第四十三話:形勢逆転
「ほざけ!」
叫びながらブラドが突っ込んでくる。
相手ももう気付いているのだろう。その声には先程までの余裕はなく、焦りからか言葉遣いも荒々しいものに変わっている。
この場で迎え撃てば動けないリンに害が及ぶため、私も前に出る。
間合いに入った瞬間、ブラドが爪で私の顔を狙い薙いでくる。
その攻撃をギリギリの所で軽く仰け反って回避し、薙いできた手の袖を引いて相手の体制を崩す。
そしてそのまま体制の崩れた相手の脇腹にボディブローをぶちかまし、続いて相手の横っ面に掌底を入れる。
「がぁっ」
痛みからか相手がうめき声を上げる。
だが、うめき声を上げながらも素早く体制を立て直された為、それ以上の追撃は断念せざるえなかった。
「何故だ!何故攻撃が当たらん!」
「お前の動きはもう見切った」
「なんだと!!」
リンのお陰だ。
最初はリンを庇いながらの戦いに四苦八苦していたが、慣れてくると逆に今まで見えなかったものが見えてくるようになった。
上手くは説明できないが、視野が広がった感じだ。お陰でブラドの動きが良く見える。
もはやブラドの攻撃を真面に受けることはないだろう。
これが私がブラドを敵ではないと言った理由の一つだ。
ブラドは自分の圧倒的不利を悟ったのか、此方を睨みつけたまま動かないでいる。
作戦でも考えているのだろうか?
(時間を与えず攻めるべきか、それとも様子を見るべきか)
窮鼠猫を噛む……これほどの魔物なら何らかの隠し玉を持っていると考えるべきだ。
そう思い慎重に様子を見ることにする。
(相手の状態をチェックしておくか。心眼)
スキルを発動させ相手の残りHPを確認する。
ブラドのHPバーは既に3割を切っており、あと一押しといった所だろう。
リンの活躍もあるが、既に私の攻撃はブラドの負のオーラを貫通している。
もう一つの理由がこれだ。
ブラドの負のオーラにはこちらの気を掻き消す効果がある。
身体能力に自信はあるが、所詮人間の肉体能力だけでは、ブラドのような強靭な化け物相手には殆どダメージが通らない。
その為拳を打ち出しても、気が乗らずダメージを与えられずにいた。
最初はどうしたものかと思ったが、たかしの帰還魔法を手伝ったことで攻略の糸口を掴む。
奴を取り押さえたとき、私の体の中の気は掻き乱されることなく巡っていたのだ。
奴のオーラを全身に受けていたにもかかわらず。
つまり奴のオーラは体の中にまでは影響しないという事だ。
外に出すから無効化される。ならば内に込めればいい。
それまでは外気功を主体に戦ってものを、内気功に切り替えたことでダメージが通るようになったのだ。
(正直内気功はあんまり得意じゃないんだが、これからはこっちもちゃんと鍛えておいた方がいいな…)
同じような能力を持つさらなる強敵が現れた時、苦手で余り鍛えていなかったでは話にならないだろう。
今までの訓練は外気功中心の物だったが、これからの練習メニューを考え直す必要がある。
(いかんな。未来の強敵よりも、今目の前の敵に集中しなくては…)
油断するのは悪い癖だ。
余計な考えを頭から追い出し、集中しなおす。
「認めよう。お前は強い。今のこの私よりも…」
その時、突然ブラドが敗北宣言のような言葉を口にする。
「言っておくが命乞いは聞かんぞ?」
「そんなつもりは毛頭ない」
そう答えた次の瞬間、ブラドの体から凄まじい量のどす黒いオーラが一気に噴出される。
その余りのオーラに気圧され、思わず後ずさってしまう。
だがそのオーラは一瞬で消え、気づくとその手には何か黒い球が握られていた。
「これが私の切り札。呪だ…」




