第四十五話:空飛ぶウェディングドレス
「はぁ…」
ぽっかりと大地へと大きく口を開いた空洞を見て、溜息をもらす。
この空洞は、先程まで神樹の立っていた辺りに出来たものだ。
何故?誰が?等は考える必要はなかった。
理由は明白だ。
ヴラドが神樹を呪い、彩音さんが他の木に影響が出る前に吹き飛ばした。
本当に考えるまでもなく、至ってシンプルな答えが導き出される。
「ティーエさん!底の方に人が3人います!ここからだと良く見えませんけど、たぶん彩音さんとリンちゃんと…あれはミノタウロスさんかな?」
フラムからの報告を受け縦穴を覗き込むが、残念ながら底まで見通すことは出来ない。
「ヴラドやたかしさんの姿は見当たらないんですか?」
「あ、はい。3人だけです」
何故かフラムはミノタウロスを人で数える。
ミノタウロスに何か思い入れでもあるのだろうか?まあどうでもいいが。
(ヴラドは彩音さんが倒したとして、なぜ彼が居ないのか…まさか死んだ?いや、たとえ死んだとしても遺体ぐらいは残っているはず)
ここでいくら考えても答えなどでない。
「上から眺めていても仕方ありませんし、下へ降りましょう」
そう提案しティータ、フラム、そして自分の順に聖なる翼をかける。
「わ!なんか背中から翼が生えてきましたよ!」
「その翼で空を自由に飛ぶことが出来ますよ。スピードは余り出せませんが」
凄い凄いと騒ぎながら、フラムが翼で空を飛び回る。
人間には飛行能力が無い為、たとえ翼が生えても簡単に飛び回る事など出来ないのだが、フラムはまるで生まれたときから翼が生えていたかのように自在に操っていた。
この事からフラムの適応能力の高さが伺える。
(言動や服装に難があるけど、やっぱりこの人も優秀よね)
ドラゴン討伐後、彼女に引き続きパーティーに所属するよう打診したのはティーエに他ならない。
諸々のマイナス部分を差っ引いても、使えると判断したからだ。
(しかしフラムさんもハーフとは言え、この森出身のエルフの割に全然元気そうね)
エルフにとって信仰の対象ともいうべき神樹が消し飛んだことで、落ち込むのではないかと少し心配したが、全くの杞憂だったようだ。
「姉上!安全を確認する為に私が先に参ります!!」
「ええ、お願いね。」
「お任せください!」
私の返事を聞くや否やティータが勢いよく穴に飛び込む。
が、威勢のいい言葉とは裏腹に、翼がうまく扱えないのかふらふらと不安定に危なっかしく降りていく。
(ティータも優秀なんだけど、若干不器用な点が問題よね…)
ティータの危なっかしい様子から、安全確認を任すのに不安を感じたので自分も飛び込む。
落下しながら上を見ると、フラムがまだ楽しそうに上空を旋回していた。
その姿が思ったより幻想的で不覚にも見惚れてしまう。
(月とウェディングドレスって結構会うわね…)
私もちょっと着てみたい。
不覚にもそんな気持ちになるティーエであった。




