第三十九話:初めての共同作業
「彩音! 帰還魔法を使うぞ!!」
戦っている二人に聞こえる様に大声で告げる。
2人の動きを止める為だ。
素早く動き回られていたのでは、彩音に意図を伝えることが出来ない。
そして狙い通り2人の動きが止まる。
「やれやれ、無駄だと説明したはずだがね…」
馬鹿にしたようにブラドが呟く。
その態度は完全にこちらを見下しきっていた。
だがそれでいい、警戒されるよりはよっぽどましだ。
「いけ!ミノタウロス!」
ミノタウロスが雄叫びを上げながらブラドに突っ込んでいく。
「奴の動きを止めろ!!」
ブラドの肩越しに見える彩音の目を見ながら、今までで最も大きな声で叫ぶ。
そんな俺の意図に気付いたのか、彩音が俺を見つめたまま小さくうなずいた。
(よし!伝わった!)
直後彩音が動き、ブラドの横を通り過ぎようとする。
が、手首を掴まれ阻止される。
「本気で逃げられると思っているのかね?」
「ぶもおぉぉぉぉぉ!!」
その直後ミノタウロスが雄叫びを上げ、体当たりで吹き飛ばすべくブラドに突っ込む。
「無駄だ!」
体を捩じり、背後から突っ込んでくるミノタウロスを、彩音を掴んでいるのとは反対の手でやすやすと受け止める。
だがミノタウロスを受け止める為、彩音から視線が外れた。
いや視線どころの話ではない、ほぼ彩音に背中を向けている状態と言っていいだろう。
普通に考えればあり得ないが、彩音の攻撃など効かないという傲慢からくる行動だ。
もちろん彩音はそんな大きなスキを見逃さない。
捕まれている左手で相手の手首をつかみ返し、そのまま捩じり上げ、右手を相手の脇の下から突っ込み羽交い絞めにする。
「捕まえたぞ」
「何のつもりだ。動きを封じたところで、あのような牛の攻撃など私には効かんよ」
「だろうな」
言いつつ俺はブラドの胸に掌をつける。
「な!?」
「帰還魔法だ!」
ハーピーに 帰還魔法を発動するよう命じる。
直後俺とブラドの2人の足元に魔法陣か展開される。
一瞬、この状況なら彩音に触って帰還魔法出来るなとも思ったが、リンの事を考えて辞めておいた。
俺と彩音だけが逃げれば、リンは確実に捕らえられてしまうだろう。
帰還魔法後召喚引き寄せを使えば問題ないように思えるが、残念ながら召喚引き寄せの効果範囲は確認していない。
(逃げた後に効果範囲外でしたとか笑えないしな…)
「貴様いつの間に!?」
何が起こったのか理解できずにいたブラドが、狼狽える様に吠える。
置き換え
自身と召喚モンスターとの位置を交換する魔法。
この魔法を使い俺とミノタウロスの位置を入れ替えたのだ。
勿論そんな事を相手に一々説明するつもりはない。
「細かい事は気にするなよ、おっさん」
言い終わると同時に魔法陣が2人を包み込む。
その直後、体から重力が失われ視界が暗転する。
(封印さんちゃんと仕事してくれよ)
そう思った次の瞬間、強い衝撃と痛みが全身に走り俺は気絶した。




