第三話:幼馴染
ゴブリン3匹がウォームを取り囲む。
威嚇をしてくるウォームに対して、眼前の2匹が注意を惹きつけ、その隙に背後をとったゴブリンがメイスを叩きつける。数の利を生かした完璧な布陣と言えるだろう。
ぐちゃっという音と共にメイスが肉に食い込み、裂けた表皮から緑の体液が飛散する。
その一撃が余程効いたのか、ウォームはその場から逃れようともがく。だが取り囲んだゴブリン達がそれを許さず、相手の進行方向を遮りメイスを叩き込む。
これを数度繰り返すうちに、ウォームの動きは鈍り、やがては力尽き魔石へと変わる。
楽勝だ。もはやウォームは此方の敵ではなかった。
少し前までは、あの3匹に混ざって自分もモグラ叩きの様な事をしていたのだが、レベル3で覚えた召喚強化のスキルのお陰で、ゴブリン達だけで問題なく処理できるようになった。
おかげで今は、戦闘に参加せず楽をさせって貰ってる。
やっぱ召喚士はこうでなくっちゃな。
一仕事終え、此方に得意げにやって来るゴブリンから魔石を受け取る。これが今の俺の収入源だ。
見た目は青く薄っすらと光る石ころなのだが、これがこの世界のありとあらゆる物へのエネルギー源となっている。
地球でいう所の石油の様な物だ。
使命を果たしつつ生活費も稼ぐ、まさに一石二鳥だ。
現在俺のレベルは12。この一ヶ月ウォームを狩り続けた成果だ。
臆病。言い変えれば慎重派の俺としては、出来ればこの辺りで20ぐらいまで上げたいと思っていた。
だがレベルが10を超えた辺りから必要経験値が一気に膨れ上がり、かなり上がり辛くなってきた。
(そろそろ次の町を目指すべきか)
コーマの村周辺のモンスターでこれ以上のレベル上げは完全に苦行でしかない。
倒す事自体は楽なのだが、問題があるとすれば索敵の方だ。
倒すのは5分程度だが、見つけるのには1時間以上はかかってしまう。
不眠不休で狩をしても1日20匹程度。
実際はそんな真似は不可能なので、1日5-6匹程度が限度だ。
これでは次のレベルアップがいつになるか分かったもんじゃない。
(目的はモンスター退治であって、レベル上げは副産物の様な物だから急ぐ必要はないんだが)
だがせっかく異世界に来たのに、いつまでも初期村付近で足踏みするのは楽しいものではない。
(来たからには色々な所に行ってみたいよな)
「よし!次の街目指すか!」
目指すとは言っても、歩いて別の町に向かうつもりはさらさら無い。
コーマの村には定期的に物資を運んでくる定期便があり、お金さえ払えば同乗させてもらえる。
その定期便を利用し移動するつもりだ。
当然定期便には護衛がついており、旅の安全が約束されているのが大きい。
移動に当たって問題があるとすれば、移動先の魔物を倒せない可能性がある事だ。
だが幸いなことにレベル10で覚えた召喚モンスターが帰還魔法を使えるため、その場合最悪魔法でコーマに戻ってくればいい。
新たに召喚できるようになったモンスターはハーピー
体長30センチほどの小さなモンスターで、半人半鳥の魔物だ。
体毛の色は鮮やかな赤。
ハーピーは魔法タイプのモンスターで、ファイヤボールやテレポートを扱うことが出来る。
特に帰還魔法のテレポートは重宝することになるだろう。
ただ残念なことにファイヤーボールには大した威力はなく、物理面はそこら辺にいる鳥と大差ないレベルであるため、戦闘力には余り期待できない。
(定期便は明日来るはずだから、今日はもう帰って村を出る準備でもするか。)
▼
準備を済ませ定期便に乗り込もうとしたとき、ふと荷馬車のそばに立つ人物が目に入った。
強い意志を思わせる力強く吊り上がった黒い瞳に、整った顔立ちをした女性。腰まである長い黒髪は根元と先端が紐で結わえられていた。
若干きつめの顔は好みが分かれるところだろうが、間違いなく美人に分類されるだろう。
綺麗な顔立ちに反して、上は青い無地のシャツ。下にはデニム生地のホットパンツに、足元は膝丈までの皮のブーツという飾り気の無い出で立ちだ。
身長は180前後といったところで。肩幅も広く、全体的にしなやかさを感じる筋肉質な体つきをしている。例えるならネコ科の肉食獣の様な体つきだ。
(まあ、胸だけはホルスタインだが)
