第三十二話:不吉な予感
(くそっ。追いつけねぇ)
リンを連れ去ったワイバーンを追跡しているが、まるで追いつけないでいる。
他のワイバーンに発見されないよう森すれすれを低空飛行している事と、俺がしがみ付いているせいでガーゴイルが思ったように飛べないためだ。
もっとも追いついたところで、俺がしがみ付いている状態のガーゴイルではワイバーンと戦うのは厳しいだろうが。
(あのワイバーンは神樹を目指してるのか?)
前方を飛ぶワイバーンは明かに神樹へと向かって飛んでいる。
あまり考えたくはないが、餌としてリンを巣に持ち帰るつもりなのだろう。
(神樹の幹でガーゴイルを再召喚して、挟み撃ちにするべきか……)
少し前から経験値が一切増えていない事から、先程の大群との戦闘はすでに終わっている事がわかる。
だが先程のような大群が再び押し寄せてきた場合、一匹では防ぎきれない。
フラムに期待するという手もあるが、流石にそれでは無責任すぎるだろう。
場合によっては2匹目を呼び出すことになるかもしれないが、それは出来れば最後の手段にしたい。
(このまま追うしかないか。それに、空中戦をするより相手が巣に戻った所を襲った方がいいな)
下手に空中戦を仕掛ければ、リンが地面に叩きつけられる恐れがある。
ワイバーンが巣にリンを降ろしてからの方が安全だろう。
(頼むから、巣に着いたとたんリンをガブリとするのはやめてくれよ)
結局大して差を縮められないまま、ワイバーンはもう神樹の目の前まで迫っていた。
するとワイバーンが急に高度を落とし、神樹の根元辺りへと降り立つ。
そしてそのまま走って神樹の根元へと消えていく。
(根元に巣があるのか)
ガーゴイルも後を追い神樹の根元に降り立つ。
上からでは見えなかったが、その眼前には洞窟がぽっかりと口を広げていた。
(こんな所に洞窟?)
嫌な予感がする。
(そういえば、神樹の下にはヴァンパイアが封じられたダンジョンがあったよな?ワイバーンはそんな所を巣にしてるのか?)
そもそも本当に巣なのだろうかと疑念が湧く。
(いや、今は余計な事を考えている場合じゃない。とにかくリンを追いかけないと)
状況を考えれば悠長に考え事をしている場合ではない。
ガーゴイルを戻しサーベルタイガーを召喚。
洞窟はそこそこの広さはあるが、飛んで進める程の広さはないからだ。
俺は素早くサーベルタイガーの背に乗り、中へと突入する。
バンパイアが封印されているという洞窟へ……




