第五十三話:帝国首都1日目
「おや、新婚さんかい?お熱いねぇ~」
宿の亭主がフラムを見て、ニヤニヤしながら此方をちゃかしてくる。
「全然違う」
当然即座に否定する。
(仮に新婚だったとしても、どこの世界にウェディングドレス着たまま宿探しする馬鹿が居るんだよ)
「なんだ、違うのかい?だったら何でそんな恰好を?」
「余計な詮索はやめてくれ。それよりこの宿はケーキとか置いてるか?」
「あー、うちは基本冒険者用の店だからケーキとかはちょっと置いてねぇなぁ」
「そうか、じゃあ悪いけど他を当たらしてもらうよ」
フラム達を連れて宿を出る。
此処でもう10件目だ。
そもそも王墓周りの宿は遺跡を探索する冒険者向けの宿が殆どであるため、当然ケーキ等の甘味は置いておらず、宿探しは難航している。
「なかなかありませんねぇ」
「ごめんなさい、私の我が儘のせいで…」
「まあ、気にすんな」
とは言え、もうだいぶ日も傾いて来てる。
(リンには悪いが、適当な宿屋で決めてしまうか)
そもそもケーキが食べたいのなら、それ専用の店に食べに行けばいいだけだ。
無理に宿屋に求める条件ではないだろう。
「ねぇお兄さんたち?ひょっとして宿屋をお探し?」
急に声を掛けられたので立ち止まり、振り返ってみると其処には一人の少女が。
黒髪黒目の可愛らしい顔をした少女で、その顔には満面の笑みが湛えられている。
「君は?」
「私は樫木亭の従業員でニカって言います。もし良かったら内にお泊りになられませんか?」
どうやら呼び込みの様だ。
余りこの手の呼び込みは好きではない為、どうした物かと思案に暮れていると相手に先手を取られる。
「内は料理が自慢なんです!バララ蜥蜴の帝国風姿焼きは最高の逸品ですよ!ぜひ泊って行ってください!」
(帝国風姿焼きか、上手そうだな…)
この世界に来る前なら蜥蜴等進められたら憤慨物だったが、この世界での生活がそんな認識を大きく覆らせる。気付けば蜥蜴料理は大好物になっていた。
「ケーキって置いてありますか?」
「え?ケーキですか?う~ん、普段は出してないんですけど、お客さんの御要望とあらば御用意させて頂きますよ。まあ、私の手作りになりますけど」
(自慢の蜥蜴料理にケーキまで付いてくるなら断る手はないか)
「じゃあお世話になるよ」
「まいどあり~」
「リンちゃん手作りケーキだって、楽しみだね」
「はい!とっても楽しみです!」
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「ここが樫木邸になります!」
ニカがオーバーアクションで手を掲げた先には…
「な…なんというか、趣深い建物だな…」
帝都の街並みは道が石畳で整備されており、その建物の殆んどが立派な石造りの物ばかりだ。
そんな街並みの中、違和感をまき散らしながら建つ古びたボロい木造の建物。
それが樫木亭だ。
「あははは。見た目はちょっとあれですけど、内装はしっかりしてますし、料理の味は保証しますから…」
女性二人が嫌がるかと思いリン達の方をちらりと見るが、二人共特に不満な表情はしていない。
(まあ元々エルフは木に囲まれた生活してるし、気にならんのかな)
個人的に見た目より料理を重視するタイプなので、女性陣が気にしないのなら断る理由は無かった。
「まあ、別にいいよ。それより本当に料理には期待していいのか?」
「勿論です!!ささ、皆様それでは此方にどうぞ!」
ニカが玄関に素早く走り寄り、ドアを開け俺達を招き入れる。
(やれやれ、やっと一息付けるな)
帝国1日目 宿探しだけで終わる




