第二十八話:神樹
神樹
エルフの森を守ると言われる神聖なる大樹。
だが、今やその大樹もワイバーン達の住処になってしまっている。
20年前勇者の手によってヴァンパイアが封印されて以降神樹周辺は禁忌とされ、エルフ達が神樹への接近を避けた結果、ワイバーンの大増殖を許してしまったのだ。
(まあヴァンパイアにエルフの半数以上殺されりゃ、いくら封印されてるからって近づきたくはないわな)
20年前のヴァンパイアの残した爪痕は深く、未だエルフたちを苛み続けている。
(それにしても凄い数だ…)
ワイバーンの数を確認する為にフローティングアイの千里眼を使ったが、とてもじゃないが数えきれない。
千を超えてはいないだろうが確実に数百匹はいるだろう。
今回の作戦はエルフ総出で行われ。
まずワイバーンの嫌う音を使って神樹から引き離し、神樹をぐるりと大きく取り囲むように配置した部隊で迎撃する。
至ってシンプルな作戦だ。
ワイバーンとの戦闘の際には、誤って神樹へ攻撃が向かないよう厳命されていた。
エルフ達にとってヴァンパイア復活こそが最も恐れる事態であるため、神樹を傷つけないよう作戦は細心の注意をもって行われるのだ。
参加するエルフの数は総勢600名ほど、数ではワイバーンに劣ってはいないが個々の能力では決して届かない為、戦闘能力の差を如何に連携で埋めるかが重要になる。
さらには、戦闘が始まればワイバーンの火球による火災への対処も同時に当たらなければならない為、かなり厳しい戦いになると予想される。
(何で3人だけなんだよ…)
戦闘は部隊単位で行われ、1部隊2-30人程度に分かれて配置されている。
のだが……
自分の周りにはリンとフラムしかいない。
(一人頭十人分の仕事しろってか?)
ただの村人と比べて10人分なら簡単だ。
だが、戦闘に参加するエルフの大半はレンジャーやドルイドの能力を取得している。
戦闘要員10人分の仕事は流石にきつい気がするのだが…
「も、もうすぐですね…」
リンの声が上ずっている。
いつも元気いっぱいのリンも、流石に緊張しているようだ。
「リンちゃんあまり無理しないでね」
それに比べてフラムは全く緊張している様子がなく、笑顔を浮かべてすらいる。
格好も当然いつものウェディングドレス姿だ。
落ち着きいつもと変わらぬ様子のフラムを見て、素直に尊敬する。
(直に戦闘が始まる)
既に戦闘準備としてガーゴイルを3体召喚しており、強化魔法もかけてある。
後はこの3体に頑張って貰うだけだ。
「たかしさん頼りにしてますから」
フラムが信頼しきった表情で声をかけてくる。
「ああ、まかせてくれ」
今更泣き言を言っても始まらないので、期待に応えるべく返事を返す。
(どうか上手く行きますように…)
不安を紛らわすべく、手のひらに人差し指で人と書き込み。
それを飲み込む。
いや、飲み込もうとしたその直後。森全体を揺るがすような大きな低い音が響き渡り、中断される。
(戦闘開始の合図だ)
遂にワイバーンとの戦いが始まる。