普通に考えればあり得ない。
しかし見た事のある相手に驚き、ぼーぜんと相手に見入ってしまう。
彩堂彩音
同い年のお隣さん、つまりは幼馴染だ。
異性の幼馴染というと甘酸っぱいニュアンスを思い浮かべる人間もいるだろうが、そういったものは一切ない。これは断言できる。
小学校時代、女だてらにガキ大将だった彩音には毎日のように尻を蹴られた嫌な思い出がある為だ。
中学でクラスが分かれて以降はあまり絡まなくなったため、そういった暴力は無くなったが、今でもその当時の思い出は俺にとって軽いトラウマだ。
相手もこちらに気づいたようで驚いた表情をこちらへと向ける。
「お前? なのか?」
(久しぶりに会った幼馴染をお前呼ばわりかよ)
「どうして彩音がここにいるんだ?」
理由は聞くまでもなく分かっているが、一応念のため聞いておく。
「どうしてって、私はこの荷馬車の護衛としてだ」
彩音はトンチンカンな答えを返してくる。
脳筋なのは相変わらずのようだ。
(何故この世界に居るのかって質問に対して、この村に居る理由を答えてどーすんだよ。)
「彩音もこの世界に召喚されたのか?」
「ああ、そうだ。しかしまさか、この世界でお前と顔を合わせることになるなんてな」
(やっぱりそうか。まあ普通に考えれば俺一人だけなわけないか……しかし、寄りにもよってこいつが来てるとか)
「さっきからお前呼ばわりしてるけど、まさか俺の名前忘れたんじゃねーだろうな?」
「ば、ばかをいうな! 子供の頃から一緒だった奴の名前を忘れるわけがないだろう!」
狼狽えたように答える。
どうやら図星だったようだ。
(昔っから脳筋ぽかったが、まさか中学生になるまで毎日一緒だった俺の名前忘れるとか、どういう脳の構造してるんだこいつは。)
単純に名前を覚える価値のない人間と判断されている可能性もあるが、流石にそれは屈辱的過ぎるので考えないことにした。
「た、たかし……だよな?」
一応覚えていたようだが、名前の後にだよな?と疑問符を付けるのは如何なものかと。
「彩音さん、どうかしたのですか?」
鈴の音のような美しい声が響く。
彩音の後方……そこには天使がいた。
愛らしい顔立ちに、吸い込まれそうな大きな金の瞳。
黒を基調とした修道服に身を包んでおり、胸元にはロザリオではなく白い毛玉をあしらったネックレスがかけられている。
ベールの端から流れ出る髪は黄金の輝きを放っており、その姿はさながら聖女様だ。
(いくらなんでもこの可愛さは反則だろう)
余りの美しさに目が離せない。
鼓動が早まり、顔が熱くなるのを感じる。
生まれて初めての感覚が全身を襲う。
間違いない、これは恋だ。
彩音と聖女様が何かを話しているが、緊張のあまり耳に入ってこない。
(落ち着け。落ち着くんだ…)
このままでは不味いと深呼吸をした所で、ちょうど聖女様が俺に自己紹介してきた。
「初めまして。わたくし、ティーエ・アルバートと申します。どうぞティーエとお呼びください」
(ティーエ・アルバート。綺麗な人は名前まで綺麗なんだなぁ…)
再び鼓動が跳ね上がるが、ぐっとこらえる。
「は、初めまして!! 俺、たかしって言います!!」
心臓が飛び出しそうな緊張感の中、ちゃんと返事を返す事が出来た自分を褒め称えたい気分だ。
「たかしさんも彩音さんと同じく異世界の方なのですね。御二人のような勇気ある方に出会えて、わたくし感激ですわ」
俺がぼーっとしていた間に、どうやら彩音は俺の事をティーエさんに話していたようだ。
(っていうか彩音の奴、当たり前のように俺達が異世界の人間だって事話してやがる。まあティーエさんなら周りに言いふらすような真似はしないだろうから、大丈夫だとは思うが)
もちろん根拠はない。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
「私は今ティーエと組んで旅をしてるんだが、丁度いい、たかしも参加しろ。」
ふざけるな! 誰がお前なんかと!
と言いたいところだが、ティーエさんがいるなら話は別だ。
「ああ、よろしく頼む」
これから楽しい旅になりそうだ。
そう考えるとついつい頬が緩み、にやついてしまう。
(いやぁ、恋って素晴らしいなぁ。)