいやいやいや、初対面の人間にいきなり悪口言ってました、すいませんとか謝られても困るだろ」
「誠心誠意謝ればきっと許して貰えるはずだ!」
「そういう問題じゃねぇ!」
(駄目だこいつ)
こいつをどうにか出来るのは一人しかいない。
ちらりとティーエさんを見ると、片手で額を押さえながら俯き溜息をついていた。
「落ち着きなさいティータ」
「み、見苦しい所をお見せして申し訳ありません」
「ねぇティータ、貴方は謝ればそれでスッキリするかもしれないわ。でも、悪口を言われた方はきっと嫌な気分になるはずよ。貴方は陰口を言った挙句、相手の方を嫌な気分にさせたいの?」
「そ、そんなことはありません!」
「ならばその罪と罪悪感を背負って生きなさい。それが貴方のできる唯一の贖罪よ」
「ありがとうございます、姉上。私の過ちを止めてくださる姉上は、やはり私にとって女神のような存在です!」
要約すると余計なことは言わずに黙ってろって事なんだが、シスコンにとっては有難い御神託になるようだ。
「これを売ってくれ」
「まいどあり」
すぐ近くであれだけ騒がしかったにもかかわらず、彩音さんは気にも留めずに買い物をしてる。
(どんだけメンタル強いんだよ)
彩音さんのマイペースさに呆れつつも、俺達はフラム・リーアの元へと向かう。