第三十八話:帰還魔法
「なに!馬鹿な!」
ヴラドが驚いたようにこちらを見る。
どうやらリンの支配権が失われたことに気づいたようだ。
「馬鹿は貴様だ!」
彩音はヴラドの隙を見逃さず回し蹴りを顔面にぶちかます。
しかし彩音の回し蹴りが綺麗に決まったにもかかわらず、ブラドは吹き飛ぶ事なく仰け反り堪える。
そしてその状態のまま足を掴み、彩音を出口とは反対方向へ投げ飛ばした。
やはり彩音の攻撃は殆ど効いていないようだ。
「どうやら君たちの事を少々見くびっていたようだな…」
「へっ。これでいつでも逃げ出せるぜ!」
大声で逃亡宣言などかっこ悪い事この上ないが、これで少しでもヴラドを動揺させられるなら御の字だ。
「逃げたいなら好きにすればいい」
「何!?」
「帰還魔法の概要はリンを通して既に把握している。直接触れている相手にしか効果が無いのだろう?ならば君を彼女に近づけさせなければいいだけだ。違うかね?」
ヴラドがさもおかし気にこちらに語り掛けてくる。
(確かに俺の能力じゃ二人の戦いに割って入るのは無理だ…)
能力差が激しすぎてちょっとした隙を作る事すら難しいだろう。
「ごめんなさい。私のせいで…」
「大丈夫だ。何とかなるって」
笑いながらリンの頭を軽くポンポンと叩く。
勿論ただの気休めだ。
今のままでは勝ち目は薄い。
ドラゴンに止めを刺したあのでたらめな大技なら、ブラドを倒せるかもしれない。
しかしこれだけの接戦で、あんな大技を使う隙が出来るかは甚だ疑問である。
何か手を打たなければ不味いのだが…
(帰還魔法以外できる事ってないんだよなぁ…)
雑魚相手ならそこそこ戦えるようにはなったが、結局ボス戦ではたいして役に立たない我が身が恨めしい。
ちらりとリンの方を見ると、不安げにこちらを見つめている。
死んでヴァンパイアになっただけでも辛い事だろうに、この上自分のせいで死人が出るような心の傷を負わせるわけにはいかない。
リンの為にも全員で生き延びなくては…
(だがどうする?彩音に接触するのは無理だ。何とか彩音に封印の外に自力で出てもらうしかない。そのために俺が出来る事は……ん?封印?)
ブラドは封印によってこの場所から出る事は出来ない。
それは即ち封印の力がブラドを上回ってるという事だ。
(彩音に近づくのは無理だ。けど、ブラドになら触れられるんじゃないか?ブラドもまさか自分が対象になるとは思っていないはず…)
帰還魔法でブラドを無理やり封印から引きずり出す。
強力な封印にぶちかましてやれば、ダメージを与えられるのではないだろうか?
(大ダメージを与えられれば良し。駄目で元々だ、やってみる価値はある)
倒すのは難しいだろうが、彩音逃走の隙を作れれば十分だ。
(問題があるとしたら、封印をスルーしてブラドを外に連れ出せてしまった場合だな…)
邪悪な意志と強大な力を持つ魔物を自由にする。
下手をしたら歴史に名が残るレベルの大戦犯だ。
(とはいえあんな化け物を封印してるぐらいだ、俺の帰還魔法素通しってことはないだろ…)
確証はない。
だがこのまま彩音がやられるのを指をくわえて見ている分けにもいかず、意を決しハーピーとミノタウロスを召喚する。




