第三十話:追跡
エルフは自然を愛し、森と共に生きる種族。
森での活動を得意としており、障害物だらけの森の中でもまるで平地のように駆ける。
そのためエルフを森で追いかけるなど、人間には至難の業だ。
はぁはぁと息が上がり、苦しさで足が止まりそうになる。
(心臓が破裂しそうだ…)
木々の密集する森を走り抜けるのは想像以上に辛く。
枝にぶつかり根に足を取られ、とてもではないがスピードが出せない。
飛び出していったリンを咄嗟に追っては来たものの、追いつくどころか完全に見失ってしまう。
(ガーゴイルを呼び出して空から追うべきか…)
敵の数は多かったが、二匹いれば十分対処できるはず。
一匹位呼び寄せても問題は無いだろう。
ガーゴイルにしがみ付き、空から追えば追いつく事は容易い。
だが空を行けば高確率でワイバーンに発見される事になる。
確かにガーゴイルは強いが、自分がしがみ付いている状態では流石に戦えない。
そして、戦えない状態で敵に発見されるのは最悪の状態と言っていいだろう。
二匹呼び出せば安全に追跡する事はできる。
しかしそれは担当していたエリアを放棄するに等しい。
リンを守りたいとは思う。
だが自分勝手に飛び出して行ったリンの為に、フラムや他の者たちを危険に晒すわけにはいかない。
(くそっ。どうすりゃいいんだ…)
敵に発見されるリスクを冒してリンを追うか迷っていると、悲鳴が前方から聞こえてきた。
(リンの声だ!!)
ふらつく体に鞭打ち悲鳴の聞こえた方へと駆ける。
(無事でいてくれ!)
駆けつけると、そこにはワイバーンが。
飛行を得意とするワイバーンが何故森に降り立っているのか疑問に思ったが、その答えはすぐに分かった。
何故ならワイバーンの手にはリンが握られていたからだ。
「な…」
最悪の事態に思わず動きが止まってしまう。
ぱっと見大きな外傷は見当たらないが、ワイバーンの手に握られているリンはピクリとも動かない。
「リン!!」
大きな声で呼びかけるが、やはり反応は帰ってこない。
声でワイバーンがこちらに振り返り、目が合う。
次の瞬間ワイバーンは口元をまるで笑うかのように歪め、そして空へと飛び立っていった。
「召喚引き寄せ!」
召喚引き寄せ
召喚モンスターを瞬時に自分の元に引き寄せる魔法だ。
スキルで呼び寄せたガーゴイルにしがみ付き、リンの後を追うよう命じる。
(逃がすかよ!)
命令を受けたガーゴイルは即座に飛び立ち、リンを攫ったワイバーンの後を追う。
(リンはすでにもう…)
そんな考えが一瞬頭を過るが振り払う。
(リンは生きているはずだ。そうでなければワイバーンはわざわざ連れ去ったりしないはず…)
正直希望的観測に過ぎないが、それでも生きている可能性がある以上、放っておくわけにはいかない。
(頼む!生きててくれ)




