第三十四話:ヴァンパイア
「きゃあああ」
悲鳴を上げながらリンが吹き飛ぶ。
「ほぇ?」
何が何だか分からず、思わず変な声が口から洩れてしまう。
「大丈夫か」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには彩音が。
「え?彩音?え?何で?え?」
何が起こっているのか全く分からず、混乱しておろおろと彩音と倒れているリンを交互に見やる。
「落ち着け」
「落ち着けってお前、何でここに居るんだ!?っていうか…リンを吹き飛ばしたの、お前か?」
「ああ、そうだ」
悪びれた様子もなく彩音は答える。
「な!?いったい何考えてやがる!!」
「落ち着け。あのリンって娘はエルフじゃ無い」
「は?何言ってるんだ?」
「ヴァンパイアだ」
(鍛えすぎて頭がついにおかしくなったのか?)
突然現れたと思えばリンを吹っ飛ばし、挙句にヴァンパイア呼ばわりする。
とても正気の沙汰とは思えない。
倒れたままのリンが心配になり駆け寄ろうとするが、彩音に制される。
「お前!いい加減にしろよ!」
「たかし、もう一度言うぞ。あの娘はヴァンパイアだ」
彩音がゆっくりと言葉を紡ぐ。
目を見ると、彩音の目は本気だ。
澄んだ真っすぐな瞳。その眼に嘘はなかった。
「本当なのか?でもマーサさん達はリンをエルフの仲間として扱ってたぞ」
「ヴァンパイアは眷属を生み出す魔物だ。おそらく里を出た後に眷属へと変えられてしまったんだろう」
「そんな馬鹿な…」
信じられない気持ちでリンの方を見ると、いつの間にか立ち上ってこちらを見ていた。
その顔に表情はない。
いつも表情豊かだったリンの顔に、今は一切の表情が浮かんでいないのだ。
(まさか本当に…)
信じたくはない。
だが、今の異様なリンの様子から信じざるを得ない。
「いつまで隠れているつもりだ!さっさと姿を現せ!」
彩音が大声で叫ぶ。
その彩音の声に答えるかのように、部屋の中心部から落ち着いた声が返ってきた。
「ふふふ、これは失礼。貴方が現れた時点で姿を現しても良かったのだが、彼が随分と混乱していたようなのでね」
魔法陣の中央。
いつの間にか白髪の初老の男性がそこに立っていた。
黒の燕尾服を身に纏い、その上から黒いマントを身に着けた初老の男性。
映画などで良く見たそのままの出で立ちだ。
「初めまして。私の名はヴラド・バレス。もうお気づきだとは思われるが、この地に封印されている哀れなヴァンパイア。それが私だ」
(こいつが20年前に封印されたっていうヴァンパイアなのか…)




